「残すな」と言われていた子どもの頃の記憶。会食恐怖症を経験した管理栄養士が語る食事の本質|経験談
『外食がこわい 会食恐怖症だった私が笑顔で食べられるようになるまで』(はちみつコミックエッセイ)作者のなつめももこさんへのインタビュー後編です。会食恐怖症の直接の原因ではないものの、小さい頃、お父さんから「残すな」と強く言われた経験が記憶に残っているなつめさん。管理栄養士でもあるなつめさんに、「完食が正解」という風潮についてのお考えを伺いました。会食恐怖症で悩む人が周りにいたときに周囲の人ができることについてもお話しいただきました。
「完治」はしていないと思う理由
——回復の過程で、周囲の対応で助かったことはありましたか。
漫画の中では、会社の先輩に症状を打ち明け、フォローしてもらったり、「大変だね」と声をかけてもらうシーンがあるのですが、実際は周りの方に言えませんでした。お医者さんしか知らなかったので、実際には周囲の対応で助かったことはなかったです。
今は漫画として公開もしているので、周りの方は私の過去の症状を知ってくれています。どこか出かけるときやご飯を食べるときに、「この店は大丈夫?」「食べない方がいいかな」と気にかけてくれる人も多いです。
当時も打ち明けておけば、「こういうお店はしんどいかな」「ご飯なしで会おうか」と言ってくれたと思うので、打ち明けた方がよかったと思います。
——今現在も会食が難しいと感じる日があるなど、症状に波があるのでしょうか?
最初に症状が出てから、あまり気にせず、みんなと同じように会食できるようになって、「通院を終わりにしましょう」と言われるまでが約10年だったのですが、その後完全に治ったかと言われると、ぶり返してしまうような感覚は少しあります。
会食恐怖症の症状が出る前のように、何も考えずに食べたり電車に乗ったりできるのかと言われたら、そうでもないんです。
先生に教わったように、ゆっくり呼吸するのを意識してみたり、「前回も楽しく食事できたから今回も大丈夫だよね」とポジティブに考えることをしておかないと、不安が蘇ってしまうような感覚は今でもあります。
あとは会食恐怖症の症状が落ち着いてから、潰瘍性大腸炎になり、油っこいものや香辛料、辛いもの、冷たいものでお腹を壊すようになってしまいました。なので、別の点でも外食に気を遣わないといけなくなってしまったんです。
会食恐怖症の症状に加えて、お腹を壊さない食事であったり、お腹が痛くなってしまったときに、すぐにお手洗いに行けるかなど、そういった意味でも外食が不安になることがあって、会食恐怖症が完全に治ったかと聞かれると判断が難しいところがあります。
完食するのが正解?
——今でも「完食が正解」という風潮が残っていると思います。なつめさんは管理栄養士でもありますが、子どもに無理に食べさせることについて、専門家としての視点と、ご自身のご経験を踏まえてご意見をお伺いできればと思います。
管理栄養士としても個人としても、食事の時間は、栄養補給のためだけではなく、楽しい時間であってほしいと思っています。
家族の団らんの時間だったり、1人で食べるにしても、1日頑張った自分へのご褒美になったり、食べることがただの栄養補給ではなく、「おいしい」「嬉しい」と感じられる時間であってほしいです。
「全部食べろ」「好き嫌いをするな」とばかり言われていると、食べること自体が苦痛な時間になってしまいます。確かに全部食べることは大切ではあるのですが、それ以上に楽しく食べることの方が重要だと思います。
管理栄養士の勉強でも、栄養素のバランスや、全部食べることでバランスが良いことなどをもちろん教わるのですが、同じように食事の楽しさを大事にしてもらうことも管理栄養士のプログラムに入っています。バランスよく食べることと同じくらい、楽しく食べることも大事ということを知っていただきたいです。
——なつめさんはお子さんもいらっしゃるのですよね。お子さんに「食べてほしい」と思うときもありそうな気がしますがいかがでしょうか。
5歳の娘がいますが、食べてほしいと思うことはあります。ただ、食べない子には、その子なりの食べない理由があることを娘から学びました。
娘は食べるスピードがすごく遅くて、30分から、長いときは1時間かけて食べるときがあるんです。
私も朝など忙しいときは、「食べておいてね」と言って、隣の部屋の掃除機をかけたり、歯磨きを済ませてしまっていたのですが、その後も全然進んでいないので、娘に話を聞いてみたんです。
そうしたら「私が食べているときに、お母さんがすぐにどこかに行っちゃうのが寂しいから食べたくない」と言われたんです。
——食べない理由にも色々あるのだと学びになります。とはいえ、長時間ずっと隣にいるのも大変ですよね。
そうですね。私も最初の30分くらいはずっと隣にいるので、「そんなに時間がかかるなら、もうごちそうさましてくれた方がいいのにな」と思うこともあるのですが、「お腹いっぱい?」と聞くと、「まだ食べる」と言うんです。
じゃあ食べておいてね、となって、家事をしていたのですが、娘にとっては私の関心が娘から家事に移ってしまうのが悲しくて、だんだんと気分が落ちてしまって食べられなかったようです。それで「じゃあ次はどれを食べる?」と話しかけていたら、パクパク食べ始めたんです。
食べないのにはきっと理由があるんですよね。娘のように「一人が寂しい」という理由のほかにも、テレビが気になるとか、食事より早くおもちゃで遊びたいとか、もしくは、本当にお腹がいっぱいで「ごちそうさま」と言いたいけれど、「全部食べなさい」と言われているから無理をしているとか、もちろん嫌いなものがあって、箸が止まっている子もいると思います。
なぜ食べられないのかというところに、大人が気持ちを向けてあげることが大切だと感じた出来事でした。
周囲の人は本人の話を聞いてみて
——会食恐怖症で悩んでいる人が周りにいたとき、周囲の人にできることはありますか?
人によって症状の出方や、大丈夫なこと、つらいことが違ったり、その人自身でも症状が落ち着いている時期と、不安定な時期と波があったりします。どうしてほしいかは人によって違うので、本人に聞いてみるといいと思います。
「気にしなくていい」「気にしすぎだよ」といった言葉で励ますつもりでも、相手にとっては、「そっか、気にしすぎか」とホッとする方もいれば、「全然気持ちをわかってもらえない。この苦しみはきっと誰にも理解されない」と受け止める方もいらっしゃるかもしれません。
なので、メッセージを届けるよりは、その人が発したことをそのまま受け止め、「こういう症状が苦しい」と言われたときに、「そうなんだね」と聴いて、そのうえでどうしたらいいかを質問してみるといいと思います。
——よかれと思って誘うのを控えてしまうこともあると思いますが、人によって症状が違ったり、時期によって症状の波があったりするので、聞いてみることも大切なのでしょうか。
そうですね。テラス席なら大丈夫とか、ピクニックみたいな開かれた場所での飲食なら行きたいとか、回転寿司のように、量を調節できるお店なら行けるとか、もしくは家で食べるのは平気という話も伺います。
「会食できるようにトレーニングがしたいから、フードコートに行くときに横に座っていてほしい」という方もいらっしゃれば、反対に「今は外で食べること自体がつらいから、しばらくは誘わないでもらえると助かる」という人もいらっしゃるでしょう。
「会食が怖いのだから、誘わない方が相手のため」と決めつけてしまうと、それはそれで孤立感があると思います。一人ひとり望むことや状況は違うので、聞いていただけるのが一番かと思います。
【プロフィール】
なつめももこ
イラストレーター/ライター/管理栄養士
アラサーで4年制の専門学校へ進学し、30代で管理栄養士の国家試験に一発合格する。
管理栄養士としてのキャリアを積み、出産を機に管理栄養士の資格を活かせるライターへ転身。
趣味のイラストをSNSで発信していると、なぜかイラストの仕事が舞い込みイラストレーターとして活動を始める。
2025年8月、自身の会食恐怖症の経験を描いたコミックエッセイ『外食がこわい会食恐怖症だった私が笑顔で食べられるようになるまで (はちみつコミックエッセイ)』を発売。
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