【人は実際に眠りに「落ちる」】入眠は緩やかでなく脳に明確な転換点があると判明
人は徐々に眠りに移行していくのではなく、脳が転換点を越えた後に急速に睡眠へ移ることが明らかになった。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンとサリー大学の研究者は、数千人のボランティアから取得した脳画像を解析し、入眠の約4分半前に脳波の活動が急激に変化することを明らかにした。脳が眠りの転換点に近づく過程を捉えることで、運転中の眠気の早期警告や事故防止への活用、新たな診断法の開発、入眠障害の適切な治療につながる可能性がある。
眠りへの明確な転換点を発見
研究チームは、脳波計で得られた複数の脳活動の特徴を数学的にまとめ、就床から入眠までの変化を「軌跡」として可視化した。そして、脳が眠りにどれだけ近づいているかを示す「睡眠距離」という指標でその変化を追った。
集団全体のデータでは、この睡眠距離は入眠直前まで比較的安定していた。しかしこの距離が入眠の数分前に急激に縮み、従来の入眠判定より約4分半前に、脳が睡眠状態へと急速に切り替わる分岐的転換点が現れることがわかった。なお、転換点の数分前には、脳の反応が鈍くなるなど、急激な変化の前にみられる典型的な兆候も観測された。
「入眠は徐々に進むのではなく、はっきりした分岐点を経て起こり、その転換点を予測できることを発見しました。個々の脳がどのように眠りに入るかを追跡することは、睡眠への理解を深め、入眠に苦しむ人々のための新たな治療法開発に大きく貢献します。」と研究責任者のニール・グロスマン氏(インペリアルカレッジ・英国認知症研究所)は述べた。
視覚系から順に進む入眠
この入眠における分岐的な変化の仕組みは、まず一般市民を対象とした大規模データで確認され、その後、実験室で条件を統一した若年者のデータでも、267日間にわたって同じ結果が確認された。
どちらのデータでも結果は安定しており、脳の後頭葉(視覚をつかさどる部分)が前頭葉(計画や意思決定をつかさどる部分)より先に転換点に達することがわかった。つまり、まず視覚系の活動が落ち着き、その後に脳全体が眠りに移っていく。手術室や回復室の観察では、こうした睡眠への移行を追跡することで、既存の医療におけるモニタリングや適切な介入に役立つ可能性がある。
後頭葉の脳波では入眠までの距離が大きく、この距離が大きい部分ほど先に眠りに移る傾向が見られた。さらに、転換点のタイミングは、入眠にかかる時間とは関係がないことも示された。
睡眠理解と医療への応用
入眠直前の脳活動の変化は予測可能である。各人の脳活動を1晩だけ学習させたモデルでも、それ以降の夜の入眠過程を1秒ごとに追跡でき、平均95%の精度で「睡眠距離」の変化を再現できた。転換点も平均約49秒の誤差で推定できる。つまり、たった1晩分の脳活動の記録だけで、以降の夜の入眠過程をほぼ正確に予測できる。
従来の入眠の判断は、短い脳波記録を人が手作業で評価しており、覚醒と睡眠の境目では判定がぶれやすかった。しかし、今回見つかった生理学的な転換点を利用すれば、より明確に入眠のタイミングを示すことができる。
この知見は健康な睡眠の理解を深めるだけでなく、不眠症や過度の昼間の眠気といった睡眠障害の診断や治療にも役立ち、運転者の眠気を警告する技術の開発にもつながる可能性がある。また、麻酔状態をより正確に把握できる方法や、脳の健康状態を示す指標としての活用も期待されている。
出典
https://www.imperial.ac.uk/news/270894/falling-asleep-follows-brain-tipping-point/
https://www.sciencealert.com/brain-scans-reveal-surprising-tipping-point-minutes-before-we-fall-asleep
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