「なんだか地に足がつかない」「漠然とした現実感のなさ」は不安やトラウマと関連?心理師が教える「固有受容感覚」
「なんだか地に足がつかない」「自分の身体なのに、どこか他人のよう」といった現実感のなさ等の感覚と関連する「固有受容感覚」。今回は、その感覚が、いかに私たちのメンタルヘルスと深く結びついているかを解説します。
「固有受容感覚」とは?
「なんだか地に足がつかない」「自分の身体なのに、どこか他人のもののよう」。そんな漠然とした現実感のなさに悩まされたことはないでしょうか。多くの人がそれを「気の持ちよう」と考えがちです。しかし、神経科学の分野では、その感覚は「身体のGPS」とも言えるセンサー「固有受容感覚(プロプリオセプション)」に関係している可能性が指摘されています。これは、目で見なくても「自分の手足が今どこにあるか」「どれくらいの力で動いているか」等を脳に伝える、筋肉や関節にあるセンサーのことです。この「身体の地図」が正常に機能して初めて、私たちは「自分は確かにここに存在する」という安定した自己意識を持つことができます。
不安と「身体地図のズレ」:最新の研究から
まず、固有受容感覚と「不安」の関係です。近年の研究では、不安傾向が強い人ほど、この固有受容感覚の精度が低い、つまり「ズレ」ていることが示されています。例えば、目隠しをした状態で「自分の手が今どこにあるか」を正確に指し示すようなタスクで、不安が強い人ほど実際の身体の位置と認識のズレが大きくなります。これは、不安な状態では脳が身体からの位置情報をうまく処理できず、「脳内の身体地図」がバグを起こしている状態と言えます。この「ズレ」こそが、「守られていない」という漠然とした不安感や、「地に足がつかない」フワフワとした感覚の正体の一つかもしれません。
トラウマが「身体のセンサー」を切り離すメカニズム
不安が「ズレ」だとすれば、トラウマ(心的外傷)は「切断」と表現できます。生命の危険を感じさせるような強烈な体験をした時、私たちの脳と身体は、その圧倒的な苦痛から心を守るために、感覚をシャットダウンすることがあります。これは「解離」と呼ばれる防衛反応の一つです。この時、固有受容感覚も意図的にオフにされます。身体の感覚を麻痺させ、いわば「身体から心を切り離す」ことで、その場を生き延びようとするのです。しかし、この「切断」がクセになると問題が起きます。危険が去った後も、身体のセンサーがオフのままになった結果、現実感が失われ、身体は「安全な今ここ」ではなく「危険だった過去」に留まり続けてしまいます。これが、トラウマからの回復を難しくする一因となります。
マインドフルネス:「身体の地図」を再起動する
では、この「ズレ」や「切断」をどうすればよいのでしょうか。その答えは非常にシンプルです。「身体の感覚に、意図的に注意を向けること」です。これはまさに「身体感覚へのマインドフルネス」です。不安やトラウマによってズレ、オフになっていた身体のセンサーを、「今、ここ」で意図的に「オン」にし直す作業です。例えば、
・足の裏が、床や地面に触れている「圧」や「感覚」を感じる。
・手のひらをゆっくりとこすり合わせ、その「感触」に集中する。
・両手を組んで強く押し合い、筋肉の「緊張」を意識する。
これら(グラウンディングとも呼ばれます)は、単なる気休めではありません。固有受容感覚を意図的に刺激し、脳に「あなたは今、ここに、確かに存在します」という物理的な安全信号を送り込む行為です。これは、「身体の地図」を修正する、再調整のための作業です。心の平穏を取り戻すために、まずは身体の「位置確認」から始めてみるのはいかがでしょうか。
参考文献:
Huff, N. C., & Lighthall, N. R. (2025). The effect of anxiety on postural control in humans depends on visual information processing.
Van der Kolk, B. A. (2014). The body keeps the score: Brain, mind, and body in the healing of trauma.
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