【50歳の時の握力が70歳の時点での健康を左右する可能性】最新研究が示す中年期の筋力と寿命の関係とは?
握力は単に筋肉の強さを測るだけでなく、早期死亡のリスクを予測する健康指標となる可能性が示唆された。
中年期の握力の強さが、将来の健康状態や寿命に影響する可能性があることが、アメリカのペニングトン生物医学研究センターによる大規模研究で明らかになった。
握力が示す「将来の健康リスク」
研究チームは英国バイオバンクのデータを用い、40歳から69歳の男女9万3275人を平均13.4年間追跡した。対象者はBMIや体脂肪率、ウエスト周囲径が高い一方で、糖尿病や高血圧などの肥満関連疾患をまだ発症していない「前臨床的肥満」と呼ばれる状態にある人々だった。研究では握力と病気の発症、進行、死亡との関連を調べた。
握力が強いほど病気や死亡のリスクが低下
解析の結果、握力が平均よりおよそ11.6kg強い人では、最初の疾患を発症するリスクが約14%低かった。1つの疾患から複数の疾患へ進行するリスクは8%低下し、複数疾患を抱えた後に死亡するリスクは13%低下した。研究開始時(平均年齢50代半ば)の握力は、将来の健康状態を示す指標として非常に有効であることがわかった。実際に、握力の強さで3グループに分けて10年以上追跡したところ、顕著な差が見られた。最も握力が強い群は最も弱い群に比べて、初めての疾患を発症するリスクが20%低く、複数の疾患に進行するリスクが12%低く、死亡リスクは23%低かった。中年期の人にとって、これらの数字はその後の10年以上の健康状態に大きな差となって表れる。握力が強い人は、将来的に自立や移動能力を制限する慢性疾患を避けられる可能性が高かった。
筋肉がもたらす生理的な保護作用
なぜ握力が健康を反映するのかについては、生理学的な背景があるとされる。筋肉は「マイオカイン」と呼ばれるホルモン様物質を分泌し、炎症を抑制したり血糖や脂質の代謝を改善したりする働きを持つ。握力が強い人ほど炎症マーカーであるCRPの値が低く、血糖や脂質のコントロールも良好な傾向が確認されている。さらに一部の参加者では全身の骨や筋肉、体脂肪量を測定する検査などが実施され、握力が全身の筋肉量をよく反映していることが確認された。
握力を新たな健康指標として期待
従来の肥満対策ではBMIが主な指標として使われてきたが、BMIは体重と身長の比率から算出されるため、筋肉量と脂肪量を区別できないという欠点がある。筋肉の多い人が肥満と誤って判断される一方で、筋肉が少なく体脂肪が多い人が見過ごされることもある。握力はこうした限界を補い、より直接的に代謝や身体機能の状態を反映する。測定も簡単で安価なことから、研究チームは今後、定期健診などで握力測定を取り入れることにより、肥満関連疾患のリスクが高い人を早期に見つけ出すことが可能になると指摘している。
この研究は観察研究であり、握力を鍛えることで病気を防げると直接的に証明したわけではない。握力の低さが健康状態の悪さを示すのか、握力を鍛えることで健康状態が改善するのかは、今後の研究で明らかにされる必要がある。また、英国バイオバンクの参加者は白人が多く、比較的健康意識の高い層に偏っていることから、他の人種や異なる生活環境を持つ人々に同じ傾向が見られるかどうかは不明だ。それでも、今回の結果は、筋力の維持が加齢に伴う健康状態の悪化を防ぐ上で重要であることを改めて示している。40代から60代のうちに筋力をしっかり保つことが、その後の10年以上の健康状態に大きな影響を与える可能性が示されており、握力は血圧や体重と同様に予防医療や健康診断の指標として注目されている。
出典
https://studyfinds.org/handgrip-strength-may-determine-health-at-70/
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く






