時間のゆとりが、身体感覚を取り戻す。地方移住が教えてくれた「セクシャルウェルネス」の本質【インタビュー】

時間のゆとりが、身体感覚を取り戻す。地方移住が教えてくれた「セクシャルウェルネス」の本質【インタビュー】
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竹田歩未
竹田歩未
2025-12-13

セクシャルウェルネスグッズを、特別なものではなく一般的な家電製品として販売したい。そんなビジョンを掲げ、女性に寄り添った商品づくりに挑み続ける馬場早希さんにお話を伺いました。プライベートでは、大阪や福岡での都市生活から今治・伯方島へとUターン移住。都会の慌ただしい日々を離れたことで見えてきた新しい価値観は、ものづくりの視点やセクシャルウェルネスへの考え方にも深く影響を与えています。

地方移住がもたらした視野の広がり

ーーー大阪や福岡から今治伯方島にUターン移住された馬場さん。この環境の変化は働き方や日々の生活にどのような変化をもたらしましたか?

馬場さん:私が現在暮らしているしまなみ海道は、瀬戸内海に浮かぶ多くの島々が織りなす美しい景観に恵まれた場所です。この地域では、観光業を中心に企業や個人が多様な形で地域の魅力を活かした取り組みを行っています。以前、都会で生活していた頃は、人付き合いや予定に追われて余裕がありませんでした。振り返ると視野も狭くなっていたと思います。

でも地方に移ってからは、関わる人の層が変化し、さまざまな年代の方と関わるようになりました。今では、ゆとりが生まれて心身が健康的になり、周囲に影響されすぎない状況で仕事に向き合えています。地方では都会と違った刺激がありますが、新しいインスピレーションを得るためには時々東京や大阪に出たり、展示会で新鮮な情報を得る機会も欠かせないですね。

ーーー地方に住んで、視野が広がったと感じるのはどんな部分でしょう?

馬場さん:都会では単身で暮らしている方が多くて日々の生活が自分中心に回っている。それに対して地方での生活は、時間の進み方が家族中心。私が都会で働いていた頃は、消費者像もそうした単身者の生活を基準に考えがちでした。でも、家族構成が異なるというのは購買形式にも少なからず影響していて、家族と一緒に暮らす人がセクシャルウェルネスグッズを買うときは、家族に知られたくないというニーズが多いんです。さらに地方だと実店舗が少ないので、必然的にオンラインで購入されるケースが大半。だからこそ都会的なキャッチコピーだけでは刺さらないことも学びました。こうした視点を得られたのは移住したことによる収穫と言えるかもしれません。

狭い地域のなかで暮らしていますが、どこへ行っても昔から知っている人がいて、これまでの暮らしと仕事が自然に繋がっていることを感じます。また、面白い人が地方にUターンしていることもあり、地方にいても絶えず刺激があります。私自身、地域の企業の方と直接会って話をしたり、地元で働く人たちのリアルな声を聞いたりするうちに、「地域という社会の一部として、誰かと支え合いながら生きている」という感覚が芽生えました。

また、海や山などの自然に囲まれた環境で暮らすことで、自分のペースで考えたり、静かに発想を育てる時間が増えたりしたのも大きな変化です。効率や結果だけでなく、どう生きたいかを中心に働くことの豊かさを、改めて感じています

ーーー地方移住したことによって働くことに対するスタンスは変わりましたか?

馬場さん:自然の中で暮らしていると、考える時間や余白が生まれます。焦らず自分のペースで働くことの中に、これまでにない豊かさや、創造的な発想の源を見つけられるようになりました。それに、人との繋がりがとても濃く、自分の仕事が地域の誰かの暮らしに繋がっていることを日々感じています。

以前と比べて稼働時間そのものは大きく変わりませんが、都会で暮らしていた時を思い返すと、プライベートを削って仕事や人付き合いに時間を割いていたなあと。しかも、都会では人が密集していることによるストレスが常にかかっている状態ですが、地方ではそういうストレスも少ない。今の生活が自分に合っていると思うし、やっぱり生活の土台が整ってこそ仕事に集中できるんだと実感しています。

都会での生活とセクシャルウェルネスの相関性

ーーー都会でのストレスは、セクシャルウェルネスとも関連があると思いますか?

馬場さん:私の場合、都会にいた頃は、人と会わない日はほとんどありませんでした。常に新しいものや刺激を求めて、常に頭が働き続けている状態。“余白”のような感覚が削られていて、リラックスして過ごす時間はほとんどなかったと思います。人と会わなくても平気で、自分を優先できるようになったのは、田舎に移住してからのことです。

ーーーご自身の中でも気づきがあったんですね。

馬場さん:そうですね。私自身セクシャルウェルネスの分野に真剣に向き合うようになってからは、自分の性的な欲に対してどのように折り合いをつけるかを強く意識するようになりました。なぜなら、真正面から取り組むと自分を傷つけてしまうこともあるからです。

セクシャルウェルネスでは、安心している状態や身体感覚への意識が欠かせません。しかし、都市の生活は、常に緊張や刺激にさらされています。通勤、仕事、人間関係、情報過多。そのような生活では交感神経が優位な状態が続くため、

  • 月経周期の乱れ
  • 性欲や感度の低下
  • 睡眠や体温調整の不調

などが起こりやすくなります。つまり、ストレス社会では「感じる力」そのものが鈍くなりやすいのです。私自身、自律神経とホルモンバランスの変化に敏感に気づくようになってから、過去の日々を振り返ると、毎日が不安定で鈍感だったと感じます。今では、過去の自分を俯瞰して見つめられるようになりました。

だからこそ、さまざまな背景を持つ女性たちの話を聞き、そこから気づいたことや、彼女たちの悩みの種、そして本当に求めているものを、今後のブランドづくりに活かしていきたいと思っています。セクシュアルウェルネスという体験を通して、 一人でも多くの女性が幸せで、心穏やかに過ごせるようになってほしいと願っています。

若い頃は、性的な体験を通して自分の存在価値を確かめようとしたり、それをスポーツ感覚で楽しんだりする方もいます。でも、結局は自分で上手な折り合いを見つけていかないといけない。それは社会として考えるというよりも、一人一人がそういった点を持ち、シンプルに自分自身を大事にできたらいいなという意味です。そうやって自分を俯瞰できるようになれば、異性と過ごす時間以外にも人生を豊かにしてくれるものがたくさんあると気づけるはず。私自身もまだ模索中ですが、こういう迷いでさえも、ものづくりに活かしていきたいと思います。

プロフィール:馬場早希さん

今治市・伯方島出身。2020年からフェムテックの事業を創業。Uターンし、今治の島嶼部を拠点に。女性のウェルネスに焦点をあてた製品ブランディング・企画開発 を行う一方、Uターンを機に地域に根ざした施設やブランディング・クリエイティブも行う。

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photo by Sogabe Yohei

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