アダルトグッズではなく生活雑貨へ。セクシャルウェルネスを日常に浸透させるためのデザインとは【インタビュー】
セクシャルウェルネスグッズを、特別なものではなく、日常に自然に溶け込む家電製品のように販売したい。そんなビジョンを掲げ、女性に寄り添った商品づくりに挑み続ける馬場早希さんにお話を伺いました。まだまだ男性主体の商品が多い日本の市場で、数々の壁と向き合いながら新しい文化を切り拓いていく彼女の軌跡を追います。
日常的な家電の一つとして販売できる文化をつくる
ーーーこれまでどういったビジョンを掲げてセクシャルウェルネスブランドの運営に取り組まれてきたのでしょうか?
馬場さん:初期のころから投資家の方とお話ししてきたのは、いわゆるアダルトグッズの枠組みに収まらず、よりフラットなジャンルで世の中に届けていきたいという点。生活雑貨としてのスタンダードを模索して、その人のライフスタイルを照らすプロダクトを作りたいという想いがあったんです。
現状、こういった商品は18歳未満の方の目に触れないようにしなければならないという規制があるので、ある意味特異なものと認識されがち。起業当初は、このタブーを変えたいという想いが強く、さまざまな表現方法を模索してきました。現在は、これまで販売してきた製品を引き続き世の中に届けながら、新たな形を生み出すタイミングを見計らっています。
ただ、意外かもしれませんが、日本ではアダルト系の商品ってハードなデザインや趣向のものが売れる傾向にあるんです。実際、こういった商品は女性と男性、ほぼ半分の割合で購入されています。やはり従来のデザインのアダルトグッズが一番使用用途がわかりやすく、求めている人が辿り着きやすいのだと思います。なので、一般的な生活家電として販売する文化を浸透させるにはおそらくとても長い過程が必要。目標は、売り場を限定せずにもっと広範囲の方に届けられるブランドを作り上げていくこと。デザインや表現方法にこだわり、ジャンルの壁を越えて生活に馴染む存在にしていきたいです。
ーーーそのビジョンはプロダクトデザインにどのように反映されていますか?
馬場さん:私が理想としているのは、プロダクトはあくまでもツールであって、使用用途はユーザーに委ねるということ。そのため、一般的な家電の一つとして日常生活の延長線上で使いたくなるデザインを意識しています。例えば、1つの商品をとってもセルフプレジャーグッズとしての用途だけでなく、ボディマッサージ用としても使えるように設計し、性的な内容に抵抗がある方でも嫌悪感なく使えるイメージが湧くようにしています。
セクシャルウェルネスグッズを販売する上で直面したルールの壁
ーーー日本でセクシャルウェルネスグッズを消費者に届ける面でどのような部分が難しかったですか?
馬場さん: 一番大きいのは法律やガイドラインにおいて配慮が必要な点です。アダルト系商品だと決済サービスの審査が通らなかったり、男性器を模しているようなリアルな形状だとモザイクなしでは青少年保護法に触れてしまったりするので。特に大手ECサイトでは販売が難しいケースもあります。かといってパッケージや説明を抽象的にしすぎると、本来の商品仕様が伝わりづらくなってしまう。事実としてやっぱりキャッチーな表現の方が売れ行きが良いことがあるし、自分の中で表現したい部分と、実際にお客さんに届く部分とのバランスが難しく、表現の仕方に悩まされています。
より理想に忠実に、幅広いラインナップを目指して
ーーーこれまで馬場さんが代表として携わっていた株式会社BONHEURを譲渡して新たに株式会社珠色(Shuiro Inc.)を立ち上げた背景は何でしょうか?馬場さんの中で目指すビジョンが変化したのでしょうか。
馬場さん:株式会社BONHEURを離れたのは、自分が向かいたい方向が変わってきて、これまでの形では継続が難しいと判断したからです。新しくスタートした株式会社珠色では、セクシャルウェルネスに限らずストレスケアや骨盤底筋ケアなど、より幅広いラインナップを展開しています。それに、女性が購入しやすく、プライバシーにもしっかり配慮したブランドをもう一度つくり直したいという想いもあって。
私の考える本当のセクシャルウェルネスとは、自分の身体にとって心地よい感覚を知ること、そしてその延長にある相手との時間をより深く豊かにしていくこと。今後は、販売を長く続けながら試行錯誤を重ねていきたいと考えています。
プロフィール:馬場早希さん
今治市・伯方島出身。2020年からフェムテックの事業を創業。Uターンし、今治の島嶼部を拠点に。女性のウェルネスに焦点をあてた製品ブランディング・企画開発 を行う一方、Uターンを機に地域に根ざした施設やブランディング・クリエイティブも行う。
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