性をタブーから日常へ。セクシャルウェルネスを“家電のように”届けたいという新しい挑戦【インタビュー】

性をタブーから日常へ。セクシャルウェルネスを“家電のように”届けたいという新しい挑戦【インタビュー】
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竹田歩未
竹田歩未
2025-12-13

セクシャルウェルネスグッズを、特別なものではなく、日常に自然に溶け込む家電製品のように販売したい。そんなビジョンを掲げ、女性に寄り添った商品づくりに挑み続ける馬場早希さんにお話を伺いました。自身の経験から「心の奥にある脆い部分に向き合うことは性について考えることでもある」と語る彼女が考える、本当のセクシャルウェルネスとは。

海外で得た刺激がセクシャルウェルネスブランド立ち上げの契機に

ーーーセクシャルウェルネス分野で会社を立ち上げようと思ったきっかけは何ですか?

馬場さん:セクシャルウェルネスとの最初の接点は、私が22歳の頃に本場のジャズを聴くためにニューヨークに行った際に、興味本位でセックス博物館を訪れたことです。そこにはアーティスティックな展示が並んでいて、雷に打たれたような衝撃が走ったのを覚えています。同時に、根本にあった羞恥心や抵抗感が打ち消されたように感じました。

その他、性について深く考えるきっかけになったのが、家族が病に倒れて一時生死を彷徨ったことでした。弱々しい姿を目の当たりにして、自分が生まれたきっかけや、性に関する部分など、今まで触れる勇気のなかった自分自身の深い部分に向き合うことにしたんです。それは、感情、欲望、不安、トラウマなど、パーソナルな脆い部分を見つめることで、心の奥が反応するような辛い時間。"いのち"を考えた時に、セクシャルウェルネスとは、生きることそのものを見つめることだと思いました

その後、本格的にセクシャルウェルネス分野に携わり始めたのは、フェムテックというワードが日本で注目され始めた2020年頃でした。当時の日本では女性向けのセクシャルウェルネスグッズが少なかった時期。店頭に並んでいた商品は、直感的に気持ち悪さや抵抗感を覚えるものばかりで、手に取るハードルが高すぎることを問題に感じていました。この日本のスタンダードを変えたいと思い、ブランドの立ち上げに至りました。

男性主体の商品が多い日本で、新しい切り口で販売してみたかった

ーーーセクシュアルウェルネスブランドを立ち上げ、日本のスタンダードを変えたいと考えたのは、具体的にどのような想いからだったのでしょうか?

馬場さん:ニューヨークのセレクトショップを視察した時、セルフプレジャーグッズ売り場に衝撃を受けました。アートの展示場のように洗練されていて、製品の展示方法や、パッケージ、文言、デザイン...全てがこれまで日本で目にしてきたものと違っていました。そこで、これらを日本に持ってきたらどうなるのだろうかと好奇心が湧いたんです。かといって、その形をそのまま日本に持ち込んで販売したところで、上手くいくかはわかりません。それぞれの国でローカライズされたパッケージやブランドの考え方が存在しますから。

これまでの日本の市場を考えると、このジャンルの商品は男性視点で開発されたものが多く、ジョークグッズとして売る方が店頭で手に取ってもらいやすい傾向がありました。そこで、新しく文化を創作するところからスタートする必要性を感じました。女性視点で作ったものを従来とは異なる売り方で世に送り出したらどうなるのか、そのような新しいスタンダードを作ったらどんな変化が起こるのだろう...という興味が原動力でした。 

ーーー商品をどのような女性に手に取ってほしいですか?

馬場さん:性に関して興味があるとオープンにしていたり、このジャンルで発信活動をしている女性に限らず、さまざまな女性に手に取ってほしいなと思います。私自身も、セクシャルウェルネス分野に携わるにあたり、ふつうの人の直感的な感覚を知ることを大切にしています。

また、個人的には性に対するタブー視を変えたいという想いがありますが、その一方で羞恥心は大事なものだと思っているし、同時に尊重されるべきものだと考えています。性的な内容に規制をかける社会のルールも、本来人間が持っているそういった価値観に対して配慮する役割があるから。

だからこそ、普段から性的な情報に積極的に触れる習慣がないような女性でも嫌悪感を持たないぐらいのカジュアルなブランドを目指したい。性的な興味って恥ずかしいことじゃないんだよと訴えているブランドは少なくありません。ですが、私が理想とする形は、消費者の皆さんが持っている性に対するイメージに大きく衝撃を与えるよりも、日常的に使う家電の延長線上として自然に取り入れられるような商品を広めていくことです。

プロフィール:馬場早希さん

今治市・伯方島出身。2020年からフェムテックの事業を創業。Uターンし、今治の島嶼部を拠点に。女性のウェルネスに焦点をあてた製品ブランディング・企画開発 を行う一方、Uターンを機に地域に根ざした施設やブランディング・クリエイティブも行う。

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photo by Sogabe Yohei

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