もしかして家族が認知症かも?早期発見のために知っておきたい認知症初期に現れるサイン|専門医が解説

もしかして家族が認知症かも?早期発見のために知っておきたい認知症初期に現れるサイン|専門医が解説
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「最近、もの忘れが多くなったような気がする……」と家族の様子に不安を感じたことはありませんか? 認知症は脳の病気で、老化によるもの忘れとは異なります。総合東京病院 認知症疾患研究センター センター長の羽生春夫先生に、認知症対策を教えていただくシリーズの最終回は、認知症の前段階や初期にみられる症状をご紹介します。日常で気になる症状を、ここでチェックしましょう。

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本人と家族の意識に“ギャップ”が現れたら危険信号

認知症の中でも、特に多い病気がアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は、発症する前に軽度認知障害(MCI)と呼ばれる段階があります。このときに適切な治療を受けることができれば、認知症の発症や進行を抑えることができる可能性がある、と羽生先生は話します。MCIでは、どんな症状が見られるのでしょう?

「MCIや初期の認知症では、“病識の低下”が見られます。家族やまわりの人には、もの忘れが多くなり、生活にも少し支障が出ているように見えているため、『最近、ちょっと変だよね』と心配になって聞くと、本人は自覚がなく『年のせいだから、問題ないですよ』と軽く考えている場合があります。これが、病識の低下です。本人の意識と、家族や周囲から見た状態にギャップが出てきたら、MCIや初期の認知症の可能性があります。反対に『認知症かもしれない』と心配になり、自ら相談に来る人は、正常であることが多いです」 

加えて、“記憶の障害”も現れやすくなります。

「認知症を招く脳の萎縮は、記憶の中枢である海馬領域から始まるため、認知症の初期の段階から30分前、1時間前など、直近の記憶を保存できなくなります。そのため“置き忘れ”や “しまい忘れ”などのもの忘れが多くなります。例えば、常用している薬を飲み忘れて残薬がある、冷蔵庫の中身を忘れて同じものを買ってくる二度買いをしてしまう、料理のレパートリーが減ってワンパターンになるなど、生活の変化が見られるようになります。60歳を過ぎると、健康な人でも軽いもの忘れが出てきますが、認知症の場合は、こうした状態がどんどん増えていきます。家族や周囲の人が気づいたら、できるだけ早めに専門医に相談することをおすすめします」

「認知症かも?」と思ったら試したいセルフチェックテスト

家族が「認知症かもしれない……」と感じたら、試したいチェックテストがあります。

「認知症になると、直近のことを忘れる短期記憶障害が進みます。そのため、問診をするときには『昨日の夕食の献立は何でしたか?』と質問をしています。ご家庭でも、簡単なセルフチェックテストとして活用してみてください。ご飯と味噌汁を除いて、おかずが5品あったとします。50代・60代は5品すべてを答えられないと心配ですが、70歳を過ぎたら3品ほど答えることができたら、おおむね正常です。1品程度の場合はMCIの可能性があり、認知症が進むと答えられなくなります。代わりに、『たいしたものは食べていません』とか『前の日の残りものです』などと取り繕ったり、『何を食べたっけ?』と助けを求めるように、家族のほうを振り向く動作が見られたら要注意です。 “取り繕い”や“振り向き現象”は、認知症の特徴的な反応といえます」

 
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まずは、かかりつけ医に相談を

日常生活で見られる変化やセルフチェックテストで、MCIや認知症が疑われる場合は、できるだけ早く、専門医に相談することが重要です。

「かかりつけ医がいる場合は、かかりつけ医に相談をし、地元で認知症の治療を行っている病院や医師を紹介してもらうといいですね。かかりつけ医がいない場合は、大きめの病院に開設されているもの忘れ外来などの専門外来、あるいは神経内科、老年科などを受診するといいでしょう。MCIや認知症では多くの場合、本人に自覚がなく、家族が気づいて病院に連れてくるケースがほとんどです。自覚がないと病院に行きたがらない人もいるかもしれませんが、その場合は『健康診断をしましょう』と伝え、その延長で『脳梗塞もチェックできるから、脳の検査も受けておくと安心ですよ』と話すと、受診につながりやすくなります」 

認知症を診断するために、どんな検査が行われるのでしょう?

「まず神経心理検査を行い、記憶の程度を確認します。次に、血液検査を行い、認知機能の低下に全身の病気が関わっていないか調べます。そして、CTスキャン、またはMRIの画像検査を行い、脳梗塞や脳萎縮などをチェックします。さらに、脳血流スペクト検査(SPECT)で脳の血の巡りを調べ、MCIや初期の認知症を診断します」 

早めの投薬治療が症状改善のチャンス

医療機関での検査の結果、MCI、認知症と診断された場合は投薬治療が行われます。

「アルツハイマー型認知症は、タンパク質の一種であるアミロイドβが脳の神経細胞の間にたまり、神経細胞が傷つき、やがて死滅していきます。その結果、脳が萎縮して記憶障害が起こります。最近、このアミロイドβを標的にして取り除く新薬、抗アミロイドβ抗体薬ができ、MCIや初期のアルツハイマー型認知症の患者さんでは、病気の発症や進行を抑える効果を期待できるようになりました。一方で、以前から中等度や重度のアルツハイマー型認知症の治療に使われている薬もありますが、その効果は限定的です。新薬ができたことで治療の選択肢が広がり、早期の治療の重要性が広く知られるようになり、初期の段階で受診する人が増えてきています。MCIや初期のアルツハイマー型認知症は、その後の人生に影響を及ぼす可能性があります。家族の小さな変化に気付いたら、できるだけ早く医療機関を受診し、専門医と相談しながら治療や生活習慣の工夫をすることが重要です」

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まとめ

アルツハイマー型認知症は、自分で気が付かないままに進行してしまう、やっかいな病気です。初期に見られる代表的な症状は、“置き忘れ”や“しまい忘れ”。本人に自覚がないからこそ、家族やまわりの人たち注意深く見守り、ちょっとした変化に気づいてあげることが大切になります。認知症を放っておくと、症状がどんどん進みますが、初期の段階で適切な治療を始めることができれば、進行を遅らせたり、症状を改善する効果も期待できます。今回紹介したMCIや初期の認知症に現れるサインや、セルフチェックテストを参考にしながら、気になる症状があるときには、早めに専門医を受診しましょう。

教えてくれたのは…羽生 春夫先生

1981年、東京医科大学卒業。2009年、東京医科大学老年病科教授。2013年、東京医科大学高齢診療科主任教授。2015年、東京医科大学病院副院長。東京医科大学病院認知症疾患医療センター長として、地域における認知症診療の医療支援体制の構築に尽力。2020年、総合東京病院 認知症疾患研究センター長就任。

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Text by Minako Noguchi

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