その食べ方危ないかも!認知症のリスクを高めてしまう危険な食べ方|専門医が解説
20年以上もの長い年月をかけて、じわじわと進行し、気付かないうちに症状が現れる「認知症」。日々の生活の積み重ねが発症リスクを高めるため、毎日の食事も予防の大事なポイントです。そこで、総合東京病院 認知症疾患研究センター センター長の羽生春夫先生に、認知症対策を教えていただくシリーズの第2回目として、認知症のリスクを高める食べ方や予防効果のある食事をご紹介します。
“血糖スパイク”を起こしやすい食べ方に注意!
認知症の原因のひとつに考えられるのが、食後に血糖値が急激に上昇・下降する“血糖スパイク”です。
「通常、食事をすると血糖値が上がり、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて血糖値が下がり、正常値に戻ります。しかし、糖分が多かったり、消化の早い食事をすると、食後に血糖値が急上昇し、その後、ジェットコースターのように急降下して正常値に戻ります。これが血糖スパイクです。研究の結果、食後の血糖スパイクが脳の神経細胞にダメージを与えることがわかっています。血糖値が乱高下する食事を1日3回続けると、1年で約1000回ほど血糖スパイクが起こることになり、認知機能に悪影響を及ぼすリスクが高まると考えられます」
【血糖スパイクを起こしやすい食べ物】
・糖分の多いもの……お菓子、ケーキなどのスイーツ、甘いジュースなど。
・消化が早いもの…‥白米、白パン、うどん、素麺など精製された炭水化物。
・糖分が多く消化が早いもの……甘いパンや砂糖入りのシリアル、フルーツをたくさん使ったスイーツなど。
血糖スパイクを防ぐには、1日3食きちんと食べることも大切だと、羽生先生は話します。
「1日3食食べると、1食あたりの糖の吸収量が少なくなり、インスリンの分泌が過剰にならないため、血糖値の上昇、下降が穏やかになります。反対に、1日1食で空腹時間が長くなると、食後に血糖値が急上昇しやすくなるため注意が必要です。また、急いで食べることも血糖値の乱高下につながりやすいので、ゆっくりよく噛んで食べましょう」
認知症を予防する食事法
では、認知症を予防するためには、どんな食事が効果的でしょうか?
「科学的に認知症の予防効果を確認できているのは、地中海式食事です。これは、ギリシャやイタリア、スペインなど、地中海沿岸の国々の伝統的な食事法で、野菜や果物、豆類、ナッツ、オリーブオイルを中心に、肉よりも魚を多くとり、全粒穀物や乳製品を適度に摂取するスタイルです。ただし、この食事法は、子どもの頃から続けて60年後、70年後に認知症を発症しなかったという長期的な結果に基づくものです。なので、今60代、70代の人が今日から始めて数カ月に効果を期待するのは難しいかもしれません。そのため、地中海式食事を参考にしながら、栄養バランスのよい食事を1日3食、規則正しくとることが大切です」
栄養バランスのよい食事とは、たんぱく質、脂質、炭水化物の三大栄養素を中心に、ビタミン、ミネラルを含む食材を満遍なく摂ることです。
「食事は、おいしいものを食べる喜びがあるので、何かを制限するのではなく、色々な種類の食材を満遍なく食べてもらいたいですね。そのうえで、サバやアジ、イワシなどの青魚を積極的に食べると、これらに含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)が、動脈硬化を予防するとともに、脳の神経細胞を維持し、認知機能を正常に保ちやすくなります」
食生活に取り入れたいポイント
栄養バランスのよい食事とともに、コーヒーや紅茶、緑茶などからカフェインをとることも、認知症予防に役立つと考えられています。
「魚や肉などのタンパク質をとると、体内でエネルギーや体をつくる材料に変わりますが、その過程で “燃えかす”のような活性酸素が発生します。活性酸素が体の中にたまると、動脈硬化を促すだけでなく、脳の神経細胞を傷つけ、認知機能にも影響を及ぼすことがあります。カフェインには、この燃えかすの蓄積を防ぎ、活性酸素の分解を助ける働きがあり、脳の健康を守る効果を期待できます」
また、カレーも認知症の発症リスクを下げる働きがあると言われています。
「カレーに使われるスパイスの一つ、ウコンに含まれるクルクミンには、アルツハイマー型認知症の原因となるタンパク質、アミロイドβの蓄積を防ぐ働きがあると考えられています。さらに抗酸化作用や抗炎症作用もあり、酸化ストレスや炎症から脳の神経細胞を守ることができます。毎日食べる必要はありませんが、意識して時々取り入れるとよいでしょう」
発症リスクを抑える世代別食事量
認知症の発症リスクは、食事の量も関係します。
「40歳から64歳までの中年期は、食べ過ぎに注意が必要です。特に、タンパク質をとり過ぎると細胞の増殖が活発になり、がん細胞の増殖も促しやすくなります。また、脂肪が蓄積して肥満になると動脈硬化が進み、脳の血流が滞ることで、認知機能の低下につながります。一方で、64歳以降の高齢期は、体重の減少が認知症の発症リスクを高めます。年齢を重ねたら痩せ過ぎに注意し、特に脚の筋肉が衰えないように、タンパク質をしっかりとることが大切です。目安として、中年期は腹七分、高齢期は腹八分を意識するとよいでしょう」
最近では、認知症の効果をうたうサプリメントもありますが、羽生先生はこう指摘します。
「現時点では、サプリメントで認知機能を改善できるという科学的根拠はなく、認知症予防の効果を期待することはできません。認知症を予防するには、サプリメントに頼らず、食事からバランスよく栄養をとることが大切です」
まとめ
「食べ物が体をつくる」とよく言われますが、認知症予防にも同じことが言えます。若い世代から、1日3食、栄養バランスのいい食事を規則正しくとることが、年齢を重ねて健やかな脳を保つ秘訣と言えます。また、ゆっくりよく噛んで食べたり、脳にダメージを与えない食材を選ぶなどの工夫をすることも、脳の健康に役立ちます。とは言え、優等生的な食事を目指しすぎると、続けにくくなるため、さまざまな食材をおいしく食べることを基本に、甘いケーキを食べる日があっても大丈夫。その場合は、翌日に有酸素運動を行うなど、自分の体と向き合いながら調整しましょう。
教えてくれたのは…羽生 春夫先生
1981年、東京医科大学卒業。2009年、東京医科大学老年病科教授。2013年、東京医科大学高齢診療科主任教授。2015年、東京医科大学病院副院長。東京医科大学病院認知症疾患医療センター長として、地域における認知症診療の医療支援体制の構築に尽力。2020年、総合東京病院 認知症疾患研究センター長就任。
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