無自覚のうちにじわじわ進行している!?認知症のリスクを高める危険な生活習慣とは?専門医が解説
年齢を重ねるほど、気になるのが「認知症」。誰もがなり得る病気だから、できるだけ早めに対策し、予防しておきたいもの。そこで、今回から3回にわたり、総合東京病院 認知症疾患研究センター センター長の羽生春夫先生に認知症対策について教えていただきます。第1回目は、認知症の発症リスクを高める生活習慣と、その予防法をご紹介します。
そもそも「認知症」とは?
認知症とは、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの病気の総称です。これらの病気によって脳の神経細胞が傷つき、死滅していくことで、記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたします。中でも、最も多いのはアルツハイマー型認知症です。
「アルツハイマー型認知症は、50歳前後の中年期から脳内で病気が始まり、少しずつ進行しながら、20年ほどかけて発症します。発症までのメカニズムは、まず脳の中にアミロイドβと呼ばれるタンパク質の一種がたまり、シミのような老人斑が現れます。アミロイドβは脳神経細胞が作るゴミのようなもので、正常な人の脳でも作られますが、分解されて増えることはありません。ところが、産生と分解のバランスが崩れると脳に蓄積され、さらに脳の神経細胞の中のタウと呼ばれるタンパク質に、異常なリン酸化がおき、神経細胞が死滅していきます。その結果、脳が萎縮するのです。萎縮は通常、記憶を司る海馬領域から始まるため、最初に記憶の障害がおこり、やがて脳全体に病変が広がり、認知症に至ります」
アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβ蛋白は50代からたまり始める
長い年月をかけて発症するアルツハイマー型認知症を予防するカギを握るのは、50代の生活習慣です。
「これまで、血管性認知症は脳梗塞などの脳の血管の病気を介して脳がダメージを受けることで発症すると考えられていました。一方、アルツハイマー型認知症の原因は完全に解明されていませんでした。ところが、最近の研究で、生活習慣病がアルツハイマー型認知症の発症や進行に関わることがわかってきました。アルツハイマー型認知症は、タンパク質の一種であるアミロイドβが脳にたまることで起こります。糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病は、このアミロイドβの蓄積に深く関与し、10年後、20年後に認知機能に悪影響を及ぼすのです」
生活習慣病は40歳後半から50歳以降に増え始めますが、初期は自覚症状がほとんどないため、治療に結びつかないケースも少なくないそう。
「生活習慣病を放っておくと、血糖値や血圧、脂質の異常が徐々に進行し、血管が傷ついて動脈硬化を促します。その結果、脳の血流が悪くなります。さらに、アミロイドβの分解や排出が停滞、脳にたまりやすくなるため、認知症の発症リスクを高めます。生活習慣病がまだ初期段階の50代から早めに治療を始めることは健康を守るとともに、将来の認知症予防にもつながります。だからこそ、中年期の生活習慣病の管理はとても重要なのです」
そのうえで、生活習慣を見直すことも大事なポイントです。
「生活習慣の乱れと生活習慣病は、互いに悪循環を作りながら脳にダメージを与えます。日頃から偏った食事や運動不足、喫煙、睡眠不足などに気をつけ、規則正しい生活を意識することが大切ですね。認知症のタイプでは、女性はアルツハイマー型認知症が多く、男性は血管性認知症が多い傾向がありますが、生活習慣を整え、生活習慣病に早めに対処することは、どちらの病気の予防にもなります」
60歳を過ぎる年代以降は“運動習慣・余暇活動・社会的交流”を心がけて
では、60歳以降は、どんな生活習慣を心がけると認知症を予防できるのでしょう?
「60歳を過ぎる年代に入ったら、運動習慣、余暇活動、社会的な交流が認知症を予防するポイントになります。なかでも、効果的といわれているのが運動習慣です。特に、ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動が有効です。また、脳に二重の課題を与える“デュアルタスク”を行うと、脳がより活性化するという研究報告もあり、これを手軽に、かつ安全にできるのが、友だちとお喋りしながら行うウォーキングです。外を歩いていると『次の角を右に曲がろう』と考えたり、きれいな花や鳥のさえずりに感動したり、無意識のうちに脳が働きます。そこに会話が加わることで、さらに脳を活性化できるのです。また、友だちと一緒に行うと継続しやすくなるメリットもあります。認知症予防のための運動習慣は3日坊主では意味がなく、長く続けることが大切です」
余暇活動では、歌うことが好きならコーラス、草花が好きなら生花教室、将棋や囲碁、麻雀が好きなら仲間と集まって行うことで会話が生まれ、社会的な交流が増えることで脳が活性化し、認知機能が高まります。余暇活動や社会的な交流も、できるだけ長く続けることが認知症予防につながるため、自分が好きなことや趣味を活かせる活動を見つけましょう。
“認知予備能”を働かせて脳のダメージをカバー
高齢になると、誰でも脳の老化が始まり、若い頃に比べて脳が萎縮してダメージを受けやすくなります。
「脳がダメージを受けても、認知機能の低下が症状に出る人と出ない人がいます。脳には“認知予備能”と呼ばれる働きがあり、ダメージを受けていない健常な機能を十分に発揮することで、脳のダメージを補うことができます。それを促すのが、運動習慣や余暇活動、社会的な交流です。例えば、脳のダメージの状態がまったく同じ2人がいたとします。一人は家にこもって何もしていない人。もう一人は、今日はコーラス、明日はゴルフ、明後日は生花教室と、日々仲間と活動している人。この2人を比べると、アクティブに活動している人のほうが認知予備能が働きやすく、症状が出にくい傾向があります。また、糖尿病はアルツハイマー型認知症の発症リスクを2倍に高めると言われていますが、日常生活に運動習慣を取り入ると発症リスクが1.2倍まで下がります。反対に、運動習慣がないまま過ごすと発症リスクが約2.5倍に上がるという報告もあり、データからも正しい生活習慣が認知症予防に役に立つことがわかります」
まとめ
認知症の中でも特に多いアルツハイマー型認知症は、長い年月をかけて進行するため、50代の中年期の生活習慣が、将来の脳の健康を左右します。日頃から規則正しい生活を心がけ、健康診断で生活習慣病を指摘されたら、早めに治療を行うことが大切です。60歳以降は、運動習慣や趣味、社会的交流を続けることが認知機能を高め、認知症の発症リスクを下げることにつながります。年齢とともに対策を変えながら、脳の血流を良くして脳を活性化させ、認知症を予防しましょう。
教えてくれたのは…羽生 春夫先生
1981年、東京医科大学卒業。2009年、東京医科大学老年病科教授。2013年、東京医科大学高齢診療科主任教授。2015年、東京医科大学病院副院長。東京医科大学病院認知症疾患医療センター長として、地域における認知症診療の医療支援体制の構築に尽力。2020年、総合東京病院 認知症疾患研究センター長就任。
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