(8)なんとかもうしばらくは自宅で過ごせないか、答えが出ないままに年が明ける

(8)なんとかもうしばらくは自宅で過ごせないか、答えが出ないままに年が明ける
Saya
Saya
2025-10-28

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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認知症の父を精神科に転院させるのか否か。追い詰められていたのがちょうどクリスマス頃でしたが、その数日後、この連載のパートナー、野口さとこさんたちと京都で、小さな夕食会がありました。なんと、そこで全員が同じ感染症でダウン。わたしも感染してしまい、熱はすぐ下がったものの、予後がよくなく、3週間ほど寝たり起きたりという事態に。実家のことは、上の妹にまかせきりとなってしまいました。

不思議なもので、時折、興奮が強くなることがあった父も、わたしと同時期にぎっくり腰に。興奮し、ひとりで外に出るような心配がひとまずなくなり、母の助けを借りて、整形外科に通う毎日のなか、母に対する易怒性も落ち着くというおまけもついてきて、精神科については答えが出ないままに年が明けました。

この頃の気がかりはもうひとつあり、高齢の母も簡単な食事しか作らなくなっていたので、父の栄養状態が完璧とはほど遠いことでした。そのため、突然の徘徊から6〜10ヶ月目というのは、デイサービスの通所、栄養や食事の改善などで、なんとか父に自宅で過ごしてもらえないかという思いがまだありました。

と言うのも、ご高齢の認知症患者のお母さまがおひとりで暮らし、ケアマネジャーやヘルパーの助けも借りつつ、家族が通いでお世話をすることで、自立して暮らせているという話を何人かの年上の知人から聞いていました。そのため、高齢とは言え、同居の母がいるわが家なら、まだしばらくは自宅で過ごせるのではないかとも思っていたのです。

野口さとこ

そこで、母が食事づくりが億劫ならば、ヘルパーを入れられないかと母の介護申請もして、要支援2の認定をもらうなどもしました。ただ、現実には父だけでなく、母も家に人が入るのを嫌がったこともありますし、ヘルパーも不足しているようで、地域包括支援センターもあまり動いてくれない。思ったようには、うまく進みませんでした。

3人目のケアマネジャーに聞いて、理解したことですが、23区内は土地取得のハードルが高く、老人施設を作りづらい。そこで、地価の安い都下に建てて、そのうち10床を23区の自治体が買い上げ、残りを近隣市町村に解放するなどということがあるそうです(現実には23区内の方は、都下の施設は遠いと感じるため、空きはあっても人気がないようです)。またコロナ禍で、ご高齢の入居者が随分、亡くなったこともあり、都下では要介護度が高い方なら、以前のように何年も待たなくても入居ができると。つまり、実家のある自治体では、居宅介護支援事業所のケアマネジャーやヘルパーが不足していたので、早めに施設にお願いするのが一般的だったのですね。

とは言え、父は要介護1ですから、要介護3から入所できる介護老人福祉施設にはまだ入れない。月額40万も50万もするようなセレブ病院や民間の有料老人ホームは、わが家では無理です。となると、精神科への入院か。父がおとなしく入るとは思えないけれど、このままだと、母も早晩、参ってしまう。いったいどうしたら……という膠着状態がバタバタと変わったのは、突然の徘徊から、11ヶ月が経とうという1月下旬のこと。それはまた次回、お話ししたいと思います。

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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