トラブルがあってもほとんど症状が出ない“沈黙の腎臓病”を見つけるための血液検査指標は?医師が解説
「腎臓が悪くなっている」と言われても、最初はピンと来ない人が多いかもしれません。実際、腎臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるほど、トラブルがあってもほとんど症状が出ない臓器です。腎臓がどんな状態にあるかを知る手段について、医師が解説します。
“沈黙の腎臓病”と呼ばれる理由とは
腎臓は、一日に約180リットルもの血液をろ過して、体に不要な老廃物や余分な水分を尿として排出しています。
また、血圧の調整や赤血球を作るホルモンの分泌など、生命維持に欠かせない働きも担っています。
ところが、この腎臓が少しずつダメージを受けても、初期のうちは痛みも違和感もほとんどありません。
「むくみが出てきた」「尿の回数が減った」といった明らかなサインが出るのは、すでにかなり進行してからのこと。
中には、健康診断でたまたま“腎機能が落ちている”と指摘されて初めて気づくケースも多いのです。
この“静かに進む”という性質こそが、腎臓病が「沈黙の病」と呼ばれる理由。
気づいたときには、もう機能が半分以下になっていた…ということも珍しくありません。
しかも一度悪化した腎臓の機能は、残念ながら元に戻ることはほとんどありません。
だからこそ、「早期発見」が何より大切。
そして、そのための鍵を握っているのが“血液検査”なのです。
“沈黙の腎臓病”を見つけるための血液検査指標
腎臓の状態を知るためには、いくつかの血液検査の数値を組み合わせて判断します。
ここでは、特に重要な3つの指標を紹介します。
① クレアチニン(Cr)
まず最も基本的なのがクレアチニン(Creatinine)。
これは、筋肉の代謝によって生じる老廃物の一種で、腎臓が正常に働いていれば尿と一緒に体外へ排出されます。
つまり、血液中のクレアチニン値が高いほど、腎臓がうまく老廃物を処理できていないということ。
ただし、クレアチニン値は筋肉量によっても左右されます。
たとえば、筋肉質の男性やアスリートは多少高めに出ることもありますし、反対に高齢の方や女性は低く出やすい傾向があります。
このため、単に数値だけを見るのではなく、年齢・性別・体格を加味して判断することが大切です。
② eGFR(推算糸球体濾過量)
クレアチニン値をもとに計算されるのが、eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)です。
これは「腎臓が1分間にどのくらい血液をろ過できるか」を推定した数値で、腎機能の“残り具合”を示します。
たとえば、eGFRが90以上ならほぼ正常、60~89なら軽度低下、30を切るとかなり深刻な状態と判断されます。
eGFRは健康診断でもよく使われる指標で、「血液が腎臓でどれだけきれいにされているか」を数値で把握できるのが特徴です。
もしこの数値が60を下回っていたら、早めに医療機関で詳しい検査を受けることをおすすめします。
③ BUN(尿素窒素)
もう一つの重要な指標がBUN(Blood Urea Nitrogen)。
これは、タンパク質が分解されるときにできる老廃物・尿素をどれだけ体に溜め込んでいるかを示す数値です。
腎臓の働きが落ちると、この尿素が排出されにくくなり、血液中の濃度が上がります。
BUNは、腎機能だけでなく脱水や高タンパク食でも上がることがありますが、クレアチニンと一緒に見ることで、より正確な判断ができます。
また、腎臓のトラブルを見逃さないためには、血液検査だけでなく尿検査も重要です。
たとえば、「尿たんぱく」や「尿潜血」が出ていないか。これらも腎臓の初期障害を示すサインになります。
特に糖尿病や高血圧を持っている人は、腎臓病を併発しやすいため、定期的なチェックが欠かせません。
自覚症状がなくても、年1回は血液と尿のセット検査を受けておくと安心です。
まとめ
腎臓病は、静かに、ゆっくりと進行します。
痛みもなく、気づかないうちに機能が低下してしまう——それが“沈黙の腎臓病”の怖さです。
しかし、血液検査を通して「いま腎臓がどんな状態にあるか」を知ることはできます。
クレアチニン、eGFR、BUNなどの数値は、いわば腎臓からの手紙”のようなもの。
そのメッセージを無視せず、早めに受け取ることで、進行を止めることができます。
日々の生活でも、塩分を控えめにする、水分をこまめにとる、十分な睡眠をとる。こうした地道なケアが腎臓を守ることにつながります。
腎臓はとても我慢強い臓器ですが、決して無敵ではありません。
もし最近、疲れが抜けない、むくみが増えた、尿の色が気になる——そんな変化があれば、それは“沈黙の声”かもしれません。
年齢に関係なく、自分の腎臓の声に耳を傾けること。
それが、これからの健康を守る第一歩です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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