「馬車馬のように働く」以外の道はある?50歳から始める「稼ぎ方」革命

「馬車馬のように働く」以外の道はある?50歳から始める「稼ぎ方」革命
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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「50歳なんてまだまだひよっ子」。そう言われても、正直ピンとこない人も多いでしょう。しかし、人生100年時代が現実となった今、50歳はまさに折り返し地点に過ぎません。

ライターの門賀美央子さんの著書『この先の、稼ぎ方がわからない。50歳から考えるお仕事図鑑』(清流出版)は、現代の超高齢社会の不安に正面から向き合った一冊です。「死ぬギリギリまで働かなくてはいけない時代をどう生きる? どう働く?」という問いかけは、多くの中高年の胸に突き刺さります。

老後、働きつづけるか、引退するか……選べる余裕がある人が減っている

年金だけでは暮らせない。70歳まで働けと言われても、体力も気力も不安。そんな悩みを抱える人は少なくありません。

そんな中、2025年10月、女性で初めて自民党の総裁となった高市早苗氏が就任直後にこう宣言しました。「(自民党議員には)馬車馬のように働いていただきます」「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いてまいります」。

この発言は大きな議論を呼びました。過労死遺族や働き方改革を推進してきた人々からは強い批判の声が上がる一方で、経営者層や「もっと働きたい」「労働者や部下に働かせたい」という意欲を持つビジネスパーソンからは共感の声も挙がり、この国の「働く」ことへの価値観が、真っ二つに割れている現実が浮き彫りになったのです。

一方、門賀さんの本が提示するのは、まったく異なるアプローチです。「この先の仕事選びに必要なのは考え方の転換」──若い頃のようなキャリアの積み上げではなく、これまでの人生経験を活かした、自分らしい働き方を模索することだと門賀さんは示唆しています。

ただし、門賀さんも決して楽観的ではありません。50歳からの仕事探しは決して甘くない。理想と現実のギャップに直面せざるを得ない。そのリアルな厳しさを認めた上で、それでも多様な可能性を探ろうとしているのです。

高市氏の「馬車馬のように働け」という発言は、ある意味でその「厳しい現実」を象徴しているのかもしれません。働き続けなければ生きていけない。選択の余地などない──そんな時代の空気を反映しているのです。実際、高齢者一人暮らし女性の貧困率は男性よりも高く、約4割が貧困だと言われています。男女の賃金格差が大きいにも関わらず、女性の平均寿命は長いため、老後、苦しい生活を余儀なくされる人も少なくありません。

寿命が伸びていることと不況がセットになった今、50歳から新しい稼ぎ方を模索する人も、今後ますます増えていくでしょう。

36業種が示す、「自分で選ぶ」という自由

『この先の、稼ぎ方がわからない。50歳から考えるお仕事図鑑』が紹介する36業種は、実に多彩です。特別なスキルがなくても始められる家事代行や在宅ワークから、国家資格を取得して新たな専門性を身につける道、YouTuberやインバウンド関連といった時代の最先端を行く仕事、さらには「職業、旅人」という自由な生き方までが紹介されています。

これらは単なる「食いつなぐための仕事」ではなく、「新しい自分に出会う」「人生を自分色に染める」という、前向きな視点で語られています。ここに、上から押し付けられる「働け」という義務感とは根本的に異なる哲学があります。

50歳からの働き方は、経済を回すための歯車になることでも、国のために身を削ることでもありません。むしろ、これまでの経験という武器を手に、真に自分らしい生き方を探求できる、人生最大のチャンスなのです。

門賀さんは5つの視点から仕事を分類していますが、その根底にあるのは「選択の自由」です。

特別なスキルがなくても働ける道、新地平を目指す道、国境を越える道、新しい自分に出会う道、そして人生を自分色に染める道──。どれも簡単な道ではないかもしれません。しかし、「働け」という一方的な命令に従うだけではなく、自分で考え、自分で選ぶことはできるのです。

50歳からの働き方・稼ぎ方を選ぶために。さまざまな選択肢があることを知ろう

「ワークライフバランスを捨てて馬車馬のように働け」という時代の号令や、その厳しさから目を逸らすことはできません。実際、多くの50代は経済的に困窮し、選択の余地なく働き続けることを余儀なくされているのが現実です。

しかし同時に、門賀さんの本が示すように、たとえ小さくても「選択肢を探す」という抵抗の道もあります。この二つの現実が同時に存在する2025年という時代に、私たちは立っています。

50歳という地点に立ち、この先の稼ぎ方に迷っているあなたへ。現実は確かに厳しいです。「鼻歌まじり」とはいかないかもしれません。でも、誰かの号令に盲目的に従うのではなく、自分なりの道を探す姿勢──それだけは手放さないでください。

門賀さんの本は、「すべてうまくいく」という甘い幻想を語ってはいません。「理想と現実にはギャップがある」──その厳しさを認めた上で、それでも36通りの可能性を提示してくれています。

「この先の稼ぎ方がわからない」という不安は、実は新しい人生の入口なのかもしれません。

馬車馬として走らされる人生ではなく、自分の足で歩く人生を──。そんな小さな希望を、この本は静かに灯してくれるはずです。

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