うつ病で障がい者手帳を取得。「自分は普通じゃない」と思い続けた私が気づいたこと【経験談】
「人から褒められたい」「人と比べて落ち込んでしまう」そんな悩みを持っている人は少なくないと思います。『シロさんは普通になりたい』(はちみつコミックエッセイ)の作者である白田シロさんも、小さい頃から自分に自信がなく、自身の中の承認欲求モンスターに振りまわされてきました。就職してからは、劣悪な環境の職場で働く中で、心身に不調が生じ始め、重度のうつ病の診断を受けます。その後は障がい者手帳を取得することになり、障害年金を受給しながら、障がい者雇用で働いています。白田さんにご経験や承認欲求モンスターとの向き合い方の変化について伺いました。
うつ病で障がい者手帳を申請
――お仕事を辞めて、闘病生活の2年目には、主治医から障がい者手帳の申請を勧められています。当時の心境をお話しいただけますか?
まず、うつ病でも障がい者手帳の対象であることを知らなくてびっくりしたんです。
そして「これから障がい者になること」について、人の目が気になって、特に家族はどう思うだろうと思って、怖くて相談することができませんでした。友達にも相談せず、自分で考えて障がい者手帳を申請することを決めました。
――どんなことが怖かったのでしょうか?
自分も偏見を持っているかもしれないのですが、「障がい者なんだ」と思われると腫れ物扱いされるのかなとか、今までの扱いと変わってしまうのかなとか、未知の不安がありました。自分が障がい者になるというイメージが全然できなかったので、何もわからず怖いという感覚がありました。
――実際にはどうでしたか?
「実はうつ病で障がい者手帳を取っているんだ」という話をしている友人はいます。「そうなんだ」「うつ病、つらそうだもんね」という感じで、私が深刻になっているほど重く受け止めていなかったです。恐れていたことは起きなかったですね。今は家族にも話すことができました。
――重度のうつ病で働けないとなると大変だと思うのですが、公的な支援で利用しているものを教えていただけますか。
通院していた心療内科に教えてもらって、医療費の負担を軽減できる「自立支援医療制度」を申請して利用しました。
あと障がい者支援団体の方と繋がりができて、ダメ元で障害年金の申請を行いました。障害年金の申請書類作成はかなり大変でした。「私はこういうことがあってつらかった」という事実を書かなければならないので、記憶をさかのぼって、「こういうことを言われた」とか「こういう症状が出た」とか、事実をまとめなければいけないんです。
支援員さんのサポートを受けながら作成し、障害年金を受給できるようになりました。今は時短勤務のお給料と障害年金で、節約を頑張りながらなんとか一人暮らしができているという状態です。
障がい者手帳を持っていることによって受けられる割引などもあるのですが、正直私はあまり把握できていなくて、活用していないです。
――障がい者雇用で働き始めて、以前との違いを感じたことはありますか?
明確な違いを感じることはあまりないのですが、多分気を使っているだろうなと想像してしまうんです。例えば何かミスをしたときの注意の仕方が、健常者よりも優しいように思ってしまったり。でも私がうつ病ということは職場の人は知っているので、仕方のない部分もあるのかなと思います。
私が気にしているのを察したのか「白田さんは普通に仕事もできているし、頑張ってもらっているし、気を使って腫れ物扱いしているということはないからね」と上司からは言われたことはあります。
「承認欲求モンスター」との向き合い方の変化
――「普通になりたい」と思っていたとのことですが、以前は、ご自身のどういうところが普通ではないと感じていたのでしょうか?
ブラック企業に勤めていた頃、みんなと足並みを揃えて仕事ができなくて、自分は普通じゃないと思っていました。私はマルチタスクが得意ではなかったのですが、離職者が多くて、マルチタスクをせざるを得ない部分もありました。今では、マルチタスクが苦手という部分は個性であると思えるようになりました。
わざわざみんなの前で叱ることをやっていた会社だったので、「自分は普通じゃない」と思うことが多かったのかもしれません。
――今のお仕事では、ご自身の個性や性格がマッチしていると思う部分はありますか?
「これが終わったから次の人へ」というような、見られている感じだとすごく緊張してしまうので、一人で淡々と仕事をして「できあがりました」と提出するという流れで仕事をさせてもらっています。急かされるわけでもなく、納期までに自分のペースでスケジュールを組み、自由に仕事をさせてもらえているところが合っていると思っています。
――回復までの過程として、やってきて良かったことはどんなことでしょうか?
自分自身と向き合うことはやってみて本当に良かったと思っています。無職になったとき、嫌でも時間がたくさんあって、体は動かないけれど脳は動いていて、今後のことや仕事のこと、自分のことをずっと考えていました。過去をさかのぼって自分を客観的に見たり、自分を研究するといった自分の経験の棚卸しを自主的にしていました。
あと、病院で開催されているデイケアにも、少し元気になってきたら積極的に参加して、色々な病気の人とも交流しました。一時的な交流ではあったのですが、人と関わる努力もしてよかったのかなと思っています。
――その過程で承認欲求モンスターとの付き合い方も変わっていったのでしょうか?
ずっと「敵」のように思っていましたが、承認欲求モンスターも自分自身だったのだと、頑張りの名残だったのだと気づきました。
――コミックエッセイの発信を始めてからも承認欲求モンスターは暴れなくなったと描かれています。発信をしていると良くも悪くもいろいろな声が届くので、影響を受けないことは難しいと思うのですが、いかがでしたか。
私の経験談がベースとなっている作品なので、意見を言いやすいのか、引用リポストを中心に、さまざまな感想やご意見をいただく機会が多いのは事実です。
ときどきつらい言葉もいただくのですが、刺さる人には刺さる漫画があるということと、「これが自分の作風なんだ」と自覚するようになってから、気にならなくなりました。「これが私のスタイルだから」と思えるようになってから、少し強くなれた感覚があります。
――現在、承認欲求との付き合い方については、どのようにお考えですか?
承認欲求はわずかにはあるんです。作品を出したら誰かに見てほしいという気持ちは作家としてありますが、自分の作風やスタイルを確立できたので心がぶれなくなり、承認欲求に振り回されることがなくなったと思います。
モンスターが暴れたり苦しんだりすることがなくなったのと、他の作家さんと比較をしなくなったのが大きいと思います。
例えば仲良くしてくださっている作家さんがすごくバズっていたり、めちゃくちゃヒットしていたりしたら「素敵だな」と思うようになりました。今までだったら「自分は本も出していないし、ただネットでお絵描きしている人なんだな」と比べて落ち込んでいたのですが、今は心から「おめでとう!」と思えるようになりました。
【プロフィール】
白田シロ(しろた・しろ)
北海道の田舎町出身。現在は札幌在住。
モットーは「絵柄はゆるゆる・けれど芯のある漫画」をお届けすること。
SNSを中心にエッセイ漫画を精力的に制作し発信している。
刺さる人には刺さる・時には心を抉る内容をゆるく描くのが得意。
漫画を描くことと眠ることが何より好き。
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