【大人女性の推し活トリセツ】好き過ぎてツライ?心の専門家と考える「幸せな推し活」に不可欠な心構え

 【大人女性の推し活トリセツ】好き過ぎてツライ?心の専門家と考える「幸せな推し活」に不可欠な心構え
イラスト/鈴木七代

アイドルなど特定の存在を応援する活動が「推し活」。推しがいると日常に輝きが増す一方で、どんなに愛情を注いでも縮まらない推しとの距離に切なさを覚えることも。揺らぐ心と上手くつきあい、幸せに推し活を楽しむ方法をメンタルケア・コンサルタントの大美賀直子さんと考えます。

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大人女性もハマる「推し活」が心にもたらすものとは?

推しは簡単に会える存在ではないけど、私たちと同じ三次元に生きる人間。彼らに抱くトキメキは実際の恋愛と同じように日常に彩りを添え、大変なことがあってもがんばろうと思える不思議な力を与えてくれます。最近では、恋するようなトキメキを求めて独身、既婚を問わず大人の女性もハマっていますが、推し活にはどんなメリットがあるのでしょうか。

「独身女性の場合、推し活で理想の男性像に恋心を抱き恋する気持ちを疑似体験しておくことで、現実の恋愛対象に出会ったときに恋をしやすい(トキメキやすい)状態になれます。また、忙しくて恋心を忘れている人が恋愛モードを楽しめるのもメリットです。既婚女性は、パートナーとの関係がマンネリ化して刺激が薄いと感じる場合、推しに対してトキメキを感じることで心がウキウキして前向きな気持ちになれます。夫婦生活が長いと互いが同志のような関係になり、相手がいることで心が活性化する、仕事をがんばれるといった熱愛の効力が薄れるため、推し活で活力を補うのは良いことです。現実の恋愛(不倫)と違って、安全に恋愛気分を楽しめるのも推し活の強みですね」(大美賀 直子さん)

推しで人生バラ色に!推し活が運んでくる幸福感の正体

推し活には「光と影」が存在します。会えないし、自分一人が愛されることなんてけっしてない。だけど推しが「愛してる」と言えば、たとえそれが5万人の観客に向けた言葉であっても、自分が認められた気持ちになり幸福感でいっぱいになる。この「満たされる」という感覚が推し活の光の部分。手が届かないのに幸せ、この気持ちの正体はいったい何?

尊い
イラスト/鈴木七代

「それは純粋に恋愛のトキメキによるもので、恋をすると快楽ホルモンと言われるドーパミンが脳内に放出されて幸せな気分になれると言われています。ドーパミンは報酬系と呼ばれる脳神経システムなので、快楽を得るためにがんばるというサイクルが回り始め、コンサートに行くために仕事に励むといった心境になれるのです。また『ファンの存在が宝物』という推しの一言で『彼に恥じない自分になろう』といった向上心が芽生えたり、推しの役に立ちたくてCDを何枚も買ったりする人もいます。推しが喜ぶために行動し貢献感が満たされると、さらなる快感を何度も繰り返し得たくなり、ほどほどにできないのがドーパミン神経の難点と言えます」(大美賀 直子さん)

また、推しができると純度の高い愛情が果てしなくわき起こり、自分でも驚き戸惑うことはありませんか。「推しが幸せなら私も幸せ」「推しがツライときに支えられるファンでいたい」。現実の恋愛では味わったことのないこのような気持ちを経験すると、世界一純粋な片思いをさせてくれる推しはますます尊い存在に……。

「愛にはいくつか種類があり、相手を自分のものにしたい、体も心も一緒になりたいという愛の形を『エロース』と呼び、現実の恋愛はこれに当てはまります。一方、見返りを求めない無償の愛が『アガペー』。エロースと対極にあり、現実に関係を持てないけど存在してくれるだけでいいという推しへの純粋な愛はアガペーです。ただしアガペーのつもりが、『推しと個人的につながりたい』といったエロースの情愛になっていることもあるので注意しましょう」(大美賀 直子さん)

好きすぎてツライ。心を曇らす推し活の「影」とのつきあい方

推し活のスタイルには、恋愛的、家族愛的、パフォーマンスに惹かれる観賞的な愛などがあります。最も心を患うのが恋愛感情を含むケース。推しにリアルに恋をして、それが叶うはずない疑似恋愛だと我に返ったときにこみあげる切なさ。応援という形でしか愛を伝える手段がないことにも苦しくなります。

「推し活はあくまでもエンターテインメント(娯楽)です。疑似恋愛だと気づき切なさを感じたということは、『心の底では現実のパートナーを求めている』というサインかもしれないので、このタイミングで自分としっかり向き合ってみて。そうすれば推しとの距離感も見直せるかもしれません。また幸せな推し活にはバランス感覚が必要です。まず私生活や仕事が基盤にあり、疲れた心を元気にする第三の居場所として娯楽があるのが健全で、このバランスが崩れて娯楽に力点を置きすぎると心にも不都合が生じます。推し活は冷静になりにくい娯楽ですが、心がツライと感じたら人生の優先順位を見直し自分の生き方を総合的に考える時間を作ってみてください」(大美賀 直子さん)

推し活がもたらすもうひとつの「影」、それは自己有能感の低下です。整ったビジュアル、大勢の人を魅了するパフォーマンス力、ファン思いの誠実な人間性と三方良しの推し。完璧を見せられると平凡な生活や自身の能力が色あせて見え、自分に価値を見出せなくなってしまうことがあります。

推し活
イラスト/鈴木七代

「推しは『職業上の役割』を演じ、ファンをがっかりさせないために演出している人です。それに完璧に見える推しにも、現実の生活では人に言えない情けない面や恥ずかしい面があったりするもの。そもそも完璧な人間なんていません。それに自分が小さく見えて自己有能感が下がるのは推し云々ではなく、現在の自分に満足できていないからかもしれないですね。目指すものがあり、そのためにやるべきことが明確だと誰かと比べる必要はなくなりますし、達成に向けて課題を一つずつクリアしていくと自己有能感は上がります。こうしたネガティブ感情はけっして悪いものではなく、自分について突き詰めていく良い機会なので推し活が与えてくれたサインと思って見逃さないで」(大美賀 直子さん)

推しの引退、脱退、結婚。「推しロス」に陥らないための心得

推し活で一番ショックなのは、生きがいである推しが目の前からいなくなるとき。または、推しに愛している特定の誰かがいる現実を突きつけられたときです。推しは偶像だけど一人の人間であり、推しの人生はその人のもの。わかっていても「10年後もファンと同じ景色を見たい」と交わした約束を信じてついてきたファンは、つないだ手を一方的に離された気がして、生活に支障をきたすほど打ちひしがれます。そうならないためには?

「推しがいても楽しい、いなくても(特定のエンターテインメントがなくなったとしても)楽しい。これが人生の基本です。人生を楽しむのに娯楽は必要ですが、推し活に限らず娯楽をひとつに絞りすぎると、それがなくなったとき何を心の支えにしていいかわからなくなります。娯楽は『レパートリー』が重要です。推し活のように熱狂できるものだけでなく、ヨガの瞑想法や呼吸法といった静かに自分と向き合うタイプのものや、芸術活動、スポーツなどをレパートリーに加えてみて。内観していくと娯楽である推し活でなぜツライ思いをしているのかと、冷静になれるかもしれません」(大美賀 直子さん)

推し活
イラスト/鈴木七代

「そう言われても……」と、推し活の真っ只中にいると受け入れ難いかもしれませんね。でも心がツラクなったとき、「推し活はエンターテインメント」「推しは職業上の役割」といった冷静な視点は、心を守る処方箋になります。推しが好きでたまらずいないと生きていけないと思っている人ほど、心のバランスの取り方を身につけておいて。

やっぱり推し活は、幸せになるためのものであってほしいから。

教えてくれたのは…大美賀 直子さん

メンタルケア・コンサルタント。公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案するカウンセラー、作家、セミナー講師として活動する。『アメリカ式子育てマジックフレーズ』(KADOKAWA)、『大人になっても思春期な女子たち』(青春出版社)などストレスマネジメントやメンタルケアに関する著書・監修多数。メンタルケア・コンサルタントーこころと人生と人間関係のベストバランスを提案 公式HP(mentalcare555.com) 

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取材・文/北林あい

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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