【弁護士が解説】出待ち・SNS・布教画像……推しから愛されるための、清く楽しい「推し活」の鉄則
「推しの笑顔を守りたい」というのはファン共通の願いだろう。しかし、悪気なくした行為が推しに迷惑をかけたり、推しを傷つけたりしてしまうことがある。「どんなメッセージが推しに喜ばれるのか」「推しの布教をSNSでしたい場合に法律違反にならない方法」などが載っている『清く楽しく美しい推し活 ~推しから愛される術』(東京法令出版)の著者の一人である松下真由美弁護士に話を伺った。
推しの画像のSNSアイコン利用・布教画像……実はNGな行為
——ファンが悪気なくしがちなNG行為にはどのようなものがありますか。
推しの画像をSNSのアイコンで利用することや、布教として雑誌の画像を転載する行為はよく見かけます。雑誌・写真・DVD・CD等の著作物には著作権が生じ、著作物を許可なくネット上にアップする行為は著作権法違反です。また、人間そのものは著作物にはなりませんが、パブリシティ権(肖像権)が生じる場合があります。
「買った雑誌ならネット上にアップしてもいいのでは」と考えている方もいるのですが、これもNGです。雑誌を購入したことによって得ているのはその雑誌の「所有権」であり、著作権は出版社にあります。
もう一つ、転売されているコンサート等のチケットの購入もしてしまいがちな行為です。チケット不正転売禁止法で禁止されているのは「チケットを転売する行為」「転売を目的として譲り受ける行為」ですが、本当に行きたくて買うことも望ましい行為ではありません。
高額な転売チケットを購入したとしても、差額分は推しや事務所に1円も入らず、転売ヤーの儲けになるだけです。転売ヤーの行為を助長することに繋がり、本当に行きたい人がますますコンサートにいけなくなります。また、高額な転売チケットを購入することで、本来であれば買ったはずのグッズや別のコンサートを諦めることになったら、結果的に推しや事務所に入るお金も減ってしまいます。
——実際にファンが訴えられている事例もあるのでしょうか。
正直、事務所側にとっても負担が大きいので、SNSでのアイコン利用などで裁判までになるケースは多くはないだろうと感じています。
ただ、ある雑誌のアイドルの特集をそのままSNSに載せているケースで、出版社が直接リプライで警告した話は聞いたことがあります。NG行為を何度も繰り返したり、忠告を受けてもやめなかったりと悪質性の高いケースでは、訴えられる可能性は高くなると思います。また、著作権侵害は刑事罰もあるので、ある日突然、警察から連絡が来る可能性もあります。
——コロナ禍でライブ配信が増えましたが、一部で配布・販売をするケースがあり、たとえばジャニーズ事務所からは<有料動画配信に伴う違法行為について>という忠告文が出ています。また、ネット上ではテレビ番組を配布・販売している人もいます。
ライブ配信の配布・販売は事務所から文章が出ているように、著作権侵害になります。またテレビ番組の配布・販売もテレビの制作者の著作権を侵害していますし、出演者の肖像権も侵害しています。さらにそこから「利益を得る」という行為は悪質性が高く、権利者から訴えられる可能性も高いといえるでしょう。
「推し」も一人の人間で傷つくこともある
——「推される側」とファンとの認識のギャップが大きいと感じることはありますか。
「推しも一人の人間」という認識が低いファンがいることです。今は、SNSを始め、昔に比べて双方向でのコミュニケーションが可能になったことで、直接感想を伝えたり、リプライが返ってきたりと、推しとファンの距離が近い状態です。
ファンからすると芸能人やアイドルは概念的な「理想を投影している存在」であるものの、現実には実在する一人の人間です。本人に届くと思わずに好き勝手言った言葉が実は本人に見られていたり、本人を傷つけていたりしています。
——人によるとは思うのですが、直接SNSでリプライするのではなく、個人の呟きとして投稿した内容も意外と推しは見ているのでしょうか。
いわゆる「エゴサーチ」ですよね。「エゴサしてない」と言っている人も実は見ているのではないかと私は思います。
それは見る側からの評価が大切な仕事だからです。たとえば髪型一つを変えても、推しはファンからどう思われているか評価を気にしていますし、それをSNSで分析することも、プロとして客観的に自分を観察する重要な手段の一つです。
——推される側からはどのような本音を聞いたことがありますか。
ファン側の感覚からすると、たとえば「実は握手会は本当は嫌なのでは」という邪推がありますが、実際に相談でアイドルから話を聞いてみると、最低限の礼儀や清潔感があれば、それ以外でファンを区別することはなく、例外なく大事にしている印象をうけました。「ファンに支えられている」という感覚を持っている人が多いですね。
一方でSNSで居住地域を特定されないようにすることは、非常に気を付けています。家の近くの風景が絶対に映らないようにしたり、「雨が降ってきた」のような天候に関する情報を書かないようにしたりと、ファンが想像するよりも警戒しています。怖い思いをしたことのある人もいるので、プライバシーに関してはかなり気を付けている印象です。
——布教として推しの画像を転載する行為は、ファンが「良かれと思って」やっている部分もある印象ですが、実際、推される側はどう思っているのでしょうか。
前提として、著作権法違反であり、してはいけない行為です。ただ、中には「ファンが広げてくれて宣伝になる」と事実上黙認されているケースもあるように思われ、良かれと思ってやっているファンの方もいるのではないかと思います。とはいえ、やはり「法律違反になる行為はしてはいけない」という当たり前のことを忘れてはいけません。
——NG行為をしてしまう人に共通している特徴はありますか。
思い込みが激しい傾向があると思います。常に自分の考えや行動、見聞きしたニュースが正しいと考え、それに基づいて行動してしまい、その行為が正義だと信じている。過剰に人を叩き、誹謗中傷してしまう人にも同じ傾向がみられるように思います。
しかし、ネット上にはフェイクニュースが流れたり、不正確な情報が広がったりもしています。情報の正確性を確認することはもちろんですが、自分が「正しい」と思う言動・行動が本当に正しいのかをよく考えてほしいです。
先に述べた画像の転載についても、「推しの良いところを見てほしい」という気持ちで突っ走ってしまい、「自分は良いことをしている」と信じてやっているのかもしれません。しかし、本当にそれが正しいか、法律違反にならないか、一度立ち止まって考えてみてください。
「推される側」の心を守るための環境が不十分
——弁護士さんから見て「推される側」の人権は十分に守られていると思いますか。
十分とは言えないと思っています。特にプライバシーや名誉に関する部分です。例えば週刊誌の報道は一人の人生を潰せるほどの力を持っていると思います。個人のプライベートなことが週刊誌で報じられたことによって大きくイメージが変わったり、メディア露出が激減したりすることがありますよね。たとえ内容が社会的に好ましくない行動だとしても、報じ方やその後の世間の反応に疑問を抱くことはあります。
またSNSを始めとして個人の情報発信の力が強い時代ですので、知らないうちに写真を撮られたり、観察されて行動をネット上に書かれたりするリスクが常にあり、気を抜けません。芸能人として得られるものに比べて、プライバシーや名誉が十分に尊重されない今の社会で犠牲にするものは大きいように感じます。
現状、アイドルや芸能人など「推される側」の人たちの心を守るための環境や制度が十分に整っていないように思います。
——見る側の人たちが「有名税」という言葉を使うこともあります。
アイドルや芸能人は「イメージ」が強く影響する職業で、一度イメージが害されてしまうと、そのイメージを変えるのは大変なことです。たとえば、何か的外れな報道や嫌がらせをされたとしても、反論をするだけで、叩きの材料になってしまうこともあります。
誹謗中傷について「見なければいい」と言う人もいますが、「見なければいい」ではなく「誹謗中傷をしなければいい」だと思います。先ほどもお話したように仕事としてファンや世間からの反応を見る必要があるわけですし、有名人であっても一人の人間で、誹謗中傷を受ければ当然傷つきます。
——ファンが推しの人権を尊重するためにどのようなことができますか。
「推しとの距離を守る」「礼儀正しくする」この2つが大事です。ファンとして、一般常識と考えられる言動の範囲を出ないよう、ルールやマナーを守りましょう。
——何か難しいことをするというよりは、基本的なルールやマナーを守ることが大事ですね。とはいえ「推しの力になりたい」というのもファン心理です。例えば、推しが誹謗中傷の攻撃をされているときにファンが応援メッセージを送るのは力になれるのでしょうか。
そうですね。アンチの誹謗中傷は想像よりも心をえぐるものです。SNS上でメッセージを送ったり、ファンレターを書いたりして、「応援している人がいる」「味方の人間がいる」と伝えることは、大事なことですし、推しにとって力になると思います。
——最後にこの記事の読者にメッセージをいただけますか。
『清く楽しく美しい推し活』はできるだけ楽しく読んでもらいたいという思いで、あれはダメ!これもダメ!というよりも、「こういう行動はどうなるんだろう」と一緒に考えるテイストで書いた本です。
せっかく楽しく推し活をしている中で、トラブルに巻き込まれてしまったら楽しくなくなってしまいますし、悪気のない行動で推しに迷惑をかけてしまう恐れもあります。ルールを守って楽しく活動することが、推しにとっても良い影響があると思っているので、「清く楽しく美しい推し活」を心がけていただけたらと思います。
※『清く楽しく美しい推し活』のTwitterアカウント:@oshi_bon
【プロフィール】
松下真由美(まつした・まゆみ)
弁護士/真和総合法律事務所
著作権・商標権等の知的財産分野、YouTuber・インフルエンサーの代理人としての訴訟活動や契約交渉等、幅広い案件を取り扱う。女性アイドルのファンであり、アイドル達の人生を守るべく、アイドルのセカンドキャリア支援にも意欲的に取り組んでいる。
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