編み物が日常にあるデンマークで感じた”手のよろこび”【私のウェルビーイング】

 編み物が日常にあるデンマークで感じた”手のよろこび”【私のウェルビーイング】
Chiaki Okochi

私がデンマークで実際に暮らし、感じた「好き!」はたくさんあります。その中でも今日は”手のよろこび”についてご紹介したいと思います。

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編み物をする若者たち

みなさんは編み物と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?私は日本にいた時、少なくとも若者のカルチャーとしてのイメージはありませんでした。ですが、デンマークの私のいた学校では、多くの生徒たちが自由時間に編み物をしていました。

暖炉のある部屋でおしゃべりをしながら編むだけにとどまらず、60人単位の朝礼やミーティングの時にも作業をしているのです。私は初めてその光景を見た時、心の中で「自由すぎませんか?」と驚きましたが、周りは至って当たり前の様子です。

友人に「こういう時にも編むの?」と聞くと「手を動かしながらの方が集中できる」と言っていました。たしかに、みんなすごい速さで編みながらも、自分の意見がある時にはすかさず挙手をし、積極的に発言してその場に参加しているのです。

そしてある日、男の子が古布を編んで巨大なタペストリーを作りはじめました。私の学校では、授業をとっていない科目でも、教室にある材料は自由に使うことができます。そのため、裁縫室にあったベッドシーツを裂き、1本のリボンにして編み始めたのです。

するとそれが、数名の生徒の間でブームになり、こぞって制作が始まりました。私もまたそのブームに乗っかり、小学生ぶりに円形に編んでみました。

古布を編んでマット作り
古布を編んでマット作り

古布をリサイクルしているので、裂け目から糸が出る感じも、ベッドシーツの部位によって柄が変わってしまう感じも気に入りました。そして大きなピザぐらいになったところで、私は座椅子用のマットにすることにしました。

手作りがいっぱい

みんなの編み物のクオリティも高く、自分で編んだニットを着ている友人もたくさんいます。それから、家族へのプレゼントにしている子もいて、数週間後にはそのニットを着たママの写真が送られてきていました。また別の友人は、とっても可愛いヘアバンドとお揃いのミトンを付けており、尋ねるとママが作ってくれたとのことでした。

私もその雰囲気が羨ましくなって、海辺の街まで毛糸を買いに行くことにしました。友人にその話をすると、「一緒に行こう!」と休日にドライブがてら連れて行ってくれました。私たちの住んでいた小さな島にはいくつか毛糸屋さんがあり、選びきれないほどの種類の豊富さです。

島の羊の毛を使った特産品もあれば、比較的安価なものはどこのスーパーにも取り扱いがあります。毛糸だけでこれだけのバリエーションが揃っているのを見ると、デンマークでは暮らしの中で、ごく自然に編み物をする様子が伺えました。

購入したモヘアとシルクコットンの毛糸
購入したモヘアとシルクコットンの毛糸

私は写真の2つを購入し、友人の赤ちゃん用にヘアバンドを作ってみました。春の日差しが柔らかな午後、黙々と手を動かしている時間はとても心地のよいものです。

編み物をしている時には、何かを考えていたり、いなかったりします。ただ身体が編み出すリズムは、お散歩にも、瞑想にも似ているようにも思います。お散歩であれば歩く歩調や、瞑想であれば呼吸や心臓の鼓動のように。身体のリズムに身を任せるのは、自然に解放されるような気持ちにもなります。

小さな循環

もう一つ、デンマークに来て楽しむようになったのが、古着屋さんなどいわゆるセカンドハンドショップでのお買い物です。デンマークは物価が高く、消費税は25%です。そのため、すぐに新品に手を出すのが難しいという側面もあります。

家の設備でも壊れたら自分たちで可能な限り修理をし、作れるものは作ってしまいます。私の一緒に住んでいた家族は、パパが家の外の石畳や家庭菜園用の大きなプランターを仕事終わりにもせっせと作っていました。そこで育てたルバーブでパパがジャムを作り、ママが焼いたパンで朝食をいただいた時には、最高にじんわりとした幸せを味わいました。

また、引っ越しなどで家具を手放す時にも、捨てるのではなく、Facebookで引き取り手を探す投稿もしばしば見かけます。こうした様子を見ると、モノを大切に、長く使っていることが感じられました。

私が出会ったデンマークの人たちのお家やお部屋はどれも素敵で、どうしてそんなにセンスが良いのかとずっと不思議でした。でもそれはきっと、センスの良いモノをたくさん買っているからではなく、その人なりの思い出や想いが詰まっているモノに囲まれているからなのではないかと思います。

もちろん、デンマークにもファストファッションはありますし、安価な雑貨や家具店も人気です。しかし一方で、今もなお作り手、手渡してくれる人の存在がわかる、小さな循環がいたるところであるように感じられたのです。

自分の手を使う”手のよろこび”、そして手渡してくれる人がいる”手のよろこび”、そんな温かさを感じた体験でした。

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AUTHOR

大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



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