デンマークで私が学んだのは、"私のこと"だったかもしれない【私のウェルビーイング】

 デンマークで私が学んだのは、"私のこと"だったかもしれない【私のウェルビーイング】
Chiaki Okouchi

大人になってから初めて体験した海外留学。デンマーク発祥のフォルケホイスコーレという成人教育機関の2校で、およそ10ヶ月を過ごしました。フォルケホイスコーレについては、前回の記事でもご紹介をしております。ぜひ合わせてご覧ください。

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試験なし、成績なしの学校

前回の記事にてご紹介した通り、フォルケホイスコーレには入学試験も、日々のテストもありません。すなわち、学校でありながら誰かから評価される成績という概念がないのです。その分、デンマークの通常の教育制度とは別の”ノンフォーマルな成人教育”という位置付けのため、卒業をしても学位などを取得することはできません。

しかしながら、1844年に開校されてから現在では、短期コースには年間約45,000人、長期コースには約8,000人が参加をしているそうです。これらの中には留学生も含まれますが、デンマークの人口およそ580万人に対し、多くの国民が参加している様子が伺えます。

卒業をしても学位も資格も取ることができない。それなのにどうしてこれだけ多くの大人が学ぶのでしょうか。そして、何を学んでいるのでしょうか。そこにこそ、フォルケホイスコーレの醍醐味があったと個人的には感じています。

余白の多い時間と環境

平日は授業が朝9時からありますが、基本的に15時頃には終わります。そして土日は基本的に自由です。そのため、空いた時間には各々が好きに時間を過ごすことができます。友達とおしゃべりやボードゲーム、編み物、あるいはアートや工芸の制作に充てたりと、その過ごし方も様々です。また、いわゆる校則のような”やってはいけないこと”は集団生活をする上での最低限しかありませんし、テスト勉強など”やらなきゃいけないこと”もありません。

そして、ほとんどのフォルケホイスコーレは、あえて郊外や自然の多いエリアに設置されています。そのため都会の喧騒から離れ、のんびりとリラックスした時間を過ごすことができます。私が過ごした1つ目の学校は海の目の前、2つ目の学校はバルト海に浮かぶ小さな島で最寄りのスーパーが片道徒歩およそ1時間というロケーションでした。

夕陽が綺麗だと、みんな学校から駆け出て写真を撮る姿が好きでした
夕陽が綺麗だと、みんな学校から駆け出て写真を撮る姿が好きでした

「どうすべきか」ではなく「どうしたいか」

そのような環境に対し、これまでの常に何かやることがあるような生活に比べて、戸惑いを感じる生徒もいるようです。けれども私にとっては、「今自分は何がしたいのか?」と正直な気持ちを尋ねる、良いきっかけができたように感じています。些細なことですが、今は散歩に行きたいのか、それともコーヒーを飲みながら食堂にいたいのか、人と話したいのか。あるいは何もしたくない、休みたい、など。これまでだったらどこか後ろめたさを感じてしまうような「休む」ことですら、自分の「したい」気持ちとして受け入れられるようになりました。

いま振り返ると、これまでは無意識のうちに「自分はどうすべきか」ということを気にして過ごしてきたように思います。自分の立場や状況を考え、行動する。当然いつもうまくできた訳でも、自己犠牲をしていたつもりもありません。ただ何となく、なるべくその場の空気を読んだり、1人の時間すら周りの目を気にしたりしていたように感じます。

それに対し、ここでの自由時間には、その場の正解というものがありません。ですから、せっかく今はここにいるのだし、私は「どうすべきか」ではなく、「どうしたいか」を問いかけるようになりました。もちろん日常生活の中で仕事や社会、あるいは家族の一員としてなど役割を背負う時、自分を優先できないこともたくさんあると思います。けれども、意外と小さな「どうしたいか」は、自分さえ尋ねてあげれば、すでにあるような気がしています。

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https://eng.uvm.dk/adult-education-and-continuing-training/non-formal-adult-education

AUTHOR

大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



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夕陽が綺麗だと、みんな学校から駆け出て写真を撮る姿が好きでした