「親を見捨てられない」真面目な人ほど要注意!介護で共倒れしないための心理師のアドバイス
一口に実家問題といっても、問題は多岐にわたります。『実家がしんどい! こちら「身内トラブル」ご相談窓口です』(三笠書房)では、様々なケースが紹介されています。実家問題は、人生において、いつ襲いかかってくるかわかりません。著者の若杉恵さんは「いくつかのエピソードを読んでいただき、トラブルの疑似体験をしていただくことで、実際にそのようなことが起こった時に慌てずに、早めに解決して、自分の人生を楽しく生きてほしい」という思いから執筆したとのこと。若杉さんにご自身の体験談と、いざというときのアドバイスをお話しいただきました。
親が介護サービスを拒否したら?
——介護が始まって、いざ介護サービスを受けようとしたら、親が嫌がって、介護サービスを受けてくれない、という話をよく聞きます。この場合、どういった解決策がありますか?
私の場合ですと、母の物忘れが始まって、お鍋を焦がしてしまったり、冷蔵庫の中の食材を腐らせたりすることが増えてきました。それでも「1人で暮らせる」「首を突っ込まないで」と言うので、親子でバトルになるんです。
そんなとき、知人が地域包括支援センターを教えてくれて連絡したら、訪問介護や訪問看護など、使えるサービスを教えてもらいました。母は最初、人が入ってくるのを嫌がったんですが、そういう方々はプロなので、娘である私よりずっと親切なんです。接触を少しずつ増やしていくと、「娘と喧嘩しているより、優しい施設やプロの人の方がいい」となったみたいです。
いきなり「施設に入って」と伝えると大体は嫌がるのですが、私の場合は「1日だけ高齢者施設の入居体験をしてきて」とお願いして、泊まってもらいました。感想を教えてもらいながら、少しずつ利用回数を増やしていくと、だんだん顔馴染みになってきます。
保育園や幼稚園に通う小さいお子さんと同じで、楽しい場所だと理解すると、意外と嫌がらなくなるものです。一気に進めようとすると「嫌だ」「酷いことをされた」となってしまうので、段階的に試すといいでしょう。
——親自身にとって、メリットがあると理解してもらうことが大切なんですね。
そうです。色々な人と関わることによって、よそ行きの顔も出てきますし、レクリエーションがあったりと、家にこもっているより楽しいと思ってもらえるんです。
病院でも同じで、家にいて痛い思いをするよりは、リハビリができるなどのメリットがわかれば、親も興味を持ってくれます。押し付けがましくしすぎないことが大事です。私の場合、強く言ってしまったときは絶対に母は動きませんでした。
信頼できる人に言われると前向きになったりするので、主治医から「利用してみるといいですよ」と言ってもらって、親御さんが納得したという話も聞いたことがあります。
——介護が始まると、忙しさのあまり「自分が仕事を辞めなきゃ回らない」と思い詰めてしまう人が多いそうです。どのように考えたらいいのでしょうか。
急に仕事を辞めてしまうよりは、介護休暇など制度として利用できるものがあるので、制度を活用しながらその間に相談したり施設を探したりすることが必要です。本当に辞めたくなったら、いつでも辞められますから。
押し付けるつもりはないのですが、私は自分の経験も踏まえて「ギリギリまでは辞めないで」とアドバイスすることが多いです。介護は終わりが見えないように思われがちですが、急に万が一のことが起こって、「仕事を辞めなければよかった」とおっしゃる方もいます。
親戚との付き合い方
——本人が仕事を辞めたくないとき、どのように乗り切ればいいですか。地域によっては、まだまだ「家のことは女性の役割」という考えが強く残っているところも多いですよね。誰かの介護が必要になった場面で、家族や親戚から「あなたが辞めればいい」という圧力を感じるという声もよく聞きます。
経験上、色々なことを言ってくる親戚もどんどん弱っていったり、いなくなっていったりするんです。なので、その人たちの言うことを真に受ける必要はないと思います。
特に親が施設に入ると「かわいそう」「あなたが面倒を見られないの?」などと言ってくるのですが、「そうできればいいんですけどね…」とうまくかわすことも大切です。
ストレートに「無理です」「なんで私が仕事を辞めなきゃいけないんですか」と言うと、相手も怒ってしまうので、できないともできるとも言わず、柳のように、しなやかに「でも、会社の方もなかなか…」「辞めさせてもらえなくて困ってて…」など当事者を悪者にしない話法も有効です。
可能なら「おばさん、心配してくれてありがとう。でも、ちょっとできなくて。手伝ってもらえたらありがたいんだけど」と巻き込んでしまう方法もあります。
戦前の家制度の考え方や慣習の中で生きてきた人たちなので、本人たちにとっては当たり前のことを悪気なく話しているんです。法律も社会通念も変化していますが、世代間の感覚的な溝は埋まっていないというところでしょうか。
——正面から衝突する必要はないということですね。
渦中にいる人は、斜めからユニークに捉えるのも大事だと思います。真面目な人ほど思いつめてしまうんです。
「親戚はそういう価値観だけれど、自分は経済面のことも含めて仕事を続けていきたい」と、親戚の考えと、自分の考えとに線を引く。仕事を辞めたくないのであれば、仕事を辞めなくて済む方向に進むことに集中しなければいけないので、できないことは人に任せるなど、そういった方法で考えていかなければいけません。
忙しい中で、親戚と正面衝突してトラブルを増やす必要もありません。「逆らわないけれども、従わない」の精神でいることを勧めています。
自分の人生を大切にしないと、他人のことを大切にはできないと思うので、まずは自分の人生をないがしろにしないことだと思います。
「実家がしんどい!」思い出
——若杉さんはどのような家庭で育ったのですか?
父は私の幼少期に他界していて、母は仕事を理由にほとんど家にいなくて、母方の祖母が私を育ててくれたという状況でした。
そこまでは大きな問題はなかったのですが、母が男性を住ませるようになって、内縁の夫のような状態で、その人が暴力を振るったり、お酒を飲んで暴れていました。当時、祖母が怪我で入院してしまって、姉は精神疾患で入院してしまい、もう1人の姉も結婚して家を出てしまいました。頼れる人がいなくなってしまったんです。
小学3年生の私が、学校が終わってからバスを乗り継いで姉の病院に着替えを届けに行っていたので、今で言う“ヤングケアラー”でもありました。当時は他の家と比べることもあまりなかったですし、家族のことは家族以外に話してはいけないと思っていたので、違和感を持たなかったというのが正直なところです。
——家族との関係に悩んでいる方も多いと思います。やはり実家から離れないと、家族の影響から抜け出すのは難しいですか?
そうですね。小さいときは経済力がなく実家と別の場所で暮らすことができないので、どうしても家に縛られてしまう。渦中にいると、自分が置かれた状況がおかしいことに気づけないので、家から離れて自分の価値観を構成し直す経験は必要だと思います。
「そんなひどい親なら逃げればいいのに」とはよく言われるのですが、私自身、親にマインドコントロールされている状態で、地元を離れられなかったんです。今思えば、地元を離れて好きなところに就職すればよかったのに、と思うのですが。
——親と距離をとることの難しさは、どのようなところにありますか?
親の言うことを聞くのが当たり前だと思い込んでいました。心理学的にも、機能不全家族(家族が本来持つべき機能が著しく働いていない家族)で育った人は、自己肯定感や自尊心が低くて、必要とされたり人にお願いされると断れない習性があるんです。
私の場合は1人の姉は結婚して家を出てしまっていて、もう1人は精神疾患で実家のことをできる状態ではない。「それなら私がやらなきゃいけない」という思い込みがありました。
——若杉さんは大学への進学を機に一人暮らしを始め、実家とはある程度距離をとっていたのですね。その後、再び親の近くに戻ってしまったとのこと。そこにはどんな理由があったのですか?
私が妊娠したときに親がすごく喜んでくれたからです。そのとき「もしかしたら小さいときのつらかったことを、やり直しができるんじゃないか」と思っちゃったんです。結局はさらに振り回されて大変な思いをしてしまうという結末なのですが。
後から俯瞰して見ると、暴力を振るっていた母の内縁の夫も一緒にいましたし、戻れるはずがないのに、期待してしまったんです。
母の内縁の夫が「おじいちゃん面」をして、私の子どもたちと関わろうとしてきたり、色々と嫌なことがあって、「やっぱり変わってないじゃん」と思いました。
——戻ったことを後悔していますか?
人にアドバイスするのであれば、「期待して戻らない方がいいと思います」と話しますが、私自身は後悔していません。
その内縁の夫は母より先に亡くなって、母と一緒に火葬場に行って、骨を向こうの家族のお墓に入れに行くことまで手伝いました。決着をつけるところまで自分でコントロールできた感覚があって、それで腹落ちしているのだと思います。
実家トラブルで悩む人の共通点
——ご相談に来られる方は、どんな方が多いですか?
優しくて、「そんな家族なら、見捨てちゃえば」と言われても見捨てられない方が多いです。
「親を捨てるにしても、施設に入れるまでは自分がサポートしなければ」と、そこのラインは無視できないという方が相談に来られます。
そういう方々だからこそ、自分の心を守りつつ、法律や福祉、制度など利用できるものを使って、なるべく自分でなくてもいいことを人にお任せする勇気が大切になってくるでしょう。
そうしないと、親の問題に巻き込まれて、一緒に混乱してしまい、共倒れしてしまいますから。
——義務感や責任感が強い方が多いのですね。
真面目な方が多いですね。周りから「そんなの適当にしちゃえばいいのに」と言われるところを、「私がやらないと他にやる人がいない」と思い込んでいる方が多いです。
本当はやらなくてもどうにかなるんです。私自身も今思えば、やらなきゃやらないで親本人が困るだけの話なので、自分まで犠牲にする必要はなかったと思うんです。でも、そうできないのが機能不全家族育ちなのですよね。
頑張っているうちに、自分がうつなど精神疾患を患って通院が必要になるケースもよく聞きます。そうなると本末転倒ですよね。自分を守れなくなるくらいでしたら、冷たく感じるかもしれませんが、専門家やプロにお願いするという考え方は大切だと思います。
【プロフィール】
若杉恵(わかすぎ・めぐみ)
北海道在住。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、公認心理師、終活アドバイザーほか多数のライセンスを保有。
大学卒業後、大手生命保険会社にて20年間、営業・窓口業務・指導主管・講師業を経験したのち独立。相続をメインにした独立系ファイナンシャル・プランナーとして活動する。
相談者から寄せられる多数の事案から、「法律や金融のルールはあれども、そこに関わる人間の心は『世の中のルール』だけでは解決できない」ということに気づき、公認心理師、認定心理士の資格を取得。心と実務の同時コンサル・問題解決型カウンセリングを提供。リピーターが多く、新規の予約は三か月待ち。
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