「仲良し家族ほど危険!?」普通の家庭ほど相続で揉めてしまう意外な理由【FPに聞く】
生命保険会社に20年勤務していた若杉恵さんは、身内の相続トラブルを経験し、法律の知識だけでは解決できないと、一念発起し大学に通い、公認心理師を取得。現在は、1級FPの知識と公認心理師のカウンセリングの合わせ技で、問題を解決しつつ心もスッキリするコンサルティングを行っているそうです。長年相談を受けてきた経験から『実家がしんどい! こちら「身内トラブル」のご相談窓口です』(三笠書房)を出版。現在増加している家族間のトラブルについてお話を伺いました。
身内のトラブルから気づいた「法律だけでは解決できない」現実
—— 若杉さんは元々生命保険会社に勤務していて、キャリアを積み重ねていた中、どのようなきっかけで、公認心理師の資格を取得しようと思ったのでしょうか?
きっかけは身内のトラブルでした。実家と叔母の家が隣同士にあって、親戚で仲良く旅行することもあったのですが、祖父母の相続で揉めることになりました。
叔母の言い分と、親の言い分がかけ離れていて、さらに遺言の偽造まで発覚したんです。大騒ぎになって、私は板挟みになってしまいました。
弁護士や税理士に相談してみたのですが、どうもしっくりこなくて。例えば母はずっと祖父母の世話をしていたのに、叔母は年金の通帳を持ち出して使い込んでいたり、叔父は東京に住んでいて札幌にはほとんど来なかったのに、たった1回病院に来たときに遺言を書いてもらったりと、不自然なことが多かったんです。でも弁護士からは証拠がないので、何もできないと言われました。
モヤモヤとした気持ちを抱える中で、心理カウンセラーに相談しました。それで気分的には楽になったのですが、心理カウンセラーは相続などの制度については詳しくないので、具体的な話まではできないんです。心理と制度、どちらもわかっていたら、よりお客様の力になれるのではないかと思い、大学に通って公認心理師を取得しました。
増加する相続トラブルと変化している家族のかたち
——最近ではどのような実家トラブルが増えているのでしょうか?
相続に関するトラブルが増えています。特に実家の不動産をどうするかという問題です。コロナ以降の土地価格の高騰もありますし、ゴミ屋敷問題もあります。
また、寿命が伸びたことで、昔でしたら最期まで自宅で過ごすことができましたが、今は大半の方が施設や病院で過ごすため、実質空き家になることが増えてきました。そこで、誰が面倒を見るのかお金を出すのかなどで揉めるケースが増えている気がします。
戦前の家制度の時代は、長男が全部財産を相続する一方、長男家庭が老後の親の世話や墓地の承継も行ってきました。戦後に法律が変わって、きょうだい間で遺産を平等に分けるルールになったものの、介護や墓地の管理まで平等に分けられないため、「自分の方がやっているのに」とトラブルにつながります。
加えて、非正規雇用や雇用制度の変化もあって、自分の生活すら大変なのに、親の面倒まで見きれないという方が増えているイメージがあります。
——親の老後を考えるようになってきた世代へアドバイスをお願いします。
必要なのは、自分はどうしたいのかという気持ちの整理と、どういった方法があるのかという情報の確認だと思います。できること・できないことがありますし、やりたいこと・やりたくないこともあるでしょう。
やりたくないことをやっていると自分が苦しくなってしまい、限界を超えてしまえば、虐待や殺人に至ってしまう恐れもあります。
——親の希望と、子どもとしてできること・できないことがマッチしないとき、どのように落としどころを見つけていけばよいでしょうか?
それぞれ悪気はないのですが、世代によって「常識」が異なることがあります。たとえば、今の高齢者世代は、自分が親や義理の両親の介護をしてきた人も多いです。そうすると、自分も見てもらえるのが当たり前だと思っている。
ですが、時代は変わって、介護は親の資産の中でやるものとなってきていますし、共働き夫婦も増えているので、親の介護を主体的に担うのが難しいという状況もあります。
介護される方もする方も切り替えていかなくてはいけません。今まで家族で担っていたものを福祉に頼るとか、広い視点で物事を見ることが必要になってくる時代だと思います。
仲良し家族ほど要注意!?
——本書のケースを見ていると、相続で揉めるのは、不仲な家族ばかりではないんですね。仲の良い家族でも、介護や相続に直面したときに揉めてしまうことはよくあるのでしょうか?
最初から仲の悪い家庭は、直接話をしたくないので専門家に相談しているケースが多く、意外と揉める前に対処ができています。資産家の方も専門家に頼める金銭的な余裕があるので、それほど大きくは揉めない傾向にあると思います。
司法統計を見ると、遺産分割で揉めるのは遺産の額が5000万円以下の家庭がほとんどです。つまり、ごく普通の家庭でよくトラブルが起きているということです。
例えば都内に実家があって、相続人に子どもが複数人いて、退職金が少し残っているような場合ですと、家の価値が高いので、どうやって遺産分割するか揉めやすいんです。実家を法律のルールのとおりに分割すると考えるか、長男の家族が同居して親の面倒を見ていたので、家を丸々長男のものにするのか。
きょうだい間では納得しても、きょうだいの配偶者が「もらえる権利があるのだから、ちゃんと請求したら」など言い出すこともあり、そこからトラブルに発展してしまうこともあります。
——トラブルが起きてしまった場合、まず何をしたらいいのでしょうか?
まず事実確認が大事です。親御さんが何か言ってきても、全部正しいわけではありません。
理由はいくつかあって、認知症で判断が間違ってしまっていたり、場合によっては統合失調症で妄想が入ったり、幻聴が入ったりという症状もありますし、単に勘違いや思い込みをすることもあります。
相手の話も聞かないとわからないので、片方の言い分を鵜呑みにしないで、どのような状況でトラブルが発生したのかをしっかり聞くことが大事になってくると思います。
何が起きてもいいように準備を(備えあれば憂いなし)
——トラブルにならないために「今」できることはありますか?
話し合いが必要です。きょうだい間でも親子間でも話さないと、相手のことがわからなくて、悪い方に想像しがちです。
本来ならば、親が遺言を残しておくことが大事なのですが、「うちは揉めないから大丈夫」という、なんとなくの自信によって、遺言作成にたどり着かない方も多いです。
ただ、既に家族関係が破綻しているような場合は、自分のメンタルヘルスを守るためにも、第三者を通すことが鉄則です。
余力があれば、相続や税などの知識があると、理論武装をするのに役立ちます。私は親のマンション経営を継いでいますが、管理会社と対等に話し合うために、賃貸不動産経営管理士の資格を取りました。
——「揉めるかもしれない」という心構えが必要ということですね。
そうですね。準備しておいて何もトラブルがなければそれでいいので。
譲り合いができれば理想的ですが、子どもの受験でお金が必要だったり、事業に失敗してしまったりすると「あのお金さえあれば…」と当てにして、譲り合えなくなってしまうことがあります。だからこそ「揉めるかもしれない」と準備しておくといいですね。
注意していただきたいのは、身近な友人など、自称「詳しい人」に安易に相談してしまうことです。その方が専門家でない限り、昔の経験や単なる感想、噂レベルのことが多いんです。何かトラブルがあっても、その方が責任を取ってくださるわけではないので、トラブルが起きそうだなと思ったときは専門家に相談してほしいです。
——専門家への相談を早めにしておくということも大切ですね。
揉めてから相談される方も多いんですが、揉める前でも相談には乗ってもらえます。少し心配なことがあれば、早めに相談しておくことが大切です。
後からだと相談していただいても対策できないことが多いので、「あのときやっておけばよかった」と思うよりは、早めに「こういったケースだとどうですか」という感じで相談しておく方がよいと思います。
必要になったときですと慌ててしまって、相談先を一から探すのは大変ですので、事前に「こういうときはここへ」と窓口を調べておくことが大切です。
※後編に続きます。
【プロフィール】
若杉恵(わかすぎ・めぐみ)
北海道在住。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、公認心理師、終活アドバイザーほか多数のライセンスを保有。
大学卒業後、大手生命保険会社にて20年間、営業・窓口業務・指導主管・講師業を経験したのち独立。相続をメインにした独立系ファイナンシャル・プランナーとして活動する。
相談者から寄せられる多数の事案から、「法律や金融のルールはあれども、そこに関わる人間の心は『世の中のルール』だけでは解決できない」ということに気づき、公認心理師、認定心理士の資格を取得。心と実務の同時コンサル・問題解決型カウンセリングを提供。リピーターが多く、新規の予約は三か月待ち。
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