夫と子どもを置いて、京都⇔東京の二拠点生活 家族の理解を得るためにしたこと #暮らしの選択肢
近年、テレワークの普及やライフスタイルの多様化により、都市と地方の二拠点で生活する人々が増加傾向にあるということをご存知でしょうか。国土交通省の調査によれば、二地域居住等を実践する人は約6.7%に達し、約701万人と推計されているんだとか。また、複数拠点生活を行っている人は全体の5.1%に上るとの報告も。自らの価値観に基づき「暮らしを選ぶ」二拠点生活者たちから、その魅力や課題、リアルな日常を深掘り。理想と現実の狭間で見えてくる「暮らしの選択肢」の今を伝えます。
今回、お話を伺った二拠点生活者は、京都と東京で二拠点生活を送る森 洋子さんです。大好きだった父の生き方にならって、「やりたいことは全部やる」と決め、1年間日本国外を暮らすように旅をしました。その翌年の2024年からは、京都に二拠点目を絞り、夫と子どもの住む東京と、京都を行き来する生活を送っています。家族がいる中で、二拠点生活をすることは可能なのでしょうか?森さんの二拠点生活に迫ります。
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〈プロフィール〉森 洋子
京都⇔東京2拠点生活中。初心者女性向けマネー講座を主催する他、ファン作りを楽しむ、コンテンツ作成のコンサルも行う。京都芸術大学で通信教育受講中の58歳女子大生。趣味は夫の幹生、ワイン。特技は引越し、マイブームは英会話。
Instagram: @tsumakatsu_moriyohko
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50代後半で二拠点生活をはじめたのは「やりたいことは全部やる」と決めたから
– 森さんが、二拠点生活をはじめられた経緯について教えて下さい。
森さん: 今から3年前にハワイで1ヶ月間過ごしたのが、今の二拠点生活の一番最初のきっかけだと思います。私は、昔から国内外問わず旅行が好きで、色々なところを旅をしていたのですが、ハワイへの旅行もどうせ行くなら長く行きたいな、と思ったんです。本当は、夫と一緒に行きたいと考えていたのですが、彼は会社員なので、そこまで長期の休みは取れません。しつこく誘っていたのですが(笑)彼から「洋子、一人で行ってきなよ」と言われたんです。それで実際に1ヶ月間ハワイで過ごしてみたわけなのですが、自分が思ってるような夢のような感じじゃなかったんですよ(笑)普段から旅行の計画を立てないので、最初の頃は何をすればいいのかも分からないし、仕事ばかりしていました。ハワイとは言え海外なので、日本では考えられないような危険なこともあるし。それでも「これじゃいかん」と思い直し、中盤以降はやりたい事もマジメに考えて、とても充実した時間を過ごせました。全てが期待通りになったわけではないけど、海外で1ヶ月間一人で過ごすということは私の中でそれなりに勇気がいることで、それが達成できたことで、もっと色々な場所で「暮らすように旅をしてみたい」と思いました。
– ハワイで1ヶ月間一人で過ごして、自信につながったというわけですね。
森さん: そうですね。また、私の父に感化されたというのもあります。父は定年してからスパッと仕事を辞めて、好きなことを毎日していたんです。それこそ60歳過ぎてブログを開設したり。今から25年ぐらい前のことなのですが、そこそこ人気のブロガーになってました。とにかくたくさん興味がある人で、マウンテンバイクに乗ったり、カメラをやったり、犬を飼い始めたり。行ったことのない国がないぐらい、母と二人で海外旅行にもたくさん行っていました。私は、もともとパパっ子だったので、そんな父の生き方に影響を受けていて、彼の生き方から「人生一度きりだから、やりたいことをやらなければならない」ということを学んだと思います。ハワイで1ヶ月間過ごした約1年後に、父は86歳で亡くなったのですが、亡くなった時に彼は絶対悔いはなかったと思うんですよね。本当にやりたいことは全部やっていたので。そのような父の生き方を振り返っていく中で、私たちに残されている時間は、多くはないんだろうなということに気づきました。私は今年58歳になりましたが、元気に動けるのはあと20年くらいかもしれない。それなら、やりたいことをどんどんやった方がいいと思ったんです。そこで、何をしようと思った時に、1ヶ月ハワイで過ごした経験がパッと浮かんだんです。「そう言えば、私は旅をするように暮らしたいんだ」と。観光旅行をしたいのではなく「旅行以上、移住未満」の生活がしたいと思ったんです。それから、1年間、お試しで色々な所に大体1週間以上滞在するようになりました。それは言わば「暮らすような旅」という感じの過ごし方でした。そういった暮らしをしていく中で、「二拠点生活」という言葉に出会い、もっとその土地に根付いて時間を過ごしたいと思うようになり、京都と東京で二拠点生活をするようになりました。
– 色々なところに滞在された中で、京都に決めたのはどうしてですか?
森さん: もともと京都が好きだったからです。私の母と妹も京都が大好きで、昔から色々教えてもらって、1年に2回くらいは行ってました。それに、田舎過ぎないところもいいですね。1年間色々な場所を回っていた中で、私はある程度都会が好きだな、ということが分かって。二拠点生活と言うと、都心と田舎暮らしという方が多いと思うんです。ただ、私には田舎は合わないなと感じて。それで、街が好きなんだっていうことが分かりました。京都は、街と自然が一緒にあるというのがすごく良いんですよ。狭い街なので、自転車や徒歩で、自然に触れられる場所に行くことができます。その距離感やバランスがとても心地よくて、ここなら暮らしていけそうだと思ったんです。
– 1年間のお試し期間があったからこそ、どんな場所が好きかということに気づけたわけですね。
森さん: そうなんです。それに京都には土地勘もあるので、方向音痴の私でも迷わずに暮らすことができるのがいいですね。加えて、食べ物も美味しいですし、私は車の運転ができないのですが、電車やバスといった公共交通機関が整っているから、車を必要としないのも私には嬉しいところ。夏の間、軽井沢に1ヶ月間滞在したのですが、その時は車がなかったので、大変でした。北海道も車無しにはキツかったですねぇ。
家族の理解を得るためにしたことと
– ご主人とお子さんは東京にいて、京都での生活は基本的に森さんお一人でということですが、二拠点生活に対してお二人からの反応は何かありましたか?
森さん: 実は、最初のハワイ滞在を後押ししてくれたのは夫なんです。「行きたい」と言いながらも、なかなか予約をしようとしない私に対して、彼は「飛行機かホテル、どちらか予約した方がいいよ」と言ってくれて。「行きたい」と言ってるばかりじゃなくて、予約しないと、行かず仕舞いだということを諭してくれました。どちらかと言うと、どんなことにも臆せずにチャレンジする性格なんですが、そんな私でも怖かったんだと思います。当時は気づきませんでしたが、今振り返ってみると、簡単にチャレンジできたわけじゃないんですよね。1ヶ月という限られた期間であっても、仕事はちゃんと回るか、またお金はどうするのか、とか。なかなか決断できなかったところを、彼が背中を押してくれて、チャレンジできました。
ただ、その後はまさか私が毎月色々なところを飛び回って、二拠点生活をするなんていうことは想像していなかったので、最初に「二拠点生活をする」と言った時には、「えっ?仕事大丈夫?お金大丈夫?」とビックリされました(笑)
– まさに、寝耳に水だったわけですね(笑)
森さん: はい。ただ、そこは私の方でも珍しくシッカリ考えていて(笑)大丈夫な理由をプレゼンしたら、「なら、いいんじゃない」という反応でした。
– それができるなら応援するという姿勢だったわけですね。温かいですね。やはり、ご家族の理解なしでは成立しないですもんね。
森さん: そうですね。私は「巻き込み力」と、よく言ってるんですけど、家族を巻き込んで、二拠点生活も楽しみたいと思っているんです。「私だけがやりたいことやる」「私のお金でやっているのだからイイじゃん」ではなくて、家族も一緒にハッピーになったらいいなと思っています。
– いいですね。実際にどのようにしてご家族を巻き込んでいるのでしょうか?
森さん: ご家族がいる人が二拠点生活する上で準備しなきゃいけないことって実はたくさんあるのですが、中でも一番大切なのが「家事」だと、私は思っています。家事は、私以外の人が全員できるようにしてないとダメなんです。掃除も洗濯も料理も、何もかも。私がいなくても、一人ひとりが生活できるっていうレベルにまで達してないとダメなんです。それは私が「いいね」というレベルではなくて、その人が生活できるレベルの家事ということ。お互いに依存し合っててはダメで、夫も家事ができないといけないし、娘も家事できていないといけない。それを、時間をかけて育てることが重要ですね
– 確かに、妻が旅行から帰ってきたら、部屋が荒れ放題だという話とかよく耳にしますもんね(笑)
森さん: そうですね。家族の家事力を整えた上で、更に巻き込むために心がけていることは、しっかりコミュニケーションをとることです。私は、その日の出来事をシェアするようにしてます。京都に一つの拠点を絞る前の1年間は、ホテル暮らしやシェアハウスに住んだこともあったんです。そこでの体験を毎日、家族に報告するようにしていました。写真撮って送ったり「これが楽しい」「これが嫌だ」とか。そうすると子どもや夫から、「楽しそう」「確かにママこういうの嫌いだよね」「映えるね」など、たくさんのコメントが寄せられてきて。情報共有することで、家族も一緒にやってる感があるんですよね。置いていかれたって感じがしない。そうすると、ほっとかれたとか置いてかれたとか、勝手にあいつがやってるっていう感じはしない。むしろ、「今度一緒に行きたい」とか言ってくれたりするので、私も嬉しいんです。
二拠点生活をはじめて強くなった夫婦の絆
– 今は、どれくらいの頻度で行き来されているんですか?
森さん: 京都に基本的に1週間いて、残りの2、3週間は東京にいる感じです。それを毎月繰り返してます。
– 東京にいる時は仕事をして、京都にいる時は、別のことをするというルーティンですか?
森さん: 京都にいるときも、東京にいるときも、仕事は同じようにやります。私の仕事は、全部ほぼほぼオンラインでやっているので、どこにいてもできるんです。リアルでやらなきゃいけないこととかは、東京でやりますが、それもほとんどないので。また、私は、京都芸術大学という学校の通信教育を受けています。ただし、こちらもオンラインで授業を受けられます。そのため、大学も基本的にはどこにいてもよくて。時々スクーリングがある時に授業を受けに行きますが、それは京都であることもあれば、東京の時もあります。
– 東京のご自宅は持ち家ですか?
森さん: 現在、私と夫は賃貸に住んでいます。東京の持ち家には娘が住んでいます。どうしてかと言うと、私がどうしても住みたいエリアがあって。それも私の大学生の時からの夢だったんです。どうしてもそこに住みたいけれど、娘も一緒に引っ越すとなると、家賃が高くなるので(笑)それで、彼女に「ママにはママの夢があるんだよ」と言ったら、了承してくれました。私と夫は東京の都心の賃貸マンションで暮らしています。
– 京都のご自宅も、賃貸ですか?
森さん: はい。ここは、私を含めて3人の借主でシェアをしています。シェアハウスというと、部屋を借りて、リビングやキッチンなどを共同でシェアしているイメージを持つかもしれませんが、どちらかというとシェア別荘のようなイメージに近いです。家をみんなで借りているのですが、自分が使う時は自分しか使わないという。
– つまり、森さんが京都に滞在される時はもう森さんしかいないということですか?
森さん: そう。1週間単位で借りれるというシステムで、契約期間中は、借りても借りなくても、毎月のお金が発生するのですが、サブスクのような感じですね。私は、もともと京都には1週間ずつ滞在するというルーティンなので、このスタイルがすごくあっているんですよね。
– 便利ですし、1ヶ月分の賃貸料金を払わなくていいのは良いですね。二拠点生活と言うと、どうしても滞在しない期間があるわけですから。ただ、毎月1週間だけのために、移動があるのは大変ではありませんか?
森さん: 大変じゃないことはないですが、京都と東京で二拠点生活をするようになって、精神衛生的にもいいなと感じるようになりました。 東京での暮らしに不満があるわけではありません。けれど、やはり自分一人だけの時間が欲しかったんだということが分かりました。だから、例えば3週間以上東京にいると、具合が悪くなるんです(笑)ちょっとイライラしてしまったり。持ち家の戸建て住まいだった時は、部屋が何部屋かあったので、家の中でも別々の部屋にいて、一人の時間を作ることができたのですが、今の賃貸の家は狭いので、どうしても相手の気配を感じてしまって。
– いくら好きとは言ってもずっと一緒にいると、一人になりたくもなりますよね。
森さん: そうなんです。私はテレビがすごく苦手なのですが、京都にいる時は「テレビフリー」の全く無音の状態でいられるので、幸せを感じます。夫はゴルフが趣味なのですが、私のいない週末の土日はゴルフに行けて、楽しんでいるようですね。
– 1週間離れることで、お互いリフレッシュできるということですね。
森さん: でも最初の1年目は、ギクシャクしてしまったこともあったんですよ。私が嬉しくて、つい遊んで飲んだくれたりして(笑)彼はそんな私を心配してたり、面白くないと感じていたようです。それで、相手がこういうことで嫌な気持ちになる、ということが分かってきて、何となくルールが決まった感じです。
– ある程度のルールがあることで、お互いが気持ちよく過ごせるようにもなりますよね。
森さん: そうですね。あとは、やはり一緒にいられる時間が前よりは少ないということも徐々に分かってきて。だから、お互いを傷つけないように、嫌な言葉を使わないようになりました。例えば、私が、早朝に寝ぼけ眼で、京都に行く準備をしていた時のことです。ぼーっとしていたので、結構大きな音を出しながら、準備をしていたので、彼のことを起こしてしまって。それで、彼からそれを「早朝から大きな物音を立てるのは近所迷惑だ」と強い言い方で注意されてしまって。でもその後、出発する頃、玄関まで来てくれて「朝は嫌な言い方をしてごめんね」と謝ってきたんですよ。彼はもともと謝ったり、自分の感情を言ったりするタイプの男性ではないのですが、それが私はすごく嬉しくて。
– 素敵!二拠点生活で、離れ離れの時間があるからこそ、お互いの絆が深まっているのかもしれませんね。
森さん: そうですね。離れるからこそ、お互いのことを大事することができるようになっていっているのは、面白いですね。
>>>後編へ続く
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