ふろしきで紡ぐ地域の絆。日本文化とヨガが出会う場所|FLOWSHIKI創始者ARICAさんの思い

ふろしきで紡ぐ地域の絆。日本文化とヨガが出会う場所|FLOWSHIKI創始者ARICAさんの思い
画像提供:FLOWSHIKI

京都・滋賀を拠点に活動するARICAさんのFLOWSHIKI(ふろしきヨガ)は、単なるヨガメソッドを超えて地域創生の新たな可能性を示している。伝統工芸の染色技術、福祉施設での縫製、そして日本古来の精神性を現代のヨガと融合させた取り組みは、地域に深く根ざした持続可能な活動として注目を集めている。

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琵琶湖に導かれた関西移住

ARICAさんが関西に移住したのは、琵琶湖との出会いがきっかけだった。「東京に住んでいた時は、ずっと東京に住む予定でいましたが、子育てをするようになり、病気のことも色々と重なったタイミングがありまして。私自身が九州の田舎で育ったっていうのもあって、のんびりと自然の中で過ごしたいなと考えていました」

琵琶湖を眺めた瞬間、「私ここに住む」と直感し、夫にプレゼンして移住を決めたという。現在住んでいる場所は比叡山延暦寺からも近い場所。比叡山を開いた最澄の言葉の中に“一隅を照らす”という言葉がある。まずは自分の周りから小さな光を照らしていけばという思いで活動している。

伝統文化への深い想い

ARICAさんの地域への関わりの根底には、故郷での体験がある。彼女が生まれ育ったのは、「400年続く有田焼きの伝統がある」九州の佐賀県有田町。人間国宝がご近所に住んでいたり、焼き物作りに携わる人々に囲まれた環境で幼少期を過ごした。

ものづくりの伝統を感じ続ける一方で、産業としてはバブル絶頂からの衰退、後継ぎも減っていくという厳しい現実を目の当たりにしてきた。ふろしきという日本の文化の象徴でもある1枚の布を使うメソッドに着想を得たのも、伝統文化が根付く有田町に生まれ育ったからこそ。400年続く伝統文化の灯火が絶えないことを帰郷のたびに願い、故郷の存在が現在の活動の原動力となっていると話す。

福祉施設との協働から始まった縫製

FLOWSHIKIに使用するふろしきの制作は、地域の福祉施設との協働から生まれた。「最初は自分で手で縫ったりしてたんですけど、不器用だし、上手にできないな」という状況から、縫製が得意な障害者が働く福祉施設との出会いがあり、お願いすることとなった。

またARICAさんの姉はモロッコで10年以上女性自立支援活動をしている。その延長でキャロブ(イナゴマメ)の商品の開発をする際も「福祉施設の方の美味しいクッキーをいつもおやつとして買いに行っていた」ことから、施設に相談し、商品として形になった。「障害者のみなさまに、どちらの事業も助けられているんです」とARICAさんは話す。

染色工房との連携

FLOWSHIKIの特徴の一つとして、各地の染色工房との連携もある。「全国各地に残る伝統的な染色の技術を皆さん楽しんでいただければと思い、白いふろしきをインストラクターの方にはお渡ししています。それをご自身の地域の染色工房さんと一緒に染めてみては?」という提案をしている。京都では「たばた絞り」という染色工房や「新万葉染」という地球環境に良い染料を使った染色もあり、関西のインストラクター仲間と共に定期的に染色体験も楽しんでいる。

ARICAさんは染色の興味深い歴史を語る。「もともと漢方染めと言って、薬草に浸けていたらしいのです。薬を飲むことを〈服用〉と言いますよね。漢字で〈服を用いる〉って書きます。もともと服を着ることで体を癒していたというのが由来なのだそうです」。草木で染めた衣類を身につけることで植物のエネルギーを吸収し、治療に役立てていたという古来の知恵だ。

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インバウンドと日本人の文化体験

各地の染色工房の職人からは感謝の声が寄せられているという。「今は特にインバウンドの方がたくさんこられる中で、日本人が日本の伝統に触れるっていうことが今本当に減ってきている」のだそう。そんな中で、「こうやって日本の方に体験してもらったのが嬉しかった」という声をいただいているという。FLOWSHIKIを通じた染色体験は、日本人が自国の文化に触れ直す機会を提供している。

日本古来の精神性の継承

ARICAさんは、FLOWSHIKIを通じて日本の精神性を伝えることも重視している。「インドで誕生したヨガにリスペクトしつつ、やっぱり私たちは日本人だよね、と。日本人に合った体質、そして動き方とか考え方があるはず」という思いから、茶道や華道などの「道」の精神をFLOWSHIKIヨガにも取り入れている。「講座では茶道の精神、例えばお隣の方に敬う気持ちを持って座るとか、自分の肩書とか武器は全部茶道するときは置くようにとか」 「お風呂もそうですけど、全部自分の役割を一度置いてお風呂に浸かるように、

FLOWSHIKIも自分のそういったものは全部一度手放して“今”に向き合う大切さを伝えています。「どんな物を手に入れたとしても、結局は布一枚で最後は包まれて旅立つのだから」ーー そんな日本的な精神性を、現代のヨガクラスの中に自然に織り込んでいる。

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滋賀県で愛されている銭湯“容輝湯”にてFLOWSHIKIをしている様子

恩返しの循環を生む仕組み

 

ARICAさんの活動の根底には、「恩返しの循環」という考えがある。母親に「お年玉の半分は困っている人に寄付すべし」と教えられた幼少期の体験と、自身が「困った時に手を差し伸べてもらって、その循環の中ですごく助けてきてもらった分、何か返すことができないだろうか」という想いが生まれた。

現在も収益の一部を循環させていく仕組みを作り、国内外の様々な支援に活用している。 10月にはミャンマーへの支援活動も予定している。これは祖父が戦時中にミャンマーの人々に助けられた恩返しでもある、と話す。

地球規模の未来ビジョン

ARICAさんの最終的なビジョンは壮大だ。「ゆくゆくは地球のデザインのふろしきを作りたい。オリンピックで、出場選手が自国の国旗を掲げる様も素敵なんですけれども、みんなそれぞれ母国はあるけど、そもそも地球人だよね、ということを伝えたいし実感あいたいんです」

「いろんな国の人たちが、人種や国籍を超えて皆で集まってお祭りを楽しめる」という、 国境を超えた人類愛に基づく構想を描いている。

環境への配慮

FLOWSHIKIの制作においては環境への配慮も欠かさない。「年間14億点以上のお洋服が 破棄されている現状を踏まえると、もうむやみに作って販売するべきではないと思います。 大量生産せずに地産地消型で、環境にも負担のかからない運営を目指しています」(ARICAさん)

このように、FLOWSHIKIは単なるヨガメソッドを超えて、伝統工芸の継承、福祉との連携、環境への配慮、そして日本文化の精神性の継承という多面的な地域創生の取り組みとして展開されている。風呂敷という日本古来の道具を通じて、現代社会が抱える様々な課題に対する解決策を提示している点で、極めて興味深い事例と言えるだろう。

ARICAさんが大切にしている「恩返しの循環」という理念は、参加者一人ひとりが受け取った恩恵を次の誰かへと手渡していく、温かな連鎖反応を生み出している。地域の職人、福祉施設で働く人々、参加者、そして未来の世代へと続くこの循環の輪は、やがて国境を越えて「地球人」としてのつながりを深めていくだろう。FLOWSHIKIメソッドが紡ぎ出すこの美しい循環に、私たちは大きな期待を寄せたい。

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お話を伺ったのは…ARICAさん

2007年より北インドのアシュラムでヨガを学び、インド政府公認YICC修了、スリランカの病院認定アーユルヴェーダ、タイマッサージPa Khaw ma Massageインストラクター等を取得。 障がいを持つ方々と高齢者のクラスを担当したことをきっかけに、ふろしきを使った独自のヨガ"FLOWSHIKI"を考案。自身も虚弱体質で運動が苦手、身体の硬さがコンプレックスだった経験を活かし、誰もが自分に合ったスタイルでヨガを楽しむことを提案している。「包む・結ぶ」という人生最初の行為を日常に取り入れる豊かさを"FLOWSHIKI"を通じて国内外に伝えている。
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