世界や若者に広まるBONSAI(盆栽)、仕掛け人・小島鉄平「美学や伝統は何一つ変わらない」

 世界や若者に広まるBONSAI(盆栽)、仕掛け人・小島鉄平「美学や伝統は何一つ変わらない」

何百年という歴史とともに、古くから日本人に愛されながらも、どこかシニアが楽しむ趣味というイメージが強くあった盆栽。それがここ数年、海外で、そして日本の若者たちにも人気に火が付き、革新的な「BONSAI」ムーブメントが巻き起こっています。その仕掛け人、「TRADMAN'S」CEO兼プロデューサーの小島鉄平さんにお話を伺うと、「自分とつながる、自然とつながる」といったヨガやマインドフルネスにも通じるスピリットが。ファッション業界から盆栽職人して10年の小島さんにインタビュー、モダンな盆栽カルチャーとブームの秘密に迫ります。

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世の中の「盆栽」イメージを払拭したい、という挑戦

ーーここ数年、海外でも日本でも起きている「BONSAI(盆栽)」ブーム、小島さんがその火付け役に一役かっていると伺いました。どんな思い、仕掛けでこのムーブメントを?

小島 盆栽というと昔から「おじいちゃんの趣味」というイメージが強くて、時間に余裕がないとできない、敷居の高いイメージありました。でも、僕自身が小さい頃から盆栽園などでよく盆栽を見ていて、ヴィンテージのようなカッコ良さを感じていたんです。僕は初めてジーンズのヴィンテージで有名なLEVIS' 501を見たとき、「こんなにカッコいいものが人の手で作られて、それがどんどん色褪せていって自分の色になっていく」ということにものすごい衝撃を受けて。例えるなら、それと同じような感覚を盆栽にも抱いていました。なので10年前に盆栽業界に入ったときもまず、世の中の盆栽イメージを払拭したいという思いがありました。

盆栽職人になる前はファッションバイヤーをしていたんですが、子供の頃からストリートカルチャーや洋楽が大好きだったこともあり、アパレルショップのBEAMSさんやユナイテッド・アローズさんなどの店内に盆栽を置かせてもらったり、クラブでレゲエやHIP HOPイベントなどにも会場に盆栽を飾ったりして、それがSNSでも広まって、ここ数年は若い人たちが盆栽に興味を持ってくれて、業界に弟子入りする若者も増えてきたんです。僕らのフィルターを通した独自の発信力で、若者などもっと幅広く盆栽の魅力を伝えたかったので、このムーブメントを嬉しく感じていますね。

海外でもストリートでHIP HOPをかけながら盆栽をいじっていたら、想像以上の人だかりに囲まれて(笑)気がついたら海外で盆栽を作るそばからどんどん売れていくぐらい人気に。近年はヨーロッパやアメリカ、中国などの海外から日本に盆栽修行に来る人がとても増えているんですよ。最近では、海外セレブの方々からのオーダーも入ってきています。

小島鉄平
photo by Kenji Yamada

ーーそもそも、盆栽職人になろうと思われたきっかけは?

小島 僕は千葉県柏市の松葉町で生まれ育って、幼少期から盆栽園によく見に行っていたんです。仕事としては最初、古着のセレクトショップを経営していて、バイヤーとして世界を回っていたんですが、あるとき上海のバーに盆栽が飾ってあって、「どうだ、カッコいいだろ?」と絶賛されていた盆栽が、僕の知っている盆栽とはあまりにかけ離れてカッコ悪かったんです(笑)形も枝っぷりもまったく迫力がないのに、それを「COOLな盆栽」として上海の人たちにもてはやされていることにすごく違和感を感じたんですね。そのとき「いや、本物の盆栽はそんなもんじゃない!」と胸の奥に火が付いたというか。それが今から10年前、ちょうど30歳のときで、それから日本に帰国して、改めて盆栽園を回ってみたらやっぱりとても感動して、周りにももともと盆栽を作っている仲間たちも多かったので、最初は僕が彼らをプロデュースするという形で「TRADMANS」を立ち上げて、ファッション業界から盆栽業界に転職を決めました。

ーー立ち上げてから、どのような苦労がありましたか?

最初は日本で始めたんですが、僕らはストリートカルチャーやタトゥーを愛する見た目もあって、当時は伝統ある盆栽業界の組合の人たちから「なんだこいつら!?」と異端児のように見られてしまって。それで最初のうちは日本ではなく海外で盆栽を作り始めたら、作るそばから全部売れるくらい大成功したんです。それから帰国して、日本のクリエーターたちが集まるファッション合同展「ROOMS」に招待されたとき、BEAMSさんから声をかけていただいて、そこからアパレル関係でのお仕事が始まっていきました。

僕自身も師匠に弟子入りしてきちんと盆栽の奥深さを学んで、伝統を守りながら、僕らなりの新しいスタイルで盆栽を世に広めていることを、盆栽組合の方々が理解してくださるようになって。今では信頼してバックアップしてくださるようになり、先輩方の作品もどんどん世の中に広めていく活動にも尽力させてもらって、一緒に盆栽業界を盛り上げようと良いタッグを組めるようになりました。

小島鉄平
photo by Kenji Yamada
盆栽
アパレルブランド店内にディスプレイされるTRADMAN'S BONSAIの盆栽。樹齢60年の桜。
盆栽
クルージングイベントでの展示風景。盆栽の新しい展示が、若者から注目を浴びている。樹齢70年の五葉松。
盆栽
スーパーカー専門店での展示風景。樹齢80年の五葉松。

「鉢の中で大自然を作る」という哲学から見えるもの

ーー伝統と革新、その両者を融合させているというのはとても興味深いですが、盆栽にはどんな魅力があるのでしょうか?

小島 盆栽の「盆」は鉢のこと、「栽」は木のこと、この2つをセットで表現するものなんですが、一番の基本には「鉢の中で大自然を作る」というセオリーがあるんです。盆栽の中で大自然の厳しさや背景を表現するんですが、海外の盆栽愛好家たちも「鉢の中でこんなに大自然を表現できる、こんなにクリエイティブなものはないよ!」と魅力を語ってくれたり。たとえば幹や枝が鉢から大きく飛び出しているものを「懸崖(けんがい)」と呼ぶんですが、これは断崖絶壁のような厳しい環境に生えている木が、雨風ときには雪で途中の幹が枯れ果ててしまっても、先端だけは太陽に向かって一生懸命にのびて、生きようとする力強さを表現しているんです。

小島鉄平
photo by Kenji Yamada
小島鉄平
photo by Kenji Yamada

ーー大自然の生命力を表現するには、大自然の厳しさや風景をたくさん感じることも醍醐味でしょうか?

小島 そのとおりです。盆栽を育てていくには、昔から「まず自然を見なさい、それを鉢の中に作りなさい」と言われます。山や森に入って、「わあ、あんな風に生えている木があるのか」とか「この風景を鉢の中に作ってみたい」とか。だから山に入っても普通の方とは見方が全然違います。僕自身ももともとキャンプが趣味で、コンパスを便りに道なき道を進んで山奥にテントを張って過ごしながら、「なんであの木はあんな風に枝が曲がってなってるんだろう?」といちいち感動しながら眺めたり。盆栽で表現するためには人工的に作りますが、やっぱり自然のドラマチックな芸術には勝てないよなっていつも思います。

ーー自然を表現する極意というのも奥深いですね。たとえば「懸崖」のように決まった表現スタイルは、どのくらいあるんですか?

小島 おおまかにいうと20種類くらい、細かくいうとキリがないくらいあります。松の木などは成長が1年で数cmほどなので、まずは1年後の姿を考えながら、それから10年後、20年後にどんな姿にしたいかを思い浮かべながら今の盆栽に向き合う楽しさがあります。幹の太さや樹齢、形や枝っぷりなど、価格や評価のポイントはさまざまありますが、そこには正解や良し悪しもなくて、人によってセンスも表現力も違っていいもの。自分ならではの自然を表現していくことが一番の価値だと思います。

針金などを使って緻密に形を作っていくんですが、盆栽をいじっていると無心になって没頭して、社会の役割や悩みごとなんかも一切忘れますね。盆栽に没頭している時間は、ヨガの「瞑想」や今流行している「マインドフルネス」の感覚にも近いかもしれません。

盆栽は、「現代アートであり、究極のヴィンテージ」

ーー長い年月をかけて作り込むとなると、一生かけて寄り添うものですね?

小島 ほんとそうなんです(笑)僕が今手掛けている作品もおそらく完成は見られません! 僕の死後にもどんどん進化していくでしょうし、常に生きていて、常に進化していて終わりがない。だから僕らは盆栽を「現代アート」だとも思っているんです。僕一人で育てることもできていないし、過去にこれを育ててきた人たちがいて、それを代々受け継いで、今は僕の手元にあって、またさらに未来に繋がっていく。だから「究極のヴィンテージ」とも呼んでいるんです。

盆栽の樹齢は長いもので数百年から数千年のものもありますが、たとえば自分の年齢と同じ樹齢の盆栽を誕生日にプレゼントされるとけっこう喜ばれるんですよ。

盆栽
photo by Kenji Yamada

ーー「究極のヴィンテージ」と聞くとますます盆栽を見る目が変わって、触れるほどに感性も豊かになる気がします。もっと幅広い方に見てもらいたいですが、今後はどんな風に広めていきたいと思いますか?

小島 これからも日本と海外の両方で、そしてもっと若い世代につなげていきたいですね。盆栽というとまだ、育てるのが難しいイメージも持たれるんですが、最低限の太陽光と水さえあげていれば問題ないんです。もちろん良い状態をキープできない場合もあるので、そのときは僕らが預かってケアしたりメンテナンスも引き受けています。個人のお客様はもちろん、お店などで季節ごとの盆栽も楽しんでもらいたくて、うちではリース事業も行っているんです。1週間に1回交換しながら季節ごとに種類を変えて、たとえば秋なら紅葉を楽しめるものだったり、春先には桜だったり。そうしたサービスでも、盆栽を愛でる楽しさが広まっているようにも感じます。

僕自身、盆栽のイメージを変えたいと思って活動してきましたが、盆栽としての美学や伝統は何一つ変わらず、新しいことは何もしていないんです。ただ、広め方と見せ方を現代風に工夫しているだけで。だから、ヴィンテージのように、盆栽の極意として500、600年以上前からある伝統はそのまま大切に受け継いでいきながら、これからもカッコいいカルチャーとして、幅広い人たちに魅力をお伝えしていけたらと思っています。

「五葉松」

一房から5本の葉が生える五葉松は、古くから「御用待つ」という商売繁盛を呼ぶ縁起物としても知られる。「不等辺三角形」の美しさも際立つ逸品。これは樹齢およそ80年。

盆栽
「五葉松」

「真柏」

白い部分は枯れて死んでいる部分で、裏側に生きている部分があり、「生と死のコントラスト」を表現できる芸術性が人気の種類。幹のうねりなども削ったり針金を巻いたりして作り込まれる。これは樹齢はおよそ50~60年。

盆栽
「真柏」

「黒松」

松の種類のなかでもとりわけ男性的で、強くたくましく生きる男らしさを表現する黒松。これは樹齢およそ120年で、恐竜の肌を思わせるように、幹の表面が白くガサガサに年を重ねている様子なども価値が高く評価される。

盆栽
「黒松」

 

小島鉄平/プロフィール

盆栽
photo by Kenji Yamada

TRADMAN'S BONSAI」CEO兼プロデューサー、盆栽職人。1981年、千葉県生まれ。10年前にアパレルバイヤーから盆栽ディーラーに転身し、盆栽作家、盆栽リース事業などを手掛けながら、モダンな盆栽カルチャーを広めようと活躍、日本のみならず、世界中にファンを持つ。2020年は、世界中から選りすぐられた最高峰の作品たち300点近くが展示される「国風盆栽展」にも初出展。Instagram:teppei_kojima501

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interview&text by Ayako Minato
photos by Kenji Yamada



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