出生率は「0.75」。少子化が進む韓国で、女性が〈子供を産まない〉理由とは?
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
世界的な人口増とは裏腹に、少子化が止まらない国も存在する。私たち日本、そしてお隣の韓国も少子化が加速している国だ。チェ・ソンウンの著書『働きたいのに働けない私たち』をひもときながら、韓国女性がなぜ子供を産まなくなったのかを考えてみる。そこには日本が抱える問題との共通点も──。
世界的に見ると、毎年人口は増え続けている。しかし、日本を含むいくつかの国は、少子化が止まらない。
お隣の韓国も加速する少子化に悩まされている国のひとつだ。2024年の合計特殊出生率は0.75で、世界的にもても最低水準となっている。
なぜ、韓国の女性は子供を産まなくなったのだろうか?
韓国女性が子供を産まない最大の理由とは?
女性や子供のための政策立案に関わっている研究者チェ・ソンウンの著書『働きたいのに働けない私たち』(世界思想社/小山内園子訳)によると、韓国社会で女性が子供を産まない最大の理由は、出産が社会人生活に打撃を与えることをわかっているからだという。
それゆえチェ・ソンウンは、“良質な雇用を求める声はスルーしておきながら出産だけは支援しようという政策は、職業人生活の成功を目指して学んできた女性にとって、無効な制度なのである”と述べる。
出産によってケア労働の負荷が増し、経済的には貧しくなる女性たち
“出産が社会人生活に打撃を与える”を噛み砕いていうと、キャリアが中断されたり、ダウングレードされたり、給与が低くなったりする、ということだ。
2017年、韓国の統計庁が発表した統計調査によると、経済活動をしていない女性がキャリア断絶に至った理由でもっとも多かったのが、結婚であり、次に育児、妊娠出産、家族のケア、子供の教育が続いている。
韓国では、男女が家事を公平に分担すべきだと考える人は50%を超えるが、実際に家事労働を公平に分担していると回答した世帯は17%代と大きな開きがある。つまり、女性は結婚によって、ケア労働の負荷が増すということだ。
さらに、出産により、女性のケア労働時間は増す。共働き夫婦の平日の平均育児時間は、女性が4.3時間で夫が1.3時間だ。(日本の場合は、共働き世帯の平均育児時間は女性が3.23時間、男性が1.03時間)。根強い「育児は女性の役目」という社会通念があるために、女性は出産によって職場を去り、経済力が落ちていくという現実があるのだろう。
そもそも、韓国は日本と同様に、男女の賃金格差が大きい国だ。2016年の調査によると、正規雇用の女性の賃金は、正規雇用の男性が受け取る賃金の71.3%にしか満たない。(日本は、男性を100とした場合、女性は74.8/令和5年)
女性は、出産以前にも相対的に低い賃金しか得られていなかったわけだが、出産は、賃金の低下を加速させる。
なぜなら、女性は出産を機に、パートなど非正規労働にシフトする割合が高いからだ。韓国は日本と同様、同一労働同一賃金が徹底されておらず、非正規の仕事の賃金は低く抑えられている。(日本は、正社員の賃金を100とすると、非正規は67.4。非正規の67.8%を女性が占める 2023年)。
パート労働は、「主たる稼ぎ主のいる男性配偶者がいる、女性の仕事」という認識ゆえに賃金を安く抑えられる傾向があるのだ。
未婚女性の過半数が出産に否定的。非恋愛・非結婚・非出産・非セックスを貫く人も
出産が喜びや幸せをもたらす側面もあるだろう。しかし、身体的・精神的・経済的リスクが少ないという面も否定できない。それゆえ、韓国の女子学生たちは、子供を出産したり子育てしたりすれば自分が犠牲になることは目に見えていると考え、「結婚するつもりはない」「結婚はしても子供は絶対に産まない」と決めている人も少なくないという。
20〜44歳の未婚男女を対象にした「結婚しても子どもはいなくていいか」という設問には、女性の60.9%、男性の47.4%が賛成している。結婚していない女性回答者の過半数は、出産に否定的な認識を見せたのだ。
これは、フェミニズム意識の高まりという背景も影響しているだろう。韓国では10代、20代の若い女性を中心に4非運動が盛り上がった時期もあった。4非運動とは、非恋愛・非結婚・非出産・非セックスを貫く運動のことだ。
恋愛、結婚、出産といったこれまで「女性の幸せ」とされてきたもの、さらには「女性の幸せ」のために必須とされてきた男性とのセックスが、実は女性を無性のケア労働と薄給の労働という檻に閉じ込めるための罠だったのではないかと、一部の韓国の女性たちは考え、抵抗を示したのだ。
韓国の低い出生率は、女性たちが性差別的な韓国文化にNOを突きつけた結果の現れだと言えるだろう。
日本の出生率1.15で過去最低。出産がペナルティ化しない社会を目指して
韓国の低い出生率は、他人事ではない。2024年に日本で生まれた子供の数は68万人強。合計特殊出生率は前年から5.7%低下し、1.15という過去最低の数字を叩き出した。
なぜ、日本はこんなに子供が産みにくい国になってしまったのだろうか?
日本の状況が韓国と全く同じだとは考えにくい。しかし、男女の賃金格差や、正規雇用・非正規雇用の賃金格差、女性がケア労働を期待されることなど、多くの面では、類似点が認められる。
チェ・ソンウンがいう、“良質な雇用を求める声はスルーしておきながら出産だけは支援しようという政策は無効”という指摘は、日本にも当てはまるだろう。
出産を促すだけでは少子化問題は改善しない。私の友人は出産を機に時短勤務になったが、キャリアが断絶され、給与が安くなったのに仕事の大変さは変わらないことから「出産した罰みたい」と呟いていた。
出産がペナルティになるような構造を変えなければ、「産み育てやすい社会」には程遠く、出生率は上がるはずもないだろう。
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