心臓病とお金:心臓病になったらいくらかかる?意外と知らない経済的負担と支援制度〈医師監修〉

 心臓病とお金:心臓病になったらいくらかかる?意外と知らない経済的負担と支援制度〈医師監修〉
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心臓病は日本人の死因の上位に常に名を連ねる深刻な病気です。発症すると突然の入院、精密検査、手術、さらには退院後の継続的な通院や投薬管理が必要となり、精神的なショックとともに経済的な負担も一気にのしかかってきます。しかし、日本には公的医療保険制度をはじめとする経済的支援制度があり、知識を持って活用すれば、治療と生活の両立が可能になります。本稿では、心臓病にかかる実際の費用と、公的支援の全体像を詳しく解説します。

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心臓病治療にかかる費用の実際

心臓病といっても、その症状や重症度はさまざまで、かかる医療費も大きく異なります。比較的軽度な狭心症であれば、診断と薬物療法で数万円程度で済むこともありますが、重度の心筋梗塞や心臓弁膜症、不整脈の一部では入院や手術が必要になることもあります。

たとえば、代表的な心疾患のひとつである心筋梗塞の治療では、緊急のカテーテル手術(経皮的冠動脈形成術)が行われます。手術にかかる費用は総額で150万円〜200万円ほどで、保険適用後でも自己負担額は約30万円前後にのぼることがあります。

また、心臓の弁を人工弁に取り替える「心臓弁置換術」は、1回あたり300〜500万円の費用がかかることもあります。ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)の手術も100万円〜250万円程度で、継続的な検査や管理が必要です。これらは全て健康保険が適用されるものの、3割負担のケースで数十万円単位の支出が発生するのが一般的です。

さらに入院費用や術前術後の検査費(心電図、心エコー、CTスキャンなど)、薬剤費(抗血小板薬、降圧剤、抗凝固薬など)も加算されます。こうした費用は一度きりではなく、長期的に継続することが多いため、生活費や仕事への影響も踏まえた経済設計が重要です。

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経済的負担を軽減する公的支援制度

心臓病の治療にかかる高額な医療費をカバーするために、日本にはいくつかの支援制度があります。中でも中心となるのが「高額療養費制度」です。これは1カ月間の医療費が自己負担の上限額を超えた際に、超過分が払い戻される制度です。

たとえば、年収が約370〜770万円の方の場合、自己負担の上限は約80,100円+(総医療費−267,000円)×1%と設定されています。実際には、1回の入院や手術で20万円以上かかったとしても、最終的な自己負担は10万円未満で済むケースもあります。

また、重度の心不全やペースメーカー装着、人工弁置換術後など、後遺障害が認められた場合には、「身体障害者手帳」が交付され、医療費の助成や公共交通機関の割引、税金の減免など、日常生活を支えるさまざまな福祉サービスが利用できます。さらに、労働に支障がある場合には「障害年金」の対象になることもあります。

他にも、通院医療費の助成や入院時の差額ベッド代を軽減する制度を提供している自治体もあり、病状や住んでいる地域によって受けられるサポートが異なります。医療ソーシャルワーカーに相談することで、制度の詳細や申請方法について丁寧に教えてもらえるでしょう。

医療費を抑える工夫と予防の重要性

医療費をできるだけ抑えるためには、公的制度の活用だけでなく、日々の暮らしの中でできる工夫も重要です。まず、医師と相談のうえで「ジェネリック医薬品」に切り替えることで、薬剤費を大幅に節約できる可能性があります。薬の種類によっては、先発医薬品に比べて半額近くまで費用を抑えられる場合もあります。

また、定期的な検診や心電図・血液検査を通じて心臓病の兆候を早期に発見することで、入院や手術といった高額治療を避けられることもあります。食生活やストレス管理、適度な運動といった日々の生活習慣を見直すことで、心臓病の発症リスク自体を下げることも可能です。

さらに、民間の医療保険や共済制度に加入しておくことも、有事の際の経済的な備えになります。最近では、持病のある人でも加入できる「引受基準緩和型保険」や、通院費・入院費に特化した「特定疾病保障保険」なども充実してきており、自分の健康状態に合わせて検討するのが賢明です。

まとめ:命と家計、両方を守るために

心臓病は命に関わる重大な病気であると同時に、生活の質と家計に大きな影響を及ぼす疾患です。しかし、日本の制度はとても充実しており、知識を持って正しく活用すれば、医療費の負担を最小限に抑えることも可能です。

大切なのは、「もしも」に備えて事前に情報を集めておくこと。そして、健康なうちから生活習慣を整え、早期発見・早期治療を心がけることです。万が一病気が見つかったとしても、制度と知恵で乗り越える術はあります。お金の不安にとらわれすぎず、冷静に、そして賢く向き合っていきましょう。

参考・出典:
日本心臓財団「心臓病治療にかかる費用について」
厚生労働省「医療費の自己負担と高額療養費制度」
厚生労働省「高額療養費制度の詳細」
全国社会保険労務士会連合会「障害年金制度の解説」
各自治体の福祉・保健担当部署(例:東京都福祉保健局)
日本ジェネリック製薬協会 

監修医師/甲斐沼孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。

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