お風呂、掃除、ご近所付き合い‥不安や苦手なことに向き合うための工夫と備え方【経験談から学ぶ】
漫画家のわたなべぽんさんは、コロナ禍を通じて、防災・老後のお金・家事分担・健康など、人生の後半戦に向けて、普段から備えておくべきだったことに気づきました。その備えの過程を描いたのが『やっとこっかな 近い未来のためにちょっぴり備える』(幻冬舎)です。インタビュー後編では、メンタルが不安定になったときの対策や、ご近所付き合いで大切にしていることについて伺いました。
苦手を知っておけば対処ができる
——本書では、コロナ禍の変化で、メンタルが不安定になったことも描かれています。
コロナ禍でこんなに落ち込むとは思っていませんでした。でも、不安に思うこと自体は否定しなくていいと思うんです。不安になったときに、どうやって自分を整えればいいかわかってきてよかったです。自分の苦手なところを知っておけば、対処ができるので、自分の「変化に弱い部分」に気づけたことが、一番の大きなメリットだと今は思います。今回は「備える」ことがテーマだったので、自分が変化に弱いことを知ったこと自体が、備えになっています。
最近、面倒だったり心身の不調から、日常的にお風呂に入れなくなることがある「風呂キャンセル」という言葉が話題になりましたが、私も精神的にまいってくると、お風呂に入れなくなったり、身づくろいができなくなったりします。
その対策として、スマホのTODOリストのアプリで「朝8時に起きる」「顔を洗う」「ベッドメイキングする」など、メンタルが弱ってても、弱ってなくても行う基本的なタスクをリストにして、できたらチェックを入れていくようにしています。
お風呂に入ることや身づくろいなど、メンタルがつらくなることで、できなくなることがある一方、それらをこなせることで、心が軽くなっていく感覚もあることを最近体感しています。何も考えずにリストをこなし、できたことを確認していく過程で救われていく感覚があるんです。
このリストには、掃除や皿洗いといったタスクも入れています。メンタルが弱っていく中で、できなくなると、できていないことへの罪悪感があるうえ、部屋が汚くなっていくという相乗効果で落ち込んでいくんです。どんどんへこんでしまうので、そうならないために簡単なことから取り組むようにしています。もしできなくても、やっていないことも可視化されているので、慌てることなく、「昨日できなかったから今日やればいい」と思える。そうやって、落ち込まないような工夫をしています。
楽しくご近所付き合いをするために
——もともとは「人見知りで人付き合いが下手」と書かれていましたが、本書ではご近所付き合いについても描かれています。わたなべさんご自身にとって、心地の良いご近所付き合いをしていくためにどんな意識をしていますか?
私が何か意識することでご近所付き合いがうまくいっているというよりは、素晴らしい方々と巡り会えたことが大きいと思っています。
そのうえで、私がしていることは、「今ここで飲んでるんだけど、近くにいるなら合流しない?」と連絡をもらったり、買い物をしていてばったり会ったときに「今後お酒でも飲もうよ」と話をしたりしたときに、それを社交辞令にしないこと。
かといって「いつ飲みに行く?」とすぐ言うと、相手もびっくりしちゃうかもしれないので、少し時間を置いて「この間、顔を見れて嬉しかったよ。飲みに行きたいんだけど、いつ頃がいい?」とお誘いしています。
ご近所からおすそ分けをいただいたり、あげたりすることも結構あるのですが、私が大事にしているのは、もらったときはお礼を忘れないようにして、逆にあげたときには相手がお礼をしてくれたかは忘れること。「私はあげたのに」と考えてしまうと、その途端に「あの人って常識がない」という思考になりがちです。単に忘れているだけとか、時間がないだけなのかもしれないのに。あげたいからあげるし、いただいて嬉しいからお礼を忘れないようにしようという考えです。
箱に入った個装のお菓子のように、その場にいる人みんなに配るタイプのお土産は、その場でお礼を伝えて終わらせることもあります。一方、地方の道の駅で、その土地でしか食べられない野菜など、私個人のためのお土産をいただいた場合には、お礼を伝えたうえで、食べた後に連絡もしますし、自分が旅行へ行って珍しいものがあったときには、その人に買って帰ることもあります。
——子どもを通じて地域の付き合いが広がる話はよく聞くのですが、わたなべさんは夫婦のみとのことで、どうやってご近所付き合いを広げていったのでしょうか?
私の場合は、夫婦で行った飲食店で知り合う人がすごく多くて、ご近所付き合いをしている方々も、お酒が飲めて、独身や夫婦二人暮らしの方が多いです。少し年上の方だと、子育てを終えている方もいらっしゃいますね。
——お酒の席での出会いは、その場で盛り上がったものの、酔いがさめると面倒になることもありませんか?
たとえば私一人でいるときに、誘ってくる中高年男性は警戒しますが、ご夫婦でいる方が、私と夫と二人セットで誘ってくれて一緒に舞台観劇に行ったり、「おいしいお店があるから今度行きましょう」って言ってくれたりするので、フットワーク軽くしておこうという気持ちではあります。
飲んでいるときに話す内容が具体的なのかもしれません。「舞台が好き」で終わらずに、どんな舞台が好きなのかとか、普段どんなものを観に行っているのか、どういう脚本が好きとか、話を広げています。だからその場だけの社交辞令にならずに続くのかもしれないですね。
——わたなべさんが描くようなご近所付き合いに憧れる一方で、家の場所がわかるような相手とのコミュニケーションにハードルを感じる自分もいます……。
私も昔は、近所に知り合いがいることがすごく嫌で、お店の人に「いつもありがとうございます」と言われると、そのお店に行きにくくなっていました。でもこの街に10年以上住む中で、少し出かけると何人か知り合いに会うことが多くて、だんだんと慣れていった部分はあります。
ご近所さんみんなで少し遠くまで出かけて、みんなでこの街に帰ってくるのが遠足みたいで楽しいんです。仲の良いクラスメイトと一緒にいるような感覚で、「友達に会える」という学校の楽しいところだけ体感できています。
近くに仲良くしてくれる人がいて、何かと心配してくれたり面白がってくれたりするのはすごくありがたいです。近所のお店に行くと誰かしら顔見知りに会うことが多くて、一緒にお酒を飲んで、難しいことを話さなくても、落ち込んだり疲れたりしていても、気が紛れますね。
つらい経験から定着した「考える癖」だけれども……。
——わたなべさんの、ご自身の色々な悩みや困りごとに向き合って、改善していく過程での掘り下げが、読者としても、はっとするような感覚になります。多くの人はそこまで気がつかないと思うのですが、そういった向き合いをするようになったきっかけや、日頃持つようにしている視点について聞かせていただけますか?
根本的には、子どもの頃からの性格があると思うんです。詳しくは『自分を好きになりたい。』(幻冬舎)で描いたのですが、母が激しく怒る人で、私のどこが悪いのか、どこを変えたら母が怒らなくなるのかをずっと考えていたんです。なので、そうやって考える癖が定着したのだと思います。
子どもの頃はつらいものでしたが、今は自分のそういう特徴をネガティブなものとしてはあまり受け止めたくなくて。今となっては、自分を省みる視点を持っていたり、客観的に見る部分だったりと、長所にもなっているととらえています。
【プロフィール】
わたなべぽん
漫画家。山形県出身。第6回コミックエッセイプチ大賞・C賞を受賞しデビュー。
既刊に、累計50万部突破の「やめてみた。」シリーズや『自分を好きになりたい』(幻冬舎)のほか、お片づけコミックエッセイ『ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました』、『人見知りの自分を許せたら生きるのがラクになりました』(KADOKAWA)など。
現在はこよなく愛する西荻窪に暮らす。
■X:@PonWatanabe
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