運動不足が招く…痛みを感じない圧迫骨折 「いつの間にか骨折」に要注意!【医師が教える】骨対策とは

 運動不足が招く…痛みを感じない圧迫骨折 「いつの間にか骨折」に要注意!【医師が教える】骨対策とは
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外での運動が難しい梅雨の時期。運動不足解消のために自宅でトレーニングを始めたという人も多いかもしれませんが、動かないことで筋肉だけでなく、骨も弱ってしまうのです。

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在宅勤務の人は危機感を

「寝たきりの人の場合、1週間で1%くらい骨密度が落ちるとされ、人によっては数週間で1年分の骨量を失うことも。寝たきりではないにしても、週のうち多くを在宅勤務で過ごし、食事は宅配、家の中の最低限の移動しかしないとなると、これに近い状態であるという危機感は持ったほうがいいかもしれません。骨密度の低下は、男性であれば50歳を超えてから、女性であれば閉経後に拍車がかかるので、特に注意が必要です」と話すのは、骨粗鬆症学会認定医でもある、そしがや大蔵クリニック院長の中山久德(なかやまひさのり)先生。

ビタミンD不足により転倒リスクが高まる可能性あり

外を歩かないことで、身体を作る栄養素の面にも弊害をもたらすといいます。

「骨を作るうえで欠かせない栄養素はカルシウムだけではありません。カルシウムの吸収を促すビタミンDも大切ですが、これは日光を浴びることによって体内でも生成されます。ビタミンDは食べ物からも摂取できますが、皮膚での合成量のほうがより多いと言われています」

ビタミンDの不足は骨折のリスクを高める恐れもあると中山先生。

「近年の研究で、ビタミンDは脳と筋肉の協調を高める働きを持ち、転倒のリスクを減らすことがわかっています。日本人は血中のビタミンDが少なく、欠乏しやすいこともわかっています。家の中のちょっとした段差にもつまずくようになったという人は、ビタミンD不足が疑われる可能性も。何カ月も家の中にいる時間が長い巣ごもり生活が続いた後、いつもより筋肉や関節のしなやかさが失われていることで、転びやすい身体になっていることも予想されます」

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若年層も要注意!骨のピークは20代

「運動量が低下することで、一番心配しているのは骨老化です。骨密度は思春期から高まり、女性ではおよそ20歳代で、男性では少し遅れてピークに達します。そしてこの最高値が女性では閉経するころまで維持され、男性では40歳代ころから低下していきます。したがって、最大骨量に達するまでの間に骨密度を高める努力、つまり骨貯金することがとても重要となります。しっかりとした骨格を作るこの時期に、活動量が少ないのは問題です。」丈夫な骨で長生きするためには若いうちから気にかけておかなければなりませんね。「年齢と共に、男性はゆるやかに骨密度が低下していき、女性は閉経でガクンと低下します。男女共に骨を丈夫にするために重要なことは、栄養と運動です」

痛みを感じない圧迫骨折にも注意!

骨が弱くなることによる骨折。年代によっても、注意したい骨折は変わってくるといいます。

「40代、50代の方が起こしやすいのは、転んだ拍子に手をついてしまって強い負荷がかかることによる手首よりやや手前の骨折。60代からは背骨の圧迫骨折のリスクが増え、70代からは大腿骨の付け根の骨折が増加。これは寝たきりの原因にもなってしまいます。60代くらいから注意したい圧迫骨折には『いつのまにか骨折』とも呼ばれる痛みを感じない骨折が多いのが特徴。レントゲン写真を撮って初めて指摘される人も多い骨折です。簡単にチェックする方法は家の中で壁を背にしてまっすぐ立ち、背中をつけてみてください。背中が曲がってしまい、後頭部が壁につかない人は危険信号です」

ウォーキングで 日光から効果的にビタミンDを

骨がもろくなることを防ぐためには、「適度な運動」「適度に日光を浴びて皮膚に紫外線照射」「十分なカルシウムの摂取」が不可欠だと、中山先生。

「骨は重力の負荷がかかることと振動を与えてあげることで活性化していくという性質を持っています。一番簡単で効果的なのはウォーキング。少し速めに、歩幅を広めに、腿を上げることを意識して歩くことがポイントです。暑い最中に長時間歩く必要はありません。ビタミンDを作るということで言えば、晴天時であれば 15分も歩けば OK。曇り空でも20〜30分も歩けば十分です。皮膚でビタミンDを作るには肌に紫外線が照射することが大事なので、UV ケア重視で身体中を覆ってしまうより、両肘まで腕は出した状態で歩くことがお勧めです」

自宅でおすすめは「かかと落とし」運動

「骨の健康に一番いいのはジャンプすること。お子さんや若い人だったら、手軽に自宅の前でできる『なわとび』がおすすめです。そして、体力に自信のない人や高齢者でも家の中で簡単にできるのが、つま先立ちでかかとを上げた後に床にドスンと落とす『かかと落とし』と呼ばれる運動。ドスンと骨に振動を与えることで、骨の形成に関わるオステオカルシンというホルモン物質が効果的に分泌されます。オステオカルシンは神経細胞のネットワークをよくする働きもあるため、認知症予防にもよいということが解明されています」と中山先生。

自宅で出来る「かかと落とし」運動のやり方

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「姿勢をよくして真上に伸び上がるようにつま先立ちになり、ドスンと一気にかかとを床に落とす。膝を伸ばし、かかとから頭までが一直線になっていることが大切。1度に10回を朝昼晩の3セットで30回くらいを目標に。転倒の危険がない安全な場所で行いましょう。」と中山先生。

※膝などに障害がある方、すでに骨粗鬆症の診断を受けている方などは、運動を行う前に医師にご相談下さい。

食事で対策する場合はカルシウムが吸収されやすくなる工夫を

運動に加えて、食事ももちろん大切。骨を丈夫にするのに大切な栄養素といえばカルシウムが真っ先に思い浮かびますが、そこには意外な盲点があると中山先生は言います。

「カルシウムは吸収率が悪い栄養素。一番いいと言われている乳製品でも含まれているカルシウム量の50%くらいしか吸収されず、小魚は30%程度とさらに少なくなります。野菜の中では小松菜に多く含まれますが、食物繊維が含まれていることでカルシウムの吸収を邪魔してしまうため、20%くらいしか吸収されないと言われています」

せっかく食べた栄養素をより効率的に体内に吸収するためには、調理の際にひと工夫することがおすすめです。

「クエン酸はカルシウムのイオン化を促進して吸収しやすくする『キレート作用』を持っています。レモンは果物の中でもクエン酸含有量がトップクラス。ですから、カルシウムを多く含む乳製品などと一緒にレモンを取りいれるといったひと工夫をすることで、より効果的に摂取できます」

またレモンには抗酸化作用のあるビタミンCも豊富に含まれており、身体にとって重要な働きを持っています。

「ビタミンCはコラーゲンの生成を促すという働きを持っています。コラーゲンはたんぱく質なので、腸から吸収される時にはアミノ酸にまで細かく分解されてとりこまれますが、その時にビタミンCを摂っておくと、体内でアミノ酸からコラーゲンが作られるように誘導してくれるのです。マスクを着け続けることで肌荒れやシワ・たるみなどが気になる女性が多いと聞きますが、肌の健康を底上げするためにも、レモンのビタミンCを積極的に摂るといいでしょう。骨の半分はコラーゲンでできているので、骨の健康にも役立ちます。ビタミンCは加熱に弱い特性を持つので、最後にかけるといった使い方がおすすめです」

教えてくれたのは… 中山 久德 (なかやま ひさのり)先生

骨粗鬆症学会認定医 そしがや大蔵クリニック 院長。国立山形大学医学部卒業後、東京大学医学部アレルギーリウマチ内科に入局。2012年4月、世田谷区砧にて『そしがや大蔵クリニック』を開院。リウマチ内科医として、関節リウマチ・膠原病・骨粗鬆症の診療に従事。全身疾患 の臨床経験を生かし身体の全般についても診察。テレビ、雑誌などでも活躍。

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text by Chiaki Okochi

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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