【感染症の季節】9割の人が正しく使えていない?アルコール消毒薬の正しい使い方|薬剤師が解説
風邪やインフルエンザ、新型コロナなど、感染症にかかりやすい寒くて乾燥した季節がやってきました。感染症を予防するには、うがいや手洗いのほかアルコール消毒薬の使用が有効です。この記事では、意外とできていないアルコール消毒薬の正しい使い方について解説します。
自己流で消毒ができていない人が9割
民間の研究機関が行った、アルコール消毒薬の使用実態調査によると、実に9割の人が「消毒が十分にできていない」ことが判明。そのうち6割の人は自分ではしっかりと消毒できていると思っていたにも関わらず、できていなかったという実態が浮き彫りになりました。
なお、十分に消毒できていなかった手の部位は次の通り。(複数回答)
・「指先」ができていない……81%
・「指の間」ができていない……67%
・「手のひら」ができていない……52%
この結果から、アルコール消毒薬は自己流の使い方では、十分な効果が発揮されないことが分かります。
消毒が十分にできていない2つの理由
消毒ができていない人の「消毒薬の使い方」には、次の2つの傾向がみられました。
・消毒液の使用量が不十分…65%
使用量が十分でないため、消毒液が手指全体に行き渡っていない。
・こすり合わせの時間が短すぎる…85%
部分的に消毒液をすり込むだけで、サッと終わらせてしまう。手にとった消毒液が揮発するまでしっかりと手にすり込む時間が足りない。
このように「使用量」と「こすり合わせる時間」の2つが、アルコール消毒薬を正しく使えていない大きな要因と考えられます。
消毒効果を得るための2つのポイント
手指消毒薬を使用するときには、抑えておくべきポイントが2つあります。そのポイントを抑えて手指を消毒した場合、それを知らずに消毒した場合に比べて、平均で100倍も菌やウイルスを減少させられることが分かっています。
手に十分な量の消毒薬をつける……目安は2プッシュで30秒
アルコール消毒薬は1プッシュで1mlの薬剤が出るように設計されています。日本感染症学会のガイドラインでは、消毒時間をとるために“2プッシュ(2ml)”の薬剤をとり、約30秒間、手を擦り合わせて使用することを推奨しています。
また、擦り込み時間に関してWHO(世界保健機関)及びCDC(米・疾病対策予防センター)では「薬剤を塗布して10~15秒擦り合わせ、手が乾いた状態であれば、塗布が“不十分”」としており、WHOのガイドラインでは「確実な手指消毒のためには20~30秒の消毒時間が必要」としています。
アルコール消毒薬の効果をしっかり発揮させるには、手指全体にササッと行き渡らせるだけでなく、十分な量を手に取り、30秒間しっかりと手に擦り込むことが大切です。「もったいないから」といって少量の消毒液しか使わないのであれば、本来の効果は期待できません。
なお、ジェルタイプの場合は、1プッシュで3mlの薬剤がでるようになっていますので、1プッシュの量で30秒間、擦り合わせれば良いでしょう。
塗り残しがないようにまんべんに塗り広げる……とくに指先の塗り残しに注意
手の中でもっとも塗り残しが多いのが指先です。指先は、さまざまなところを触れたりつかんだりする部位にも関わらず、しっかりと薬剤を塗り広げられていない人が大半です。消毒薬を手に取ったらまず指先を浸したり、消毒薬を直接指先に吹きかけたりするなど、指先に塗り残しがないように注意しましょう。
なお、消毒薬を正しく塗り広げる手順は次の通りです。
①「指先」……手のひらに指先を当てて爪のあたりも十分に消毒。
②「手のひら」……両手のひら全体に消毒薬をよく擦り込む。
③「手の甲」……手の甲全体も同様に。
④「指の間」……両手の指を組み、指の間にもしっかりと消毒剤を擦り込む。
⑤「親指」……片方の手でもう片方の親指を包み込み、両手の親指もしっかりと。
⑥「手首」……両方の手首も忘れずに。
⑦「手全体」……最後に手全体を擦り合わせる。
この手順で30秒間かけて、手の細かな部位まで丁寧に消毒薬を擦り込むのが正しい使い方です。
石鹸とアルコール消毒薬の違い
普通の石鹸で手を15秒間洗っても皮膚の病原菌数は1/4~1/12にしか減少しません。また、30秒間洗った場合でも1/63~1/630ほどの減少です。
一方、アルコール消毒液は正しい使い方をした場合、30秒後には、手指の細菌数を約3,000分1に減少させ、1分後には10,000~100,000分の1まで減少させることができます。
手指に付着したウイルスなどの病原体を確実に減少させるには、石鹸での手洗いだけでなく、やはりアルコール消毒薬の使用が有効といえます。
まとめ
アルコール消毒薬での手指消毒は、今や日常習慣となっています。しかし、9割の人は正しい使い方をしておらず、十分に消毒・殺菌できていない現状です。風邪やインフルエンザなどに罹りやすくなるこれからの時期、正しい手指消毒のやり方を身につけ、しっかりと予防しましょう。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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