冬は腰痛に悩む人が増加!腰痛の予防法と意外と知らない湿布薬の正しい選び方・使い方|薬剤師が解説
日ごろからなんとなく“腰が痛い”という人は多いもの。とくに寒さが増すこれからの季節、腰痛に悩む人が増えてきます。この記事では腰痛の原因や対処法、市販の湿布薬の使い方などを紹介します。
腰痛の有訴率は男女とも1位
厚生労働省の令和4年「国民生活基礎調査」によると、腰痛の症状がある人は全国に2,800万人いるとされています。自覚症状の高い病気として常に上位にあがっており、有訴率は男女とも1位となりました。
腰痛は歳をとるにつれて増加します。加齢による骨や筋肉の老化、病気などが原因となることもありますが、最も多いのが無理な姿勢を続けるなど、日ごろの生活習慣によって起こるケースです。
どんな姿勢が腰に負担をかける?
立つより座る姿勢、さらに前かがみが腰の大きな負担に
腰痛は2本足で直立歩行する人間の宿命ともいわれています。4本足の動物の背骨は、地面に対し、水平なので腰に負担はかかりませんが、人間の背骨は垂直なので、腰で上半身の重みを支えなければなりません。
さらに、姿勢が悪いと、腰椎(背骨の腰にあたる部分)や腰回りの筋肉、背骨のつなぎ目でクッションの役割をする軟骨組織や椎間板に大きな負担がかかります。
腰への負担は、「寝る」→「立つ」→「座る」の順に大きくなります。また、背筋を伸ばしたときに重心が腰の中心にかかる正しい姿勢より、背中を丸めた、いわゆる「猫背」の姿勢のほうが、腰への負担を大きくします。
イスの背にもたれて腰を前に出すように座る姿勢(仙骨座り)なども、一時的には楽に感じるかもしれませんが、体のバランスを保つために、腰椎や筋肉に余分な力がかかってしまい腰痛の原因となります。
洗面台で顔を洗ったり、歯を磨いたりするときに前かがみになる姿勢や、前かがみの状態で重い物を持ち上げる姿勢では、腰への負担はいっそう増加します。こうした悪い姿勢が習慣化することで腰痛を起こすケースが、実は最も多いのです。
女性特有の腰痛とは?
月経時や妊娠時、婦人科系の病気、冷えなどが原因
女性の場合、月経時の下腹部の痛み、いわゆる月経痛とともに腰痛を訴えるケースが多くあります。また、妊娠後期には腹部が大きくせり出して腰が反りかえる姿勢になるため、腰痛が起こりやすくなります。育児中も赤ちゃんを中腰で抱き上げるなど、腰痛の原因となる動作が増えます。
さらに、女性はもともと男性より骨量が少ないのに加え、閉経後は女性ホルモンが減少することにより、腰痛の原因ともなる「骨粗鬆症」になりやすいため注意が必要です。また、女性に多く見られる「冷え」による血行不良が腰痛を招くことも多いといえます。
ヒールの高い靴も腰痛の原因に
高いヒールの靴を履くと、バランスをとるためにどうしても骨盤が前のほうに湾曲します。すると腰椎へ大きな圧力がかかるとともに周辺の筋肉が疲労し、腰痛が起こります。
とくに長時間歩いたり、立ちっぱなしのときはヒールの高い靴を避けてください。腰痛予防のためにはかかとが低く、足に合った安定性のよい靴を選びましょう。
腰痛を予防するための生活法は?
良い姿勢を保ち、腰に負担のかかる動作を改めましょう。
腰痛を予防・改善する最大のポイントは、良い姿勢を心がけることです。長年の習慣となっている悪い姿勢はすぐに改められるものではありませんが、日常生活で常に意識して良い姿勢を保つように心がけましょう。
【良い立ち姿勢】
・ あごを引く
・ 肩の力を抜く
・ 胸を軽く反らす
・ お腹を引き締める
・ 腰は反らさない
・ お腹は突き出さない
・ お尻を引き締める
【悪い立ち姿勢】
・ お尻を突き出して腰が反った凹背(イラスト中央)
・ 背中が丸い猫背(イラスト右)
・ 背中が丸くてお腹が突き出た凹円背 (上記2つが重なった姿勢)(イラストAC)
良い姿勢でも長時間立ったり、座ったりしなければならない場合は、ときどき伸びをして、背すじを伸ばしたり、体を動かしたりすることも大事です。
また、運動不足も腰痛の原因になります。骨を丈夫にするためにも、ウォーキングや水泳、サイクリングなど自分に合ったスポーツやエクササイズを楽しむことをおすすめします。
外用消炎鎮痛剤の正しい選び方・使い方
腰痛を和らげるためには、市販の「外用消炎鎮痛剤」の使用が有効です。外用消炎鎮痛剤には、主に炎症を鎮めて痛みを緩和する成分(インドメタシン、ピロキシカム、ジクロフェナクナトリウムなど)や、血行を促進する成分(サリチル酸グリコール、ビタミンEなど)が含まれています。
また、外用消炎鎮痛剤は、「貼り薬」と「塗り薬」の2種類に分けられます。それぞれの特徴は次の通りです。
【貼り薬】
・ ハップ剤……水分を含んでおり、「温感タイプ」と「冷感タイプ」がある。
・ テープ剤……ベタつかず伸縮性と粘着性に優れている。
【塗り薬】
・ 軟膏……刺激が少なく肌に優しい。
・ ローション(液剤)……爽やかな清涼感で浸透力に優れ、速乾性がある。
・ ゲル……サラリとした使用感でムラなく均一に塗布できる。
・ スプレー……広範囲に塗布でき、アイシング効果も得られる。
「貼り薬」と「塗り薬」はどのように使い分けるの?
貼り薬は汗や水分などで落ちることなく薬剤を患部に安定して貼付でき、効果に持続性があるのがメリット。痛みを鎮める薬効に加え、患部を冷やしたり温めたりする効果も得られます。
ただし、ひじやひざの関節など激しく曲げ伸ばしする部分や、首筋や腕など美容上見せたくない部分には貼れないなど、貼る場所が限定されます。
一方、塗り薬は手軽にどこでも塗布できることができ、足全体など広い範囲や貼り薬が貼りにくい場所には便利です。ただし、汗や水分で薬剤が流れ落ちてしまいがちで、貼り薬より持続性は弱くなります。
「冷感タイプ」と「温感タイプ」の使い分けは?
患部の腫れや強い痛み、熱を持った急性期や、冷水などで冷やした方が気持ちいい場合は「冷感タイプ」が効果的です。症状が落ち着いたら「温感タイプ」に切り替えると、血行を促進して回復を早めることができます。
慢性的なこりやお風呂などで温めると気持ちがいい場合も「温感タイプ」が有効です。逆に、急性期に温感タイプを使うと痛みが増すことがあるので注意してください。
湿布薬の正しい保管方法は?
貼り薬の水分含有量はハップ剤で約50%、テープ剤で約15%です。そのため、保管状態が悪いと水分や有効成分が蒸発し、薬の効き目が弱くなったり、粘着力が低下したりする可能性があります。
開封後はチャックなどでしっかり密封し、冷暗所で保管しましょう。また、チャックで再封していても、少しずつ蒸発していきます。そのため、貼り薬は開封後2~3カ月以内に使うことを目安にしてください。
救急箱にほかの薬と一緒に保管する人も多いようですが、貼り薬の揮発成分が容器を通してほかの薬の中に入ることがあります。貼り薬は救急箱に入れず、別に保管するとよいでしょう。
まとめ
腰痛は日常の悪い姿勢に起因することが多いといえます。正しい姿勢を心がけ、前かがみの姿勢を改善したり、ヒールの高い靴を避けたりすることが腰痛の予防につながります。また、閉経以降は骨粗鬆症による腰痛にも注意が必要です。
湿布薬を選ぶときは、急性の痛みには、「冷感タイプ」、慢性的な腰痛の場合は、「温感タイプ」を利用すると良いでしょう。どのタイプがよいか分からない場合は、薬剤師に相談してください。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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