睡眠に満足していない人は5割以上!睡眠のトラブルと市販の睡眠改善薬の正しい使い方|薬剤師が解説
健やかな睡眠は、健康な心身を保つ上でとても重要です。よい眠りをとるにはどうしたらいいか? この記事では、厚生労働省が発表した「よりよい睡眠のための12カ条」を参考に、良い睡眠のとり方、市販の睡眠改善薬の使い方などを解説します。
睡眠に満足していない人は5割以上
厚生労働省が行った調査によると、「ここ1カ月、あなたは寝床に入っても、寝つきが悪い、途中で目が覚める、朝早く目覚める、熟睡できないなど、眠れないことがありましたか」という問いに対して、眠れないことが「頻繁にある」または「時々ある」と答えた人は、男性の50.9%、女性の56.0%に上りました。
これだけ多くの人が睡眠に関して悩みを抱える中、どのような解決法があるのか、まずは睡眠のメカニズムを理解しておきましょう。
睡眠のメカニズム
人の睡眠にはリズムがあり、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類の睡眠を交互に繰り返しています。また、睡眠の深さは浅い眠りから深い眠りまで4段階のステージに分けられます。
レム睡眠
浅い眠りの状態です。レム睡眠は1回20分程度で、その間にストレスの処理や記憶の整理などを行います。脳は比較的活発に働き、覚醒に近い状態です。夢を見るのもレム睡眠の間です。
ノンレム睡眠
深い眠りの状態で、成長ホルモンの分泌や免疫機能などに関わります。ノンレム睡眠の中でも浅い睡眠のステージ1と2、深い睡眠の3と4があり、眠りが深くなるほど脳は休息状態になります。
入眠後はノンレム睡眠のステージ1から順に深くなり、そこから再度浅くなってレム睡眠に移行します。これを「睡眠サイクル」といい、約90分の周期で一晩に3回から4回繰り返します。
睡眠の前半は深いノンレム睡眠が、後半には浅いレム睡眠が多くなり、朝に向かって覚醒しやすいリズムをつくっています。
体をつくる成長ホルモンなどはステージ3と4の深い眠りの間に分泌されます。そのため、良い睡眠には、これらのステージが多くあらわれる、就寝後3時間が重要とされてます。
寝ている間に体ではどのようなことが起こっているのか?
睡眠には疲れた脳と体を回復させ、健康を維持、増進させる大きな効果があります。とくに睡眠中に分泌される次のようなホルモンが重要な役割を担っています。
成長ホルモン
成長期の子どもの筋肉や骨の発育を促すほか、疲労回復や若さの維持、体の恒常性を保つ」働きをします。(子どもの成長のためだけに働くものではありません)
メラトニン
体内時計を正常に保ちます。また、“睡眠の質を高める”働きがあります。メラトニンの分泌は日中、光を浴びている時間帯は抑制されていて、起床して約14~16時間後に当たる睡眠時間帯に上昇を開始、深夜にピークを迎えます。
コルチゾール
ストレスがかかると分泌量が増加し、交感神経を刺激してストレスに負けない状態をつくります。
ただし、コルチゾールは、一時的なストレスに対応するために正常な量が分泌されます。そのため、長期に及ぶストレスを抱え込んでしまうと、過剰に分泌されたり、コルチゾールを分泌する副腎が疲れて必要なタイミングで分泌ができなくなったりして、やがてストレスに対処できなくなってしまいます。
夜眠れないのはどうして?
睡眠障害にはさまざまありますが、「眠れない」という不眠の原因で最も多いのが精神的要因によるものです。大切な日の前夜などに「眠れないかも」という思い込みや、心配事、ストレスなど、精神の緊張状態が脳や体に影響を及ぼし、睡眠を妨げます。
その他にも、次のようなことが不眠の原因になります。
・ 環境……寝室の気温や騒音、光など。
・ 食事……覚醒作用のあるカフェインなどを含む飲料の摂り過ぎなど。
・ 生活リズム……夜更かしや昼夜逆転の生活。昼寝のしすぎなど。
・ 心の病気……うつ病、神経症など。
なお、ストレスなどによりうつ病にかかると、比較的早い段階で睡眠障害が現れます。「眠れない」と言って病院を受診した人にうつ病が発覚するケースもあります。うつ病による睡眠障害の場合、明け方に向かう2~3時に目覚めてしまい、朝まで眠れないといった特徴が見られます。
「よりよい睡眠のための12カ条」
健やかな睡眠は健康な心身の要です。睡眠時間をきちんと確保する工夫と合わせて、睡眠の質を高める生活を心がけましょう。厚生労働省が発表した「より良い睡眠のための12カ条」を参考に、あなたの生活全般を見直してみてください。
1)「睡眠時間はひとそれぞれ。日中の眠気で困らなければ十分」……睡眠時間は年齢や季節によっても変化するものなので、一般的に言われる「8時間」にこだわらないこと。
2)「刺激物(カフェインなど)を避け、寝る前には自分なりのリラックス法を」……就寝前のカフェイン摂取を避ける。読書や音楽、軽い運動などを毎晩の日課にする。
3)「就寝時刻にこだわり過ぎない。眠たくなってから床に就く」……眠れない時は焦らないことが大事。一旦床を出て気分転換をするのも良いでしょう。
4)「休日でも同じ時刻に毎日起床」……休日の朝も平日と同じ時間にきちんと起き、自分の眠りのパターンを維持する。
5)「光の利用でよい睡眠を」……目が覚めたら日光を浴び、夜は明るすぎない照明の工夫を。暖色系の照明や間接照明を利用するのも良い方法です。
6)「規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣」……朝食はしっかり摂り、夜は軽めに。日中の適度な運動は、熟睡を促すので習慣に。
7)「昼寝は15時前までに20~30分で切り上げる」……夕方以降や長時間の昼寝は夜の睡眠に影響するため避ける。
8)「眠りが浅い時は、むしろ積極的に遅寝・早起きする」……眠りが浅いからといって、だらだらと長時間寝床で過ごさずに、きちんと起きる。
9)「睡眠中の激しいいびき、呼吸停止、足のぴくつき、むずむず感には要注意」……このような症状がある場合、病気が隠れている可能性があるため専門医に相談を。
10)「十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医を受診」……日中の眠気が強い場合は専門医に相談する。また、車の運転に注意。
11)「睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと」……飲酒はいびきや睡眠の質を下げる原因になるため寝酒は控える。
12)「睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安心」……一定時刻に服用し就寝。服用後は30分以内に床に就くこと。
市販の睡眠改善薬を利用する方法も
心配事などによって起こる一時的な不眠であれば、市販の「睡眠改善薬」を活用するのも一つの方法です。
医師の処方が必要な睡眠薬・睡眠導入剤とは異なり、花粉症の薬などに含まれる抗ヒスタミンという成分の副作用により眠気を誘発します。比較的穏やかな作用のため、自然に近い眠りに導く効果が期待できます。
【睡眠改善薬の製品例】
「ドリエル」(エスエス製薬)、「ネオデイ」(大正製薬)、「リポスミン」(皇漢堂製薬) など (※成分や配合量はどれも同じです)
まとめ
睡眠のトラブルには、さまざまな原因があります。ストレスなど精神的な要因だけでなく、運動不足などで日中の活動量が減ると、睡眠のリズムにも影響を及ぼし、眠れなくなることもあります。眠りに就くという一面だけを捉えるのではなく、日常生活全般を見直し、良い睡眠につながる生活リズムをつくることが、質の高い睡眠につながるといえるでしょう。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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