あなたも「隠れ痔」かも?【意外と多い女性の痔】なりやすい原因と薬の選び方を薬剤師が解説

 あなたも「隠れ痔」かも?【意外と多い女性の痔】なりやすい原因と薬の選び方を薬剤師が解説

痔は日本人の3人に1人は患っているといわれるほど身近な病気。一般的に男性に多い病気というイメージがありますが、実際の男女差はほとんどありません。とくに女性の場合、恥ずかしさや治療に対する不安から一人で悩み、放置して悪化させてしまいがちです。この記事では、女性が痔になりやすい原因や、ネットでも購入できる市販薬の選び方などを解説します。

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女性が痔になりやすい原因とは?

便秘

女性の痔の最大の原因は便秘です。便秘になると排便時に必要以上にいきむため、肛門周辺の血管に負担をかけ、うっ血するため痔が起こりやすくなります。また、硬い便を無理に出すことで肛門の粘膜が傷ついたり炎症を起こしたりすることも痔の原因になります。

女性ホルモンの影響

女性ホルモンのうち、「黄体ホルモン(プロゲステロン)」は、大腸の腸壁から水分の吸収を促すとともに、腸の蠕動運動を抑える作用があります。 そのため、黄体ホルモンの分泌が活発になる排卵から月経までの間はとくに便秘が起こりやすくなります。

冷え症

お尻の周辺は34~35度と、もともと低体温の部位です。体が冷えるとさらに血液循環が悪くなるため肛門部がうっ血しやすくなります。

妊娠・出産

妊娠すると血液がお腹に集中するため肛門の血行が悪くなり、さらに胎児の成長による重みで肛門がうっ血します。出産時は、いきむことにより肛門に排便時の数倍の負担がかかります。また、授乳が始まると水分が不足して便秘になりやすくなります。

同じ姿勢を長時間続ける

座りっぱなしや立ちっぱなし、離席しにくい、オフィスが寒いなど、職場の環境も痔を招く原因の一つです。

その他の原因

そのほかにも、外出先で便意を我慢する、腹筋が弱く便を押し出す力が弱い、排便時間が長い、刺激物やアルコールの摂り過ぎ、過度のストレス、ダイエットで食事制限をして便の量が減ることなども便秘の原因と考えられます。

痔にはどのような種類がある?

痔とは肛門とその周辺の病気の総称で、「痔核」(じかく)、「裂肛」(れっこう)、「痔瘻」(じろう)の3つに大別されます。

肛門のしくみと痔の種類
肛門のしくみと痔の種類 イラスト/AC

①「痔核」(いぼ痔)

痔の中で6割を占める最も多いタイプです。痔核は肛門を閉じる役割をするクッションの部分に負担がかかってうっ血することでいぼ状になったものを指します。直腸と肛門の境目にある歯状線(しじょうせん)の内側にできる「内痔核」と外側にできる「外痔核」に分けられます

②「裂肛」(切れ痔)

硬い便や下痢の刺激などで肛門の出口付近に傷がつくことで起こります。排便の度にズキズキとした強い痛みがあり、繰り返し同じ場所が切れて慢性化しやすい特徴があります。また、男性より女性に多い傾向がみられます。

③「痔瘻」(あな痔)

歯状線のくぼみに便の中の大腸菌などが入り込んで感染し、直腸や肛門の周辺に炎症を起こして膿がたまります(これを肛門周囲膿瘍といいます)。

排便に関係なく肛門の周囲がズキズキと痛み、発熱を伴います。繰り返すと膿瘍が皮膚を破り直腸や肛門とつながるトンネルができます。痔瘻は比較的、男性に多いのですが、女性でも少なくありません。原因には、下痢が関与することが多いと考えられています。

痔を放っておくとどうなるの?

痔は良性の病気ですが、治療せず放っておくと出血や痛みに悩まされたり、排便に大きな支障をきたしたりするケースも少なくありません。内痔核の場合、いぼが次第に大きくなり、排便時に肛門の外に脱出します。始めは排便が終われば自然に戻りますが、最終的には指で押しても戻らなくなる「脱肛」という症状が起こります。

内痔核の進行度
内痔核の進行度 イラスト/AC

裂肛の場合は、排便のたびに刺激が加わり、傷口が深くえぐられて潰瘍になります。潰瘍部分には便がたまりやすいため、細菌の感染によって炎症を起こし、肛門ポリープや肛門の出口に“見張りいぼ”と呼ばれる突起ができます。さらに悪化すると肛門が狭窄し、便が出なくなり手術が必要となることもあります。

病院ではどんな治療をするのか?

肛門科では問診後、患部の指診、肛門鏡という器具を使った検査などを行います。「痔の治療=痛い手術」と思われがちですが、手術が必要となるケースは全体の約2割です。残りの8割は生活指導と治療薬によって症状が改善されます。

【女性も安心 受診のワンポイントアドバイス】

・ 専門医のいる「肛門科」を受診すると良いでしょう。女性専門外来やレディース・デーを設けている医療機関もあります。
・ 来院時は脱ぎ着のしやすい服装で。体を締めつける下着は避けましょう。
・ 生理中でも診察や治療は支障なく受けられます。生理になっても受診日を変える必要はありません。
・ 妊娠中でも産婦人科の医師と相談のうえ、治療を受けることが可能です。

市販薬の選び方と使い方

痔核や裂肛で症状が軽いうちは、市販薬を使用することで症状は改善に向かいます。

痔の症状は、「痛み」、「出血」、「腫れ」、「かゆみ」で、これを痔の4大症状といいます。これらの症状を緩和するために、さまざまなタイプの痔の薬(痔疾薬)が市販されていますので、痔の種類や症状によって製品を使い分けるとよいでしょう。

痔の薬の剤形

坐剤(座薬)

炎症を抑える成分のほか、痛み止め、かゆみ止め、殺菌作用のある成分などが含まれています。内痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)に効果的です。

【坐剤(座薬)の製品例】 「ボラギノールA坐剤」(天藤製薬)、「プリザS坐剤」(大正製薬)、「プリザエース坐剤」(大正製薬)、「ジーフォーL」(佐藤製薬)、「ドルマインH坐剤」(ゼリア新薬) など

軟膏・クリーム

成分は坐剤とほぼ同じですが、外痔核など肛門周辺の痔には軟膏やクリームタイプの治療薬が向いています。

【軟膏・クリームの製品例】 「ボラギノールA軟膏」天藤製薬、「プリザSクリーム」(大正製薬)、「プリザエース軟膏」(大正製薬)、「ジーフォーL軟膏」(佐藤製薬)、「オシリア軟膏」(小林製薬) など

注入軟膏

注入軟膏は、肛門の内側にできた痔には薬液を肛門内に注入、外側の痔には薬剤を塗布することで、肛門の内側と外側の両方の痔に使用できます。患部や薬剤に直接触れないため、衛生的に使用できるメリットもあります。

【注入軟膏の製品例】 「ボラギノールA注入軟膏」(天藤製薬)、「プリザエース注入軟膏」(大正製薬)、「ジーフォーL注入軟膏」(佐藤製薬) など

肛門洗浄剤

排便後の肛門を清潔に保ち、痔を予防・改善します。痔は患部を清潔にすることがとても大事です。また、シャワートイレ(ウォシュレット)がない場合や外出時の携帯用としても便利です。

【おしりのかゆみや洗浄剤の製品例】 「薬用サニーナ」(花王)、「泡がやさしいおしり洗い」(ピジョン)、「ラクラクおしりきれいミスト」(ピジョン)、「プリザクールジェル」(大正製薬) など

このほかにも、痔の炎症を抑える内服薬や、「乙字湯」(おつじとう)などの漢方薬も市販されていますので、症状に合わせて使用すると良いでしょう。外用薬と内服薬は併用しても構いません。

痔の薬の使用上の注意点

外用薬(座薬や塗り薬)は事前にシャワートイレや、座浴、入浴などで肛門を洗ったり、肛門洗浄剤で清潔にしたりしてから使いましょう。使用の前後は手も清潔に。坐剤や注入軟膏を使う時は、しゃがんだ状態で坐剤を入れ、手で押さえて肛門に力を入れながら立ち上がるとスムーズに入ります。

また、坐剤の上部に軟膏やクリームを塗っておくと、さらにスムーズに入ります。

なお、外用薬を10日間くらい使用しても症状がよくならない場合や使用後に発疹、かゆみ、腫れなどの異常が出た場合は、使用を中止し医師または薬剤師に相談してください。

出血や残便感など、痔に似た症状が現れる病気で最も注意しなければいけないのは「大腸がん」です。痔であれば出血が見られない日もありますが、出血が日々増える場合などは痔以外の病気の可能性が高いので、すぐに肛門科を受診してください。

日常生活で心がけると良いこと

・ 「体のリズムに合わせて自己管理」……女性は排卵後から月経前の約2週間、黄体ホルモンの関係で便秘になりやすい傾向があります。自分の体のリズムを把握し、その期間はとくに生活習慣に気をつけるなど、上手に自己管理を行いましょう。便秘薬の使いすぎにも注意してください。

・ 「便意を我慢しない」……便意の我慢を繰り返すと便意を感じにくくなります。直腸に長く便がとどまって便秘になり、便秘は痔の大きな原因となります。

・ 「便意が起こってからトイレへ」……便意がないのに排便しようといきむと肛門に負担がかかり痔を招きます。

・ 「排便後はお尻を清潔に」……肛門周辺に汚れが残ると細菌が繁殖しやすく、痔の原因になります。シャワートイレ(ウォシュレット)や肛門洗浄剤を使い清潔を保ちましょう。

・ 「朝食をきちんと食べる」……朝起きて胃に食べ物が入る刺激で腸が活発に動き出し、便意が起こります(これを胃結腸反射といいます)。朝起きてからに、冷たい水や牛乳をコップ1杯飲むのも効果的です。

・ 「食物繊維や乳酸菌を摂る」……食物繊維は腸内で便のカサを増やして適度に柔らかくするので便秘の解消につながります。また、便通を整えるヨーグルトなどの乳酸菌製品も積極的に摂りましょう。

・ 「アルコールや香辛料は控える」……アルコールや刺激の強い香辛料は動脈血の流れを活発にして、静脈血の流れには作用しないため、動脈血と静脈血が交わる肛門がうっ血しやすくなります。痔の改善のためには、アルコールや辛い食べ物は控えましょう。

まとめ

女性が痔になる原因の多くには便秘が関わっています。まずは、便秘にならない日常生活を送ることが大事です。もし、痔の症状がある場合、痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)は、軽症であれば市販薬でも治療できます。

また、最近では、痔の薬はネット通販や製薬会社のオンライン販売で直接購入でき、他人の目を気にせず利用できるようになっています。どの薬を選べば良いか、分からない場合は、恥ずかしがらずに薬剤師に相談してください。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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