老化による物忘れと認知症、何がどう違う?精神科医が解説する、老化と認知症の見分け方5つのポイント
歳を取れば、誰でも物忘れするようになってきます。ですが、それは、脳の生理的な老化によるもので、認知症ではありません。 認知症による物忘れとどう違うのか?認知症との見分け方についてポイントを抑えながら説明致します。
記憶そのものができないのか?処理に時間がかかっているだけか?
記憶には、インプット、保持、アウトプットの3段階があります。
この記憶の3段階の処理スピードは、歳を重ねるごとに遅くなっていきます。
特に、記憶のアウトプットは、衰えやすく、歳をとると、覚えたはずのことがなかなか思い出せず、物忘れとして自覚します。
一方、認知症では、記憶するインプット、さらには、保持することができなくなります。
ですので、新しいことを覚えることが全くできません。
つまり「なかなか思い出せない!」「なかなか覚えることができない!」は、年齢による物忘れであり、認知症ではありません。
自分が行ったこと全てを忘れるか?一部分を忘れるか?
「昨日の夕食は、何を食べましたか?」と聞かれて、内容を正確に答えることができますか?
「昨日は、ハンバーグに、豆腐のお味噌汁、キュウリとレタスとトマトのサラダだった」と正確に答えることができる方もいれば、「ハンバーグとあと何を食べたかなあ?」と少し曖昧な方もおられるかもしれませんね。
ですが、「夕食を食べたかどうか分からない!」「忘れた!」という人は、記事を読んでおられる方の中には、おそらくいないのではないでしょうか?
もし、「夕食を食べたかどうか忘れた!」という場合は、それは認知症の可能性があります。
このように、年齢による物忘れは、あるエピソード(例では夕食)の一部が思い出せない物忘れで、認知症の物忘れは、エピソード全てを忘れる物忘れです。
ヒントで思い出せるか
役場に行こうとして、手続きに必要な印鑑がいつもの場所にない!
あちこち探すけど、見つからない!しまった場所が思い出せない!
そんな時、様子をみていた家族から「この前、銀行に行ってなかった?」とヒントをもらったとしたらどうでしょう?
「そう言えば・・・」と、印鑑をしまった場所が思い出せるかもしれません。
このように、ヒントをもらうことで、思い出せる物忘れは、脳の老化による物忘れで、認知症による物忘れではありません。
認知症の場合は、たとえヒントをもらったとしても、思い出すことができませんし、ヒントで言われた事すら忘れていません。
物忘れの自覚があるかどうか?
歳をとると「最近、物忘れが増えてきた」と自覚される方が多いかと思います。
その物忘れを自覚できていることこそが、認知症ではなく、年齢による物忘れと判断する決定的なポイントです。
そして、年齢による物忘れは、ほとんどの場合、記憶のアウトプットが原因で起こっている物忘れですので、その時は忘れていても、後から、ふとした瞬間に思い出すことがあります。
この後から思い出すことがあることも、認知症による物忘れとの違いになります。
場所、時間の見当識があるか
出かけた先で、道を間違えてしまった!道に迷ってしまった!駐車場が広すぎて、車までたどり着くのにウロウロしてしまった!などの経験をしたことありませんか?
あるある!という方もおられるかもしれませんね。
「道を間違える」「目的の場所になかなかたどり着けない」といった事は、海馬と呼ばれる脳の一部分の働きが低下し、自分の場所を認識する空間認識力が衰えていることで起こります。
海馬は、記憶力に関与している場所として有名ですが、自分が今いる場所を把握する空間認識にも関与しており、前頭葉と同様、年齢とともに働きが低下してきます。
そして、また、海馬は、認知症では早い段階から障害される場所でもあります。
では、道に迷う人は、認知症であるのか?というと、そうではありません。
自分は方向音痴で、よく道を間違える人であっても、何度も行ったことのあるスーパーマーケットに行こうとして道に迷って、たどり着くことができなかった!なんてことはないはずです。
つまり、初めての場所とか土地勘のない場所とか目印がない場所とかでは、自分の位置を把握しずらく、道を間違えたり、目的の場所にたどり着きにくいといったことが起こることは普通にあります。
特に年齢を重ねると海馬の働きは低下しますから、今まで道を間違えたことはなかった人でも道を間違えるようになってきたりします。
でも、もし、よく知っている場所や分かりやすい目印がある場所で、道を間違えたり、目的の場所にたどり着くことができないのであれば、それは認知症である可能性があります。
身近な場所、たとえば、いつも行っている近所のスーパーに買い物に行くときに道に迷ってしまったなんてことが起こった時は、要注意です。
AUTHOR
豊田早苗
鳥取大学医学部医学科卒業後、総合診療医としての研修及び実地勤務を経て、2006年に「とよだクリニック」を開業。2014年には「とよだクリニック認知症予防・リハビリセンター」を開設。「病気を診るのではなく、人を診る」を診療理念に、インフォームド・コンセントのスペシャリストと言われる総合診療医として勤務した経験を活かした問診技術で、患者さん1人1人の特性、症状を把握し、大学病院教授から絶妙と評される薬の選択、投与量の調節で、マニュアル通りではないオーダーメイド医療を行う。精神療法、とくに認知行動療法を得意とし、薬を使わない治療も行っている。
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