「離婚したらスッキリすると思っていた…」コミックエッセイで描かれる、40代女性・熟年離婚後の本音
思いやりのない身勝手な夫の言動や不倫。子どもが大きくなったら離婚してやる!と思っていたものの、いざ離婚したら単純にスッキリとはいかなかった。『離婚してもいいですか?』(KADOKAWA)など、離婚についてのコミックエッセイを描いてきた野原広子さんの新作『人生最大の失敗』(オーバーラップ)では、中年女性の離婚後の生活が描かれます。
「楽しいのは最初だけ」結婚の際、周囲から何度もそう聞かされていた主人公・エリコ。「そんなことはない」と信じていたものの、数年後にはワンオペ育児、口を開けば「疲れた」もしくは食事の話ばかり、体調不良でも寄り添わないなど、夫はすっかり変わってしまった。
それでも夫と娘と家があれば幸せ。そう自分に言い聞かせていた矢先、夫の不倫が発覚。夫が「人生最大の失敗は結婚」と不倫相手に告げる姿を目撃してしまう。
離婚を決意したエリコはお金を貯めるため仕事を始める。とはいえ、娘を動揺させたくない。娘の自立まで耐え抜き、ついに離婚を突き付け、エリコは一人での新たな人生を歩み始める。
離婚したらスッキリできる!と思っていたのに……
——野原さんのこれまでの作品『離婚してもいいですか?』や『妻が口をきいてくれません』では女性は結果的に離婚を選択していませんでした。今回、中年女性の離婚後を描いたのにはどのような背景があるのでしょうか。
数年前、私自身が40代後半に離婚を経験したことが大きいです。もちろん離婚に至るまでは何年も悩みましたが、結果として離婚に踏み切ることにしました。
当時は「離婚すればスッキリして気持ちよく新しい生活に踏み出せるだろう」と思っていたのですが、実際は「本当にこれでよかったのだろうか?」などと考えてしまって、予想以上にモヤモヤすることが多くて。
離婚後のモヤモヤを書いてある本を読みたかったのですが、そういう本が見当たらなくて、離婚してから数年経ちますが、今回私が描いてみようと思いました。
描くにあたって情報収集する中で、意外と離婚後に同じような経験をしている人が多いこともわかりましたね。本作は「離婚後あるある」の話になっています。
——なるほど……。エリコは勤務先のバツイチ40代年下男性「小林君」と親密になりますが、彼の存在も「あるある」なのでしょうか。
そうですね。私が離婚した直後に占いに行ったら、占い師さんに「これは占いではないけれど……」と前置きした上で、「離婚した後は優しくしてくれる男性が現れて嬉しくなるけれど、そのうちお金を貸してとか言ってくるはずよ。気をつけて。」と、言われまして(笑)多分、占い師さんのところにはそんな離婚後の女性がたくさん来るのだろうと思いました。そして、話を聞いているとそういった経験談も結構ありましたね。
——エリコが夫からされていた言動は世間で「モラハラ」と呼ばれる行為だと思います。最後には元夫が弱っている姿も描かれていますが、妻が離れて心から反省しているような声を聞くこともあるのでしょうか。
世間でモラハラと呼ばれるような言動をしてても、ほとんどの方は自覚がないように思えますが、離婚となって初めて「そうだったのかも…」とショボンとなっている元夫の方はいらっしゃいますね……。
「何がいけなかったんだろう?と妻の気持ちを理解するために野原さんの作品を読んでみました」というお声をいただくこともありますが、反省というよりは、離婚してもなお妻の気持ちがわからない……という印象を受けます。ぜひ、妻が離婚の決心をしてしまう前に、妻の声に耳を傾けていただきたいところです。
離婚準備に必要なのはお金・体力・子どもへの予告
——エリコはホテルに就職したとき最初はパートでしたが、その後、子どもが大きくなって正規雇用として働いているなど裏設定はあるのでしょうか。
作品の中では今もパートの設定です。ではなぜ離婚に踏み出せたかといいますと、作中でも描いたように、結婚時に母親から「常に自分のお金を貯めておくように」と教えられていたので、その通りに貯金していたのと、他界したエリコの母親が残してくれたお金が僅かながらもありました。そして、離婚時には夫からも慰謝料などお金を受け取ったためです。
ただ、お金はいつまでもあるわけではありませんので、今後頑張って、正規の社員を目指すという設定で考えました。
——子どもが自立していても、専業主婦やパート勤務をしてきた女性には離婚することのハードルは高いですが、離婚を考えている場合、どういう準備をしておけばいいと思いますか。
ご縁があって結婚して、さらにお子さんにも恵まれたのであれば、生涯寄り添っていければ一番良いとは思いますが……もしも離婚を考えているのであれば、仕事をしてお金を貯めることが第一ですよね。
専業主婦だった方でもパート勤務をしてきた方でも、「離婚」が目標になった人は強くなる印象を抱いています。読者の方からも「離婚を目標とした『離婚貯金』を始めたら、これまでになくお金に対する気持ちが変わって、貯金が増えた」という話を伺ったことがあります。
また、経済的に厳しくても離婚を決意して踏み切る選択をした場合、離婚後は複数の仕事を掛け持ちして頑張っている方もいらっしゃいますよね。体力を作っておくことも大切だと思います。
そして、最近になって思うのですが、お子さんがいる場合には、お子さんに「予告をしておく」ことも大事なのかもしれません。多くのお子さんは親の離婚に対して傷つくと思うので、突然の打撃にならないよう、親の事情を少しずつ理解してもらう必要もあると思いました。
今は3組に1組は離婚する時代で、離婚する夫婦が多く、親の離婚を経験しているお子さんもとても増えましたが、実際に自分の親が離婚となると、子どもの心は大きく揺れることになると思います。
——これから結婚を考える若い世代にアドバイスをいただけますか。
離婚をテーマにした話をいくつか描いて、そして離婚している私が言うのもなんですが……結婚生活には大変なこともありましたが、楽しいこともたくさんありました。
色々と結婚生活の大変な話も見聞きしておりますが、人生を一緒に歩みたいと思えるパートナーに出会ったなら、結婚はしてみて!と言いたいです。知人の言葉ですが「結婚しても後悔するし、結婚しなくても後悔する。ならば結婚して後悔する方がいいんじゃない?」と言われて。結婚してみてわかる安心感と幸せもありますからね。
「誰かがなんとかしてくれる」ではなく「自分でやってみる」
——離婚を選択したエリコと、不満を抱えながらも今の生活を続ける選択をした友人のノブちゃんがお互い「かっこいい」と声をかけあっているシーンが好きなのですが、終盤で対比的に描かれたのはどのような意図があったのでしょうか。
私自身が離婚した後に女性の友人達から「うらやましい」「かっこいい」などと言われたことがあって。でも私からすれば、夫や子ども、義両親や家族のあらゆる状況を受け止めて、これからも婚姻関係を続けていく友人たちを尊敬していまして……そんな思いが詰まっています。
一見、とても幸せそうに見える方でも、それぞれに深い悩みがあったり、離婚を切り出したけれどもお子さんからの反対があって結婚生活を続ける道を選んだり、話を伺うと人それぞれ本当に色々なことがあって。「どちらかが失敗とか成功とかではない」というシーンにしたかったです。お互い、何度も何度も考えて悩んで選んだ道なので、それぞれの幸せを大事にしてもらいたいですね。
——野原さんは「人生最大の失敗だった」と思うことは何かありますか。
人生最大かどうかはわかりませんが、結構な年齢になるまで、無意識にですが「誰かがなんとかしてくれる」と思っていたことが失敗ですね。「親が/夫が/家族がなんとかしてくれる」という感覚を持っていました。
今、離婚して一人になって、50歳すぎたのにそんなことも知らなかったのか!と思うことも結構あるんですよね。いかに「誰かがなんとかしてくれる」と思っていたかに気がつかされます。
50代になった今頃ですが「自分でやってみよう。そしてできる!」という考えに目覚めた、そんな今日この頃です。
【プロフィール】
野原広子(のはら・ひろこ)
イラストレーター。
作品に『離婚してもいいですか?』『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』『ママ、今日からパートに出ます! 15年ぶりの再就職コミックエッセイ』『消えたママ友』(すべてKADOKAWA)など。
2021年『消えたママ友』『妻が口をきいてくれません』(集英社)2作により、第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞。
現在雑誌「レタスクラブ」にて『赤い隣人』を、「よみタイ」にて『今日もあの子の夢を見た』を連載中。
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