デンマークに学ぶ「新しいことのはじめ方」ニールセン北村朋子さんインタビュー | 前編

 デンマークに学ぶ「新しいことのはじめ方」ニールセン北村朋子さんインタビュー | 前編
Photography by Kazue Ishiyama
広告

ーー「ひとりで何役も」というのは?

肩書きがひとつではないということです。仕事や会社の肩書きだけでなく、たとえばボランティアや地域のNPOなど、色々なところに顔を出している。だから、「仕事の自分だけが自分ではない」という気持ちが強いのではないでしょうか。「もっと全体的な私として見てほしい」という思いがあるのかもしれません。

デンマークは国が小さいこともあり、ひとりが何役もやることで社会がもれなく回るようにも感じます。そして、福祉国家としてのセーフティーネットもありますが、いくつもの受け皿があるからこそ、そこから抜け落ちる人が少ないのではないでしょうか。

Tomoko Kitamura Nielsen
Tomoko Kitamura Nielsen

ーー仕組みの面でも、いくつものコミュニティに属することを可能にしているということでしょうか?

デンマークでアスリート育成の現場にも触れたことがあるのですが、そこでも様々な活動がありました。特にジュニアや若い世代の選手は、たとえばサッカーだったら、それだけをやっているのではなく、ボランティアなどの社会活動や家族との時間を大事にするように言われます。

スポーツ連盟によると、選手のアイデンティティが自分のやっているスポーツだけでない人の方が、結果的にパフォーマンスが上がるケースが多いようです。ひとつの世界しか持っていないと、そこで不調が現れた時に、逃げ場がなくなりますよね。だからそういうスランプの時期には、スポーツ以外の自分を持てる場所、心のよりどころとなるような人や活動を通してひと休みする。

アスリートに限らず、ひとつの世界に縛られすぎないように意識しているデンマークの人は多いように思います。もちろん、そういうメンタル的なことを考慮してというよりも、「おもしろいから」「好きだから」やるというのが優先だと思います。ですが、結果的にそれがいい方向になっているというのはあるのではないでしょうか。

Tomoko Kitamura Nielsen
Tomoko Kitamura Nielsen

人とLEGO(レゴ)みたいに組み合わされば、おもしろいことができる

ーーたしかに年齢に関わらず、デンマークの人たちは「好きだからやる」という姿が印象的でした。

私の息子も、学校では先生からずっと「自分が好きなことをやろう」と言われていました。苦手な科目よりも、得意な科目に対して「なんでこんなに成績いいのかな?」や、「なにがそんなにおもしろいの?」と聞かれます。そこで子どもが「なんでだろう?」とよく考えて、うまくいっている思考回路のようなものを自分でも認識していく。つまり、好きなことを伸ばす方に重点を置いているんですよね。

それでも、子どもなりに苦手なことを気にして先生に尋ねると「みんな得意と不得意なことを持って世の中は成り立っている。だから、人とLEGO(レゴ)みたいに組み合わされば、おもしろいことができるよね。みんな色が違って、凸凹していても構わない。まっ平だと誰とも繋がれないし、みんな同じようにできていたら、生きてる社会がつまらない。いろいろなパターンで繋がれるからこそ、イノベーションが起こるんじゃないの?」と話していました。苦手なことを強制的に「頑張れ」というようなことは、一度も言われたことがないように思います。

ーー 一度もですか?

「落第しない程度にやっておいてね」ぐらいです。高校で専門課程を決める時にも、「将来のことを考えて選ぶのではなく、いますごく面白くて勉強してみたい、興味があるという視点だけで決めて」と、どの先生も言うんです。

それは「将来役に立つかもしれないというのも当てにならないし、どんどん時代は変わる。でも、いま好きなこと、勉強したいと思えることをやることで、ものすごく貴重な高校の三年間になる。だからそういう選択をしてほしい」と。

そういう形で”いまここ”という、常にいまの気持ちをすごく大事にしているように見えます。いつもそれをしていると、自分の気持ちも周りの人の気持ちも大事だとなりますよね。逆に、”いまここ”に集中できない、自分の気持ちに向き合えないということは、他のことに関しても気が散りがちとも言えるのかもしれません。デンマークの人たちのそういう感覚は、すごく禅的だなと思います。

▶︎後編では、デンマークに見える禅と、新しいフォルケホイスコーレの概要について伺います!

広告
  • 2
  • /
  • 2

AUTHOR

大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

Tomoko Kitamura Nielsen
Tomoko Kitamura Nielsen