デンマークでの暮らしから見つめる”幸せ”とは|在住Webマーケター岡安夏来さんに聞いた【前編】

 デンマークでの暮らしから見つめる”幸せ”とは|在住Webマーケター岡安夏来さんに聞いた【前編】
Chiaki Okochi

<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第1回目は、デンマーク在住のWebマーケター岡安夏来さん。2021年「世界幸福度ランキング」2位になったデンマーク。そこで実際に働き、暮らすことから見えてきた”幸せ”についてのお話を伺いました。今回はその前編をお届けいたします!

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日本の大手企業からデンマークへ社会人留学、そして現地での就職へ

ーーデンマークに渡って、どれぐらいが経ちますか?

2018年にデンマークに来て、1年1ヶ月フォルケホイスコーレ*に留学しました。(*デンマーク発祥の全寮制の成人教育機関)

そこから現地のスタートアップ企業でインターンシップを含めて2年半ぐらいなので、計3年半ぐらい。本当にあっという間で、もうそんなにいたのかと自分でもビックリしています。

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

ーー学生としてデンマークにいた時と、働き始めてから変化したことはありますか?

フォルケの場合は興味があることを好きなだけ学べるインプットが多かったのに対して、仕事は期限内にチームで決めて次々と新しいことに挑戦できるアウトプットが多いかなと。使う脳も違うし、使うエネルギーやモチベーションも違うなっていうのはすごく感じます。

”幸せ”と感じる瞬間も、フォルケと仕事では違うなと思っていて。フォルケの場合は、主体的にやりたい人たちが、イベントやコミュニティを作って、先生は生徒たちが色々やりやすいようにサポートしているんですよね。そこには上下関係やポジションは全くなくて、イベントや活動はやりたい人がやればいい。人からの見られ方や役割、何かやらなきゃいけないことではなく、自然と作られたモノ・コトに対してすごく幸せを感じていたのがフォルケです。

ーー仕事では?

仕事は自分の行動が会社のチームやお客様、最終的には社会に貢献できたと感じた時に、一番の幸せを感じますね。自分で決めて行った仕事が結果として「Good job!」や「Thank you!」と言ってもらえる幸せが「次はもっとこうしたい」というモチベーションに変わり、よりアウトプットへの意識が高まっているんだと思います。

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

デンマークと日本の働き方の違い

ーー日本でも3年間働いていましたよね?この時と、デンマークで働いている時に違いはありますか?

フラットさが全然違うなと思いました。デンマークでは、時代や状況に応じて、ルールや、やり方をどのように変えるべきかについて、よく話し合います。日本の大手企業に勤めていた時は、ルールを覚えることに頑張っていたんですよね。そのルールのもとで、どう小さな工夫ができるかを考えていました。でもそれは、前提として作られている枠組みが違っていたり、大手企業とスタートアップという違いもあるかもしれません。

ーーデンマークのフラットさについて、もう少し詳しく教えてください。

デンマークでは失敗した時に、謝罪するということを求めるよりも、なぜ起こったのか、それに対する対策を聞きたい人が多いですね。「間違えて本当にすみません」と言うことが、不思議な言動として周りから捉えられているなと感じました。逆にいえば、失敗を失敗と捉えず、すぐ次のアクションに取り組む必要があるので、常に結果主義だなっていうのを感じて。

日本の場合は過程を重視しているように思えます。例えば「夜遅くまで働いて、よくここまで頑張ってきたよね」っていうその過程を考慮した上での昇格や判断になることが多い気がして。それが結果として長時間労働に繋がっていることもあると思います。

デンマークの場合は、自分のアイディアや努力が評価されるようにプレゼンで上手く発信するところに注力をしていて。努力していようがそうでなかろうが、結果に繋がったかどうかが大切。そういう部分では、チームワークよりも個人競技のようで、結構さっぱりしているなとも感じました。

ーー日本だと”部下の失敗は上司が責任を取る”みたいなことがありますが、デンマークでの失敗に対するリカバリーはどうなんでしょうか?

デンマークだと見ていて感じるのは「上の責任として謝るのが仕事」とか、そんな風に思っている人はほとんどいないですね。上下関係はあっても「1人1人がプロとしてそのタスクを全うしていこう」みたいな考えが多い。リカバリーというよりかは、どこまで把握して、どういう対策を取っていくかを一緒に考えサポートするというコミュニケーションを大事にしていますね。上下の立場というより、みんなプロのサッカープレーヤーとして自分のポジションを全うするような感じが強いです。

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

デンマークで働く厳しさと社会福祉

ーーデンマークで厳しいなと感じたのが、成果主義だから失敗は許されるかもしれないけど、ある一定のラインで結果が出ていなかったら「明日から来なくていいです」ってクビにもすぐなりますよね?

その緊張感があるから、さっぱりもしている。あとは社会福祉がすごくしっかりしているから、お金がないことを恐怖に感じるレベルも日本とはやっぱり違うと思います。失業手当が給与の9割、最大2年間もらうことができるので、生活できるレベルのお金が国から支給される。ちなみに、高校生から一人暮らしをしていると、学業に専念出来るように給付金として毎月10万円ほどが支給されます。だから仕事が無くなる恐怖はあっても、根底のラインが守られているところは安心できる。

生きるために仕方なく、本当に嫌な仕事を続けている人は少ないと思います。それだったら「自分に合った、学んできた仕事をやれる」っていう自信を糧に「そのポジションがまだ来ていないだけ」「いい会社にまだ出会っていないだけ」っていう感覚で新しい仕事を探す。もちろん、みんな満足とか、みんな恐怖とかはないけれど、ある程度の中間ラインを保てているんだろうなと感じます。そこが、デンマークにいたいと思う理由の1つかもしれません。

ーーデンマークの人たちは、国からお金をもらうことや、税金に対してどのように考えているのでしょうか?

小さい頃から税金がどう使われているかを身近な状態で考えているなと思います。税金を元に大学まで無料で行けるという認識があるし、政治家の政策によっては、教育費や、ギャップイヤーが取れなくなるなど、自分たちの日常生活に関わる変化が、15〜20歳で起こるからよく見ている。あとは、税金がたくさん取られていくので、使うのも当たり前だよねっていうのはあるのかなと思います。フルタイムだと所得税が低くても38%ぐらい、それとは別に一律8%が差し引かれています。

ーーさらに消費税は25%でしたよね?

そうなんです、税金が本当に高くて。もちろん「取られすぎて嫌だ」という意見もあるけど「受けている社会福祉は魅力的」という国としての一体感みたいなものは感じます。

ーーたしかに、むしろ税金が高いことについて誇りに思っているようにも感じます。

何にどう使われているのかがわかりやすく説明されているのと、それが、ちゃんと国民に落とし込まれながら生活をしている。税金に限らず、ルールや仕組みを理解した上で、そのルールに基づいてやっているというのは感じます。仕組み自体をしっかり話し合って、その仕組みがどうなっているのかが分かると、よりみんな安心できるのかなって。

ーー日本だと、何か疑問に思うことがあっても「ルールだから」で片付けられてしまうことも多いですよね。

日本の人たちはルールを守ることが本当に上手ですよね。ただ、そのルールがなぜ生まれたのかを1人1人が考える。そして納得は出来なかったとしても、少なからず理解した上で、そのルールに基づいた行動と発言をするべきだなと、仕事を通して学べました。

▶︎インタビュー後半は、デンマークでの暮らしの変化のお話しです!

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参考URL
https://japan.um.dk/ja/info-about-denmark/denmark/welfare-and-education

AUTHOR

大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



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