「幸せの国・デンマーク」は本当に"幸せ"なのか|在住Webマーケター岡安夏来さんに聞いた【後編】

 「幸せの国・デンマーク」は本当に"幸せ"なのか|在住Webマーケター岡安夏来さんに聞いた【後編】
Chiaki Okochi

<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第1回目は、デンマーク在住のWebマーケター岡安夏来さん。2021年「世界幸福度ランキング」2位になったデンマーク。そこで実際に働き、暮らすことから見えてきた”幸せ”についてのお話を伺いました。今回はその後編をお届けいたします!

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日本からデンマークへ、そして働き方を変えて見えたこと

ーー前回の記事では、デンマークと日本の働き方の違いなどについてお話しいただきました。日本にいた時と変わらないぐらいデンマークで働いていた当初に比べて、働き方が変わったり、YouTubeでデンマークに関する配信を始めたりしたと言っていましたよね?

そうなんです!仕事も慣れてきて、それこそ17時の定時で絶対帰るようになって、上手くバランスが取れるようになったというのはありますね。その時間を使ってYoutubeを始めました。プライベートに目を向けたことで、世界は広いというか、選択肢は無限にあるんだなと。(笑) これまでは遊びとか、デンマークでいうヒュッゲみたいな時間を過ごすと「なんかちょっと怠けてるんじゃないか」とか「なんかもうちょっと違うことできたんじゃないか」っていう後悔とかもすごいあったんです。でもそれを100%心から楽しんでる人の横にいると、やっぱりそれも幸せの1つだなというのを感じるようになったのも大きくて。

また、プライベートが楽しくなっても、仕事に費やす想いは、1日8時間、週37時間、悩みや辛いことも含めて幸せであることに変わりないですね。むしろ、短時間でも私はそっちが大事かもしれないと思うようになりました。

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

ーープライベートも大事にするように行動を変えたのは、きっと勇気が要りましたよね。

正直、日本の社会だと、プライベートを大事にすると頑張ってないんじゃないかみたいな、後ろめたさを感じさせる空気がどうしてもありますよね。

「仕事は最低限で楽しく生きたい」と思っている人たちを受け入れる社会のマインドと、「頑張らなきゃいけないんじゃなくて、頑張りたいからやっている」と、個々で考えられるような社会。それができたらデンマークと近いような状態になるのかな?と少し感じます。

デンマーク流の働き方

ーーデンマークでは、残業代はお金ではなく休みとして貰うのが普通って本当ですか?

みんなに聞くと、残業自体をほとんどしていないのでなんとも言えないのですが。(笑) もちろん経営者の人とか、がむしゃらに働いている人たちもいるけど、働いた分は休んでいますね。

デンマークは成果主義の分、残業をしたのに仕事ができていない状況は、「恥ずかしいこと」であり「何してたの?」みたいに思われるかもしれません。それって、オンオフが凄く上手なんだと思います。たとえばオフィスであれば、「これのためにちょっと今日時間かけて頑張っちゃったけど、まあ上手くいったから明日は休む」みたいな感覚を持ってる人が多いイメージです。

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

ーー自分も上司も成果を把握できているからこそ、柔軟に休みを取得できますよね。

あと、日本は100%の満点まで終わらないと帰らないっていう空気感がある気がして。そこまでやり切らないと満足をしないような考え方に比べて、デンマークだと70%ちゃんとできてたらもうOKなんです。

ーーなるほど、それは確かに違いますね。100で良いのか、70で良いのか。

例えば、帰宅準備してパソコンを閉じた後に、一部やり残しに気付くとします。そこで、今から100%までやり直して、翌日までの約12時間の成果がどれだけ変わるのかを考える。そこで、あまり効果がないと判断すれば、わざわざ残業しないで明日やる。完璧を目指さないようにする我慢を覚えてみるのも、いいのかもしれないなとすごく感じます。

ーーその30の違いが、時間のゆとりの違いにも反映されているし、心のゆとりにも繋がっていく。

本当にそう思います。完璧でいなくていい。あとは、デンマークだと、サッカーとか野球でいう、ポジションを埋めるのが上手いように感じます。大学での学びに基づいたことを仕事に活かしていて、チームの中で同じ仕事をやっている人も多くない。

そう考えると、デンマークの方が「この人はこれをやる」っていうポジションがはっきりしていて「その範囲内でできることを新しく、自分のルールでやっていってください」みたいな感覚。だから自己決定権が多いがゆえの、効率がよくなるというのはあると思います。あとは、30%できていない部分があっても、ルールがそこまで明確に当てはめられすぎてないからこそ、他の人には見えないのかもしれません。(笑)

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

「幸せの国デンマーク」は本当に幸せなのか

ーーデンマークが2021年「世界幸福度ランキング」2位など、「幸せの国」と言われることに対して、どのように感じますか?

先ほどの社会福祉の話を含めて、確実なボトムアップというか、国から守られている感覚はあります。向上心がある人たちは目指せばいいし、目指したくない人たちも安心して生きられる場所というのが「幸せの国」と言われる理由の一つかなと。

ーー夏来さん自身が、デンマークを心地よく感じるのはどんなところですか?

年末にデンマークから2年ぶりに一時帰国をしました。その時の、日本の空港での検査とか、1人1人のルールに従うマインドとホスピタリティの完璧さは、やっぱりすごいなと思います。と同時に、密かな緊張感や、自分がちゃんとできない劣等感に駆られてしまったりも感じて。逆にデンマークだと、店員さんもフランクだし、ちょっと待たせるとかも気にしていない。(笑)「人間は完璧ではないんだな」っていうような、安心感みたいなものをくれるときは心地よいですね。

最近気が付いたのは、私自身がデンマークでは外国人というマイノリティで、言語も堪能でない分、同調圧力のようなものがあっても、その雰囲気を分かってないだけ?って。それが、居心地の良さになっているのかもしれないとも感じます。たとえば、YouTubeを見ていて、日本語の広告に、詳細まで理解できるがゆえに、欲望が刺激されてハッとしたり。「世の中には、もしかしたら"知らなくて良いこと"が多すぎるのでは?」って感じる瞬間でした。

ただ、デンマークの人たちは小さい頃から対話とディスカッションをやってきているから、あくまで人の意見として切り離して考えられる価値観を教育の中で培ってもいるのかなって。言葉の受け止め方は、これからの興味として気になっています。

リミットがあるからこそ本当に大事にできること、全身で味わおう

ーーちょうど転職をされて、これから新しい生活がスタートするようですね。

今後はデンマークに住みながら、日本の会社で働く予定です。フォルケにいた時に目標だったデンマークでの仕事が見つかって、ボトムが守られることが当たり前になった今、いつの間にか上を見るようになっちゃって。夢が叶って幸せだと理解していても、また人と比べている自分がいて。

だからこそ、次の挑戦として転職を決めました。転職に向けて一時帰国する直前のデンマークで、パートナーと一緒にご飯を食べる幸せが、いつも以上に大きく感じて。これが永遠ではなくリミットがあるからこそ、より大事に感じるなとか、限られた時間を全身で味わおうじゃないけど。(笑)

何かリミットを決めながら生活をすると、そこでの在り方を客観的にマイノリティとして見ることができて、それが今という瞬間をより大事に考えるようになるのかなと思って。

慣れと、慣れによるちょっとしたありがたみを失うっていうタイミングが、次に向けてもう1歩頑張れる、新しいことをやってみようというチャンスにもなるのかな?と、今のこの転職のタイミングだから感じることがあります。

ー今後やっていきたいことはありますか?

もっとデンマークについて知り、発信をしていきたいです。日本の会社で働きながら、1人デンマークで生活するからこそ、俯瞰した状態でリアルな実態を感じたいです。それをもとに、ちょっとでも生きやすい生活ができるヒントを発信できるような人になれれば。それが、今1番の目標です!

プロフィール:岡安夏来

Natsuki Okayasu
Natsuki Okayasu

1992年東京生まれ。大手アパレルメーカーを退職後、デンマークのフォルケホイスコーレへ1年留学、現地ファッション企業にて3年弱勤務。現在は、ヴィンテージ家具のWebマーケターとして、日本とデンマークを行き来するデュアルライフに挑戦。

Instagram@okayasunatsuki

YouTube@熱血北欧おかチャンネル

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AUTHOR

大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



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