「デンマークの考え方は禅と似ている」ニールセン北村朋子さんインタビュー|後編


<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第4回目にお話を伺ったのは、デンマーク・ロラン島在住のCultual Translator、共生ナヴィゲーターのニールセン北村朋子さん。インタビュー後編です。
二年前、知人の誘いをきっかけに禅を学び始めた朋子さん。実際に触れてみると、デンマークの考え方に似ており、驚きで鳥肌が立ったと言います。禅を知らないはずのデンマークの人たちが、日本人よりもむしろ禅的だと感じることもあるそうです。
ーーデンマークでは、大人になっても新しいことを学べる機会が多いように思います。朋子さん、そしてデンマークの人たちにとって、大人が学び続ける意味とはなんでしょうか?
前編の冒頭でもお伝えしたように、デンマーク人は好奇心の塊みたいな人たちです。疑問に思ったら聞かずにはいられないし、知りたい、探求したいと思う。だからその自然な結果として「学びたい」となるのではないでしょうか。むしろ「新しいことを学びたくない」ということの方が、不思議なのかもしれません。
世の中は常に動いていて、一瞬たりとも同じ時間はなく、あらゆることが起こります。これも禅的な考え方ですね。その中でみんな自分のスピードで生きていきます。そのときに周囲との差異に違和感を覚えたり、想定外、あるいは想定したことが現実に起きたとき、「なぜだろう?」と思ったりしませんか?
デンマークの人たちは、それを単純に知りたいからみんなと対話をするし、大きい視点では政治にも興味を持つのだと思います。私自身も、学生時代よりいまの方が知りたいこと、やりたいことがたくさんあります。自分の興味のあることから目をそらさなくてもいいし、興味のあること自体を諦めなくていい。どんな生き方であっても、否定はされないというのが大きいのかもしれません。

ーーデンマーク発祥の大人が学ぶ場として、フォルケホイスコーレという学校がありますよね。朋子さんが理事をつとめる、新設のLollands Højskole(ロランズホイスコーレ)について教えてください。
2023年8月の開校に向けて、ラストスパートの準備をしています。ロランズホイスコーレの全体のテーマは、「大地・海・沿岸から食卓へ」という、食を通して世界を見つめ考えるというものです。最初は4つのコースから始めようと計画しています。
1. 食べ物をつくるコース:学校の畑で野菜、穀類、果物などを実際に栽培します。
2. ガストロノミーを追求するコース:「おいしさとはなんだろう?」という視点で、料理を作りながら世界中のおいしさの解釈について探求します。
3. 微生物などミクロの世界を覗くコース:発酵食品などにおけるメカニズムや、それらの地域性にフォーカスします。
4. 文化人類学から見た、食べるという行為を考えるコース:あらゆる社会的な要素に影響された、国や地域ごとの食べ方を取り上げます。
ーーフォルケホイスコーレの中で、食という分野にフォーカスした学校は初めてでしょうか?
ガストロノミーや家庭菜園、農業を扱う学校は他にもあります。けれども、「食の全体を通して、世界や地球を見る」というテーマの学校は、私たちが初めてです。
最近ではロシアのウクライナ侵攻が起きて、両国の生産する食糧が、他の国に与える影響を実感しています。これは食に限らずエネルギーにも言えることですが、私たちは国家の依存関係を見つめ直すべき時期なのではないでしょうか。
また気候変動により、収穫できるものが移り変わってきていますよね。だからこそ、他の地域の食の知恵が活かせる場合も多いです。それは、2004年頃からのムーブメントである、*ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)でも取り組んできたことでもあります。
現在はNoma(ノーマ)など高級レストランでの活動が目立ちますが、そろそろ一般家庭にもそういうテーマが移ってきてもよいのではないかと思います。ですから、ロランズホイスコーレを通して世界の人と繋がり、一般の人にも普及するような新しい食べ方や考え方を、還元できたらいいなと考えています。

ーーフォルケホイスコーレ、そしてデンマークという国においても、考えや意見の交換において「対話」という姿勢が大切にされていますよね。
デンマークの人たちは、建前よりもみんな本音で話すように感じます。それは会議などで何かを決める時にも同じで、対話的交渉と言えます。日本で交渉と言えば、一番望んでいるところから三段階ぐらい落として話を始め、徐々に上げていくことが多いと思いませんか?
デンマークでは逆で、一番望んでいる結果を先に言って、そこに近づけるにはどうしたら良いかを話し合います。そうすることでお互いの理想がわかり、妥協や譲歩できるところは受け入れることでポジティブな感情にもなります。だから自分の方が得をするための交渉ではなくて、みんなにとって一番良い着地点を見つけるための交渉なんです。
そのためにもオープンに本音で話し合える関係性は大事ですし、結果それが物事を進めるうえでの効率の良さにも繋がるのだと思います。それから、デンマークの人が怒鳴ったり、叱りつけたりして指示に従わせる姿も、ほとんど見たことがありません。このような、怒りの感情の扱い方についても、日本との違いを最近よく考えています。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く