【多様化するアメリカのヨガ文化】新しい時代に引き込み、変化をもたらす「ヨガの変革者たち」
メリッサ・シャー(自称・女性)/トンバ(トングヴァ)カリフォルニア州ロサンゼルス
南アジアの講師と生徒向けのプラットフォームをつくる
「『バガヴァッド・ギーター』の中で特に印象に残っているのは、クリシュナがアルジュナに、他人の任務をうまくこなすより、不完全でも自分の任務を実行したほうがいい、と語る場面よ」と話すのは、「Find Your Breathヨガスタジオ」の設立者、メリッサ・シャーだ。
インド系アメリカ人2世のヨガセラピストである彼女は、個人やグループセッションを提供するヨガセラピーのプラットフォームと、ヨガセラピーの実践を中心としたオンラインコミュニティを立ち上げることで、自分自身の道を歩みだした。また、練習を深めたいヨガ講師たちのメンターも務めている。
ウェルネス業界の大きな課題は、多様性を正しく反映させることだと彼女は説明する。南アジア系のヨガ講師を目にすることはほとんどない。「南アジアの講師によるオンラインヨガセラピーのクラスやビデオ、あるいはさまざまな体型や経験に合わせた呼吸中心のクラスがまったくなかったの」とシャーは言う。「Find Your Breathヨガスタジオ」では、毎週対面クラスを提供しているが、その多くはBIPOC(黒人、先住民、有色人種)のみを対象にしている。また、呼吸法、瞑想、マントラなどを取り入れた、ヨガのルーツに根差したオンデマンドクラスを提供している。
シャーは、その取り組みをアーユルヴェーダにも広げようとしている。「アーユルヴェーダは『これを食べたり、食べなかったりすると、こうなる』というToDoリストではなく、生き方や物事を見るうえでの知恵だと理解してほしい」と彼女は言う。「アーユルヴェーダは、違う視点を持つ機会を与えてくれるけれど、西洋文化では敬遠されるの。何かを違う形で見ようとすると、今まで教えられてきた方法が必ずしも最良ではないと考える必要が出てくるからでしょう」
ヘザー・シェリー・タイタス(自称・女性)/ネバダ州カーソンシティ
ラヴィ・シン(自称・男性)/カリフォルニア州サンディエゴ
ジュディ・ウィーバー(自称・女性)/フロリダ州ボカラトン
ヨガ教育に革命を起こす
これまでの20年間、アメリカで認定ヨガインストラクターになるには、たったひとつの方法しかなかった。YTT(ヨガ指導者養成コース)を修了して登録簿に名前を載せることだ。「Yoga Unify」はそれを変えようとしている。
「Yoga Unify」は、ヨガの生徒と講師に教育支援と相互責任説明を提供するために設立され、ヨガ講師の指導能力をトレーニングの時間数で評価することはしない。代わりに、心身科学における基本的な能力、ヨガの歴史に関する知識、指導スキル、個人的な実践への献身、倫理観、多様性と包括的な問題への意識などを重視している。また、講師への評価はヨガのスタイルや専門に応じて、同じ専門分野のシニアティーチャーのカウンセリングによって行われる。
「Yoga Unifyで資格を取得した講師は、他の講師による審査を受けます。それによってヨガ界の全体的な水準が向上するのです」と共同設立者のラヴィ・シンは語る。彼は45年の指導経験を持つクンダリーニヨガのプラクティショナーで、数多くのヨガ本やビデオを手がけている。
2019年、シンはジュディ・ウィーバーとヘザー・シェリー・タイタスと共に「Yoga Unify」を設立する計画を始めた。ウィーバーは、30年の経験を持つトラウマに配慮したヨガセラピスト兼講師で、退役軍人にヨガを提供する「Connected Warriors」の共同設立者、タイタスはセドナ・ヨガ・フェスティバルの共同設立者でもある。
「Yoga Unify」はコミュニティへの投資を中心としている。「現在私たちは、ヨガコミュニティで緊急に必要とされている分野に焦点を当てています。それは公平性の確立と、私たちが今直面している複数の危機をきっかけとしたストレスやトラウマへの対処です」とタイタスは言う。現在「Yoga Unify」はスライド式の料金体系、奨学金、助成金を通じて運営されている。会員数が伸びれば、コミュニティに貢献できる金額も増えると彼らは期待している。
オクタヴィア・ラヒーム(自称・女性)/ジョージア州アトランタ
黒人、ラティーノ、先住民の女性たちに休息を
パワーヨガを教えていた10年前、オクタヴィア・ラヒームは自分の心が休息を求めていることに気づいた。「ヨガをやめることも考えました。本来の自分に向き合うには勇気が必要だとわかったから。真実とつながるには覚悟がいるのです」
ラヒームはスローダウンした。やがてそれは黒人、ラティーノ、先住民の女性たちが同じように休息することを支援する運動へと発展した。2016年には瞑想、リストラティブヨガ、陰ヨガ、ヨガニードラの練習を中心としたスタジオ「Sacred Chill West」をオープンした。ティーチャートレーニング、ワークショップ、プログラムには、休息と回復を促す彼女の言葉に魅了された生徒たちが全米から集まった。
パンデミックの間、彼女はスタジオを閉鎖し、2020年に詩とアファメーション集『Gather』を出版するなど、ほかのプロジェクトにエネルギーを注いだ。2021年1月には「Devoted to Rest」を立ち上げた。これは黒人、ラティーノ、先住民の女性が、ヨガ、瞑想、ジャーナリングを通じてコミュニティとサポートを見つけるための4~6カ月のプログラムだ。そして最近は、2冊目の著書『Pause, Rest, Be』を書きあげている。変化の時代には静けさの実践が勇気をもたらすという内容で、2022年2月1日に出版される予定だ。
「自由と解放は、静けさを実践することから生まれます」とラヒームは言う。「これらの実践は、私も含めて、休めないと思わされてきた人々に変革をもたらしました。強制労働や無給労働を強いられる名残の中で、私は黒人や有色人種の女性たちと一緒に、休むことの重要性を見いだしています。かつての人生は労働と死だけでした。でもこれからの私たちは成長し、休息するのです」
ヤナ・ロング(自称・女性)/メリーランド州ボルティモア
ブラック・ヨガ・ティーチャーズアライアンスの設立
2009年、ヤナ・ロングとマヤ・ブロイヤーは、アフリカン・ディアスポラ(黒人奴隷の子孫)のヨガ講師たちとつながり、サポートする方法として、ブラック・ヨガ・ティーチャーズアライアンス(BYTA)のフェイスブックページを立ち上げた。このコミュニティは、長年白人講師たちによって支配されてきた環境の中で、仲間とのつながりや自分たちが認められることを渇望していたメンバーたちによって広がった。
2016年には、BYTAは黒人ヨガ講師のためのネットワークと継続的な教育を提供する非営利団体に発展し、クリパルセンター・フォー・ヨガ&ヘルスで開催されたカンファレンスのチケットは完売となった。ロングは勤めていた新聞社を退職し、BYTAのエグゼクティブ・ディレクターに就任した。彼女のリーダーシップのもとで、BYTAは過去最高の会員数と寄付金を記録した。
「昨年のジョージ・フロイド氏の殺害が大きな転機になりました」とロングは言う。あの恐ろしい事件の後、BYTAへの参加を希望する講師や、活動の支援を申し出る団体など、かつてないほど多くの人々が接触してきたとロングは言う。
「BYTAは社会正義を行う組織ではありません」と語るロングは、自身もヨガセラピストで、シニア向けのクラスを専門とする講師だ。「そのような活動をしているメンバーはいます。私たちは彼らのヨガの知識を強化することで、必要なツールを提供し、サポートしたいのです」
それらのツールの中には、心とコミュニティを癒す実践や、マットを離れて日常生活にヨガの知恵を取り入れるカリキュラム「Yoga as a Peace Practice」が含まれている。ロングとゲイル・パーカー博士が率いるBYTAの理事会は、組織の設立当初からヨガ哲学に焦点を当ててきた。「ヨガ八支則の第5(プラティヤハーラ)、6(ダーラナ)、7(ディヤーナ)段階の実践は自己啓発をもたらすからです」とロングは言う。
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