【多様化するアメリカのヨガ文化】新しい時代に引き込み、変化をもたらす「ヨガの変革者たち」
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!今、クリエイター、イノベーター、創造的な破壊・改革者たちが、ヨガに対する視点や意識、練習法に変化を起こしている。
2021年、アメリカのヨガはさらに多様化している。コミュニティセンター、学校、先住民の土地で行われ、黒人、ラティーノ※1、クィア※2、プラスサイズ※3、車椅子の人々が練習している。八支則のすべてが携帯電話やラップトップを介して実践できるし、ヨガはポーズをとるだけの練習から、哲学、癒し、文化盗用をめぐる繊細で複雑な会話や議論を行う場にもなりつつある。
だが、ここまで来られたのはリスクを冒して声を上げ、信念を持って行動し、正義のために闘った人々の努力があったからだ。彼らはどうすれば大胆で勇敢でいられ、どうすれば自分自身と大切な練習に忠実でいられるかを、身をもって示してくれた。
ヨガの様相は変化を遂げている。変えているのは本記事に登場する人々だ。彼らは5000年の歴史を持つ実践を新しい時代に引き込み、誰にも開かれた、全体的で先見性のある未来へと押し進めている。そんなヨガの変革者たちを紹介しよう。
※1かつてヒスパニックと呼ばれていたラテンアメリカのスペイン語圏出身者。※2LGBT定義に当てはまらない性的マイノリティの総称。※3平均より大きい体格の人たち。
ジェレミー・グレイ下院議員(自称・男性)/アラバマ州オペライカ
学校ヨガを復活させる闘い
2021年5月、アラバマ州のジェレミー・グレイ下院議員(民主党)は、28年続いた公立学校でのヨガ禁止令を解除する法案を提出し、可決されたことで注目を集めた。
物議を醸したこの法案の成立には3年の歳月を要した。さらにヨガの復活には条件が設けられた。ポーズ名を含むサンスクリット語の使用や、瞑想、詠唱、マントラなどの精神修養は禁じられ、さらに保護者たちには、ヨガがインド由来であり、ヒンドゥー教の一部であることを了承する許可書への署名が義務付けられた。2018年に州政府に選出された35歳のグレイはこれらの条件に納得できず、学校でヨガのすべての練習が可能になることを望んでいる。それでも、まったくヨガがないよりはましだと思っている。
大学時代にスポーツ選手だったグレイは、在学中にヨガを始め、2014年にヨガティーチャートレーニングを修了した。現在彼は、法案の中で「瞑想」などの用語を定義し、許可書の文言を変更してヨガの解釈を広げようと取り組んでいる。これによって、新しい形でヨガを学校に戻せるのではないかと期待している。また彼は全国の議員や学校関係者に、それぞれの地域で試験的にヨガプログラムを開始する方法をアドバイスしている。
グレイは、アラバマ州でのヨガ論争や政治全般に対する要求に追われながらも、自分の心を保ち、ポジティブでいられるのはヨガのおかげだと話す。「ヨガ、呼吸法、瞑想は、僕に明晰さや目的、至福、悟りをもたらしてくれたんだ」とグレイは言う。「おかげで自分の本質がわかったし、リーダーとしての役割に踏み出せたよ」
ナオミ・ヒラバヤシ(自称・女性)/ニューヨーク州ニューヨーク
マラ・リディ(自称・女性)/ニューヨーク
多様性に富むメンタルヘルス・ アプリの構築
パンデミックによる閉鎖措置、政治的混乱、人種差別騒動から1年以上が過ぎ、人々は職場に戻りつつあるが、元どおりになったわけではない。ナオミ・ヒラバヤシとマラ・リディは、特に有色人種が抱えるストレスや不安を和らげるために「Shine at Work」を立ち上げた。このアプリは、2016年に展開した「Shine」アプリの機能を強化したもので、現在起きている出来事が原因で社会から取り残された人々が直面する問題に焦点を当てたアファメーションや瞑想を毎日提供している。
「有色人種女性としての私たちふたりの苦悩が、世間一般の健康法では扱われないことにうんざりしていたの」と、黒人のリディは言う(ヒラバヤシは日系アメリカ人)。「私たちのストレス、不安、トラウマのための瞑想アプリが全然なかったのよ」
彼女たちの目標は、「Shine」を世界で最も多様性に富んだメンタルヘルスアプリにすることだ。そして自らその多様性を実践している。「Shine」のチームは、80%がBIPOC(黒人、先住民、有色人種)で構成されている。「肌の色や性別、嗜好、体の大きさ、宗教などが原因で疎外感を味わったことがあるなら、Shineで居場所を見つけられるでしょう」とリディは言う。
コミュニティからのフィードバックが自分たちのモチベーションを高めている、とヒラバヤシは言う。ふたりにとっての成功の指標は25,000件の5つ星レビューの数ではない。「人生を変える」アプリだと「Shine」が評価されたということにあるのだ。
ナタリア・タビーロ(自称・女性)/カリフォルニア州サンフランシスコ
体へのイメージを次のレベルに引き上げる
2018年、ナタリア・タビーロがオールレベルのヴィンヤサヨガのクラスを初めて受けたとき、講師はタビーロのようなプラスサイズの人に対する指導や応用ポーズの提案もないまま、生徒たちをカカーサナ(カラスのポーズ)に移行させた。タビーロは「“オールレベル(誰もが受講可能)”なんて本当?と疑っていたけれど、やっぱり無理だとわかったわ」と話す。
2年前にティーチャートレーニングを修了した彼女は、「体が大きくても、障がいがあっても、考え方も年齢も何も関係なく、誰もがヨガを練習できることを伝えたい」と強く思った。チリ出身のタビーロは、スペイン語と英語の両方で教えることにした。
そしてタビーロは、すべてのポーズに対して必ず応用ポーズを提供する指導法「Yoga for All Bodies」を考案した。
すぐに、地元の複数のスタジオからクラスのオファーがあった。ボディポジティブヨガの指導者ダイアン・ボンディやアンバー・カーネスに影響を受けたタビーロは、プラスサイズ(上部参照)の生徒が来てくれることを期待していた。だが始めてみると、プラスサイズだけでなく、シニアやティーンエイジャー、摂食障害や不安、うつに悩む人、慢性疾患を抱えている人などさまざまな生徒が参加してくれた。現在「Yoga for All Bodies」は、オンラインプラットフォームでも発展し続けている。さらにタビーロは、万人向けのヨガを他の講師たちに指導したり、多様性を重視したマーケティングのワークショップをヨガ講師や企業のために主催している。
「みんながクラスに来てくれるのは、体や心が求めるものに耳を傾けながら、自分でポーズを選ぶことができるからだとわかったの。それがとても嬉しい」
ミシェル・カサンドラ・ジョンソン(自称・女性)/ノースカロライナ州ウィンストン・セーラム
反人種差別について話そう
ミシェル・カサンドラ・ジョンソンがヨガティーチャートレーニングを受けたとき、有色人種は自分を含めて2人だけだった。彼女はヨガ講師を目指す人(そして、目指さない人)について疑問を持ち始めた。それは2009年のことだった。「なぜ私のような外見の人がこんなに少ないの?」。この疑問をきっかけに、彼女は社会正義とヨガの共通点に焦点を当てた200時間と300時間のヨガ講師養成プログラムをつくり、トレーニングやワークショップで反人種差別について話し合う場を設けた。
2017年に出版された著書『Skill in Action: Radicalizing Your Yoga Practice to Create a Just World(実践的なスキル:正義の世界を創造するヨガプラクティス)』は、ヨガスペースでの権力、特権、抑圧、苦しみを検証したうえで、練習を通じて変化を起こすための一歩を人々に促すために執筆した「ここ2、3年で、ヨガクラスで反人種主義についてのディスカッションをする人々が増えてきたわ」とジョンソンは言う。そして2020年、パンデミック下でのジョージ・フロイド氏の殺人事件は、アマド・オーブリーやブレオナ・テイラー、またそのほかの警察の手による一連の死のすぐ後に起きた。
「白人の人々は、私たちBIPOC(黒人、先住民、有色人種)が長年経験してきたことに突然気づいたようだけど、私たちは完全に疲れ果てていたわ」と彼女は言う。2021年7月に出版された2冊目の著書『Finding Refuge: Heart Work for Healing Collective Grief(避難所を見つける:悲しみを癒すための心のワーク)』では、BIPOCコミュニティの人々がトラウマや悲しみを乗り越えて互いに支え合う方法を探っている。
この1年半の間、ジョンソンと彼女の6人のスタッフは、約1,500人の人々と反人種差別の取り組みを行ってきた。「私の使命は、隠蔽されていたものに光をあてること」と彼女は言う。「物事を変えるために、祖先や聖霊たちは私をこの肉体に送り込んでくれたの。彼らの導きとそれを理解できる自分の力に感謝しているわ」
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