トップヨガ講師スカイラー・グラントの「ピンチャマユーラーサナ(逆転ポーズ)」が快適になる練習法
ワンダーラストを立ち上げ、クラ・ヨガ・プロジェクトを創設したスカイラー・グラントが、逆転のポーズを頂点にしたシークエンスをどのようにつくっているのか語ってくれた。
スカイラー・グラントのシークエンスのつくり方
ヨガを教える人はヴィンヤサのことをよく「動く瞑想」と表現します。私自身もこの表現をよく使っています。30年近くも私をとりこにしているヴィンヤサというヨガの魅力を端的に表しているからです。ただ、ポーズと呼吸によって意識を集中させて瞑想状態に入るのは、口で言うほど簡単ではありません。ポーズと呼吸を結びつけるだけでは不十分です。シークエンスを構成するときにしっかりした考えと知識が必要になります。それがなければ、このフロー形式のヨガは退屈で、体にとって有害なものになる恐れさえあります。 私が最初に取り組んだヨガはアシュタンガでした。精神性を求めてひたむきに練習することや、呼吸に集中してポーズの流れに確実に入れることが何より気に入っていました。しかし、広がりや知識を求めていくにつれてけがが増えてしまいました。次に夢中になったのはアイアンガーヨガです。私はそこからアシュタンガヨガとアイアンガーヨガを取り入れてシークエンスをつくるようになり、それ以来工夫を重ねてきました。そうして出来上がったのが、体を癒すと同時に神経系の調子を整えるクラフローなのです(ワンダーラストのハリウッドスタジオで今教えられているヨガです)。
私はヨガマットの上で自分が大切にしていることに商標をつけることには消極的です。長年、ヨガに「商標をつける」ことに納得がいきませんでした。アーサナの特定のやり方にブランド名をつけるなんてばかげているし、おこがましいと思えました。私がニューヨークに構えているスタジオ、クラは、ヨガの商標化が始まる10年前に開店しています。生徒からはなんというヨガなのか繰り返したずねられました。私たちスタッフは、「さあ......なんていうか......ヴィンヤサというか...」と答えに窮し「いや違う、ヴィンヤサではない」と思ってきたのです。
私は最終的に、名前には力があることをはっきり理解しました。商標化とは、最も純粋な意味では単に名前をつけることであり、自分のヨガを体系化することによって、私が指導している生徒や講師たちに自分が伝えたいことをもっと明確に伝えられることを悟ったのです。生徒と講師との間に意思疎通がなければ、ヨガとはいったいなんなのでしょう。見えざるものを照らし出すことでしょうか。ヨガをしている人の場合、この意思疎通には自己との対話も含まれています。脳と体と特に呼吸の間で対話が行われるのです。ヨガの指導者は、このような旅の途にある生徒の案内役を務めているのです。
私はクラフローが、きわめて身体的なヨガであると同時に、頭を使うヨガであってほしいと思います。今に集中して汗を流しながらも、アライメントを常に念頭に置いて向上心を持って取り組むヨガであってほしいのです。このヨガをすることによって、体の下のほうのチャクラと上のほうのチャクラがどちらも十分に活性化されて、ヴィンヤサが意味するところを体で十分に表現してもらいたい。考えと動きとエネルギーに感じられる微妙な変化に意識を向けてください。そして、一見平凡に見えるものに注目して、このうえなく特別なものとしてそこに光を当ててください。
KULA SEQUENCE: ROUND1 クラフローのシークエンス(1巡目)
難度の高いポーズを頂点にしたクラフローのシークエンスの組み立て方は、もつれた髪をほぐす方法に似ています。ただやればいいというものではありません。辛抱強くほぐしていって、少しずつもつれを解いていかなければなりません。こうするとアーサナでは、体が次第に開いて強化されていき、呼吸の力が良い方向に導かれていきます。難しいポーズを構成する動きや形をゆっくり練習していけば、次第に力がついていき、恐れを感じなくなり、最終的にそこに到達する可能性が出てきます。たとえば、膝を曲げて行うピンチャマユーラーサナ(クジャクの羽のポーズ)を安全に行うには、胸部と肩を開いて体重を支えられなければいけません。また、ハムストリングを広げると同時に働かせる必要もあります。体幹を目覚めさせて、股関節屈筋群と大腿四頭筋を開くことも必要です。クラフローは創造性に富んでいるものですが、好き勝手にポーズを選択していいわけではありません。シークエンスに加えるポーズにはすべて理由が必要です。
1.アドームカヴィーラーサナ(下向きの英雄のポーズ)のバリエーション
5回呼吸する間保つ。
腕の使い方はダウンドッグと同じ。これは休息のポーズではない。
2.マルジャリャーサナ(猫のポーズ)から3.ビティラーサナ(牛のポーズ)へのバリエーション
2分間。
腕を肩幅に開く。肘が広がろうとするが広げないように。
4.前腕をついたプランク
息を吸いながら、体幹と肩を引き締める。
腕と手のひらで床を強く押す。鎖骨を左右に広げるイメージを持とう。体幹を引き締めよう!
5.スフィンクスのポーズ
息を吐きながらポーズに入り、3回呼吸する。胸椎を開こう。
関節の位置を変えずに(筋肉の等尺性収縮で)上腕を引きながら体幹を働かせ、腰を圧迫しないようにする。これはピンチャマユーラーサナに共通する動きだ。
6. シャラバーサナ(バッタのポーズ)のバリエーション
3〜5回呼吸をする。このポーズは、傍脊柱筋群と体幹を強化し、同時に脊柱に空間を生み出す。
首の長さを保つことに意識を集中しよう。ピンチャマユーラーサナではこれが難しい。
7. 下向きの英雄のポーズのバリエーション
息を吸いながらポーズに入る。
8.下向きの英雄のポーズのバリエーション
息を吐きながらポーズに入る。3〜5回呼吸する間保つ。
息を吸うごとに、肘を前に歩かせて、上腕三頭筋を開いていく。
9. プランクポーズ
3〜5回呼吸する間保つ。体幹をしっかり働かせる。
必要に応じて膝を下ろす。筋肉のコルセットで腹部を支えて、腰を伸ばす。
10. 下向きの英雄のポーズのバリエーション
好きなだけ続ける。
KULA SEQUENCE: ROUND2 クラフローのシークエンス(2巡目)
1.猫のポーズから2.牛のポーズへのバリエーション 2回行う。
3.前腕をついたプランク
息を吸いながらポーズに入る
4. スフィンクスのポーズ
息を吐きながらポーズに入る。
5.スフィンクスのポーズ+アルダベカーサナ(半分の蛙のポーズ)
3〜5回呼吸する間保つ。大腿四頭筋と股関節屈筋群を開く。
下腹部を働かせ、腰の外側を正中線のほうに引いて腰の長さを保つ。
6.スフィンクスのポーズ+アルダダヌーラーサナ(半分の弓のポーズ)
3〜5回呼吸する間保つ。脇の下と胸部を開く。
仙腸関節を守るために、腹部をしっかり床に固定して、肋骨を真っすぐ前に向ける。
7.バッタのポーズのバリエーション
吸う息で両腕を伸ばし、吐く息で足を上げて後ろに伸ばす。3〜5回呼吸する間保つ。
鎖骨を左右に広げて、肩を高く保つ。
8.プランクポーズ
1回呼吸する間保つ。
プランクへの移行
息を吸いながら、両手を肩の下の床に下ろし、つま先を押し込み、体幹を働かせる。プランクでは、肩甲骨を肋骨の背面に固定して耳から離しながら、鎖骨を両側に開き続ける。鎖骨の外側を左右に広げるイメージを持とう。
9.プランク+ハムストリングの巻き上げ
3〜5回呼吸する間保つ。
体幹を働かして腰の長さを保つ。
10.プランク+膝を鼻へ
息を吸いながら膝を鼻に近づける。
背部をできるだけ丸めて、太腿が自由に動くようにする。足首を背屈させる(すねのほうに曲げる)。
11.ランジ
吐く息でポーズに入る。
12.アルダハヌマナーサナ(半分の猿王のポーズ)
3〜5回呼吸する間保つ。ハムストリングを広げる。
股関節を正中線のほうに絞って、この非対称のポーズで股関節が一列に並ぶようにする。指先を床につけて、手首を休ませる。
13.ランジ
吐く息でポーズに入る。
14.ヴァシシュターサナ(サイドプランクポーズ)
3〜5回呼吸する間保つ。腕、肩、体幹を強化して、バランス感覚を高める。
上の手を伸ばすことによって軽さを感じられるようにしよう。これはピンチャマユーラーサナで骨盤を引き上げる動きに似ている。
15.前腕をついたプランク
3〜5回呼吸する間保つ。
16.ドルフィンポーズ
3〜5回呼吸する間保つ。胸部とハムストリングを広げる。最終ポーズを意識した軽減ポーズ。
肩甲骨と骨盤を上に伸ばす。骨盤をできるだけ高く上げるために、膝を曲げてかかとを上げてもよい。
前腕を押し下げて、首と腰に長さを生み出す。
17.下向きの英雄のポーズ
好きなだけ続ける。
2巡目を反対側でも行う。
KULA SEQUENCE: ROUND3 クラのシークエンス(3巡目)
1.猫のポーズから2.牛のポーズへのバリエーション
2回行う。
3.前腕をついたプランク
息を吸いながらポーズに入る。
4.スフィンクスのポーズ
息を吐きながらポーズに入る。
5.バッタのポーズのバリエーション
吸う息で両腕を伸ばし、吐く息で足を上げて後ろに伸ばす。3〜5回呼吸する間保つ。
6.プランクポーズ
1回呼吸する間保つ。
7.プランク+ハムストリングの巻き上げ
1回呼吸する間保つ。
8.プランク+膝を鼻へ
息を吸いながら膝を鼻に近づける。
9.ランジ
吐く息でポーズに入る。
10.アルダハヌマナーサナ(半分の猿王のポーズ)
1回呼吸する間保つ。
11.ランジ
吐く息でポーズに入る。
12.サイドプランクポーズ
1回呼吸する間保つ。
13.サイドプランク+半分の弓のポーズ
胸部と脊柱を開き続ける。
鎖骨の幅を保ち、肩を完全な状態にして、腰椎の長さを維持しながら、後屈を深める。
14.前腕をついたプランク
1回呼吸する間保つ。
15.ドルフィンポーズ
1回呼吸する間保つ。
16.ピンチャマユーラーサナの脚を曲げたバリエーション(クジャクの羽のポーズ)
できるだけ長く続ける。呼吸を止めない。
ピークポーズ
このポーズはできる人もいればできない人もいるはずだ。重要なのは、このポーズに至る段階を理解することと、失敗しても笑顔を忘れないこと。下腹部の筋肉を働かせて腰椎を守ろう(ポーズの入り方と軽減ポーズは118ページを参照)。
17.下向きの英雄のポーズ
3〜5回呼吸する間保つ。
18.バーラーサナ(チャイルドポーズ)
好きなだけ続ける。
3巡目を反対側でも同様に行う。バーラーサナで終わる。
ピークポーズへの入り方
ドルフィンポーズ
体重を前に落とさず、胸部を崩さずに、足を肘のほうに歩かせる。首の緊張をゆるめて、肩甲骨を腰のほうに、胸部を太腿のほうに引く。背骨が丸くなっている場合は、膝を曲げてかかとを上げる。前腕を平行に保つ。
ピンチャマユーラーサナの準備ポーズ
片脚を上げて膝を曲げ、前方を見る。肩甲骨の内側を腰に向かって力強く引き上げる。上げてないほうの脚の膝を曲げてかかとを上げる。上げた足先を前方に動かして、てこの作用を感じる。ここまでシークエンスで体幹を使ってきたので、腰を縦方向にも横方向にも長く保つことができるはずだ。
脚を曲げたピンチャマユーラーサナ
下の足を床から上げるために少し跳ねなければならないかもしれないが、練習を続ければ、体幹の力で引き上げられるようになる。鎖骨も口元も左右に広げて(微笑みながら)行うと、このポーズは崩れてしまうので注意しよう。
ピークポーズの軽減ポーズ
プロップを使ったドルフィンポーズ
前腕を平行に保てない場合は、両肘を肩幅に開いてベルトで固定し、両手の間にブロックを置いて両手を肩幅に。プロップに頼って首の緊張をゆるめることができるため、腰を上げて後方に引くことに専念できる。
プロップを使ったピンチャマユーラーサナの準備ポーズ
片脚を上げて膝を曲げながら、前方を見る。上げていないほうの脚の膝を曲げかかとを上げ、腰を引き上げる。ここではあまり後屈せずに、上の足を前方に動かして、てこの作用を感じることに意識を向ける。このようにプロップを使うと、前腕を平行にしたまま、腰を肩の上に積み重ねられる。
プロップを使い壁に向かって行うピンチャマユーラーサナ
さらに体を支えるには、壁の数十cm前でポーズを始めて、上げているほうの足の親指で壁を押す。もう一方の足を床から離していき、肩を腰のほうに引き上げ、胸部を前方に動かす。勇敢な気分がするだろうか。最後に親指を壁からゆっくり離す。
指導●スカイラー・グラントはワンダーラストフェスティバルを立ち上げて、ニューヨークにクラ・ヨガ・プロジェクトを創設した。クラフローを考 案したことが 認められて、『 ニューヨークタイムズ 』誌で優れた指 導 者に選ばれている。wanderlust.com
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。
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