BLM運動渦巻くLAから。セレブ御用達ネイルアーティストが語る、アメリカでの成功と人種問題の未来
そんな数多のセレブの“真の顔”に接してきた彼女の心の中に、ずっと残っているエピソードがあるという。それはーー。
「ある撮影で、ミランダ・カーと仕事をした日が偶然私の誕生日だったの。それをどこからかミランダが聞きつけたらしくて、ケーキを用意してくれて。スタッフ全員でバースデーソングを歌ってお祝いしてくれたの!ミランダが私のためにこんなことしてくれたなんて思うと、もうそれだけで感激で…。それ以来ミランダと私の間に、クライアントとアーティストを超えた友情が生まれたの」。
そして最近の“ステイホーム”期間中も、ヨガを実践するミランダのオリジナル動画を見ながら、自身もヨガで心身を整えていたという。
#BlackLivesMatter運動渦巻くLAで
「実は今年初旬に日本に行く予定だったの」と言うキムさん。世界でもトップクラスのネイル大国・日本は、珍しい素材や新鮮なインスピレーションに溢れ、彼女にとっての憧れの国だという。しかし、そんな夢の日本旅行も、新型コロナウイルスのパンデミック発生によりキャンセルに。さらに、ミネアポリスで発生した白人警官による黒人男性殺害事件に端を発した#BlackLivesMatter運動は、キムさんの住むLAでも大規模なデモへと発展。この時、自身もベトナム系であることから、幼い頃から対峙してきた偏見が脳裏に蘇ってきたという。
「子供の頃、白人が多い学校に通っていたのだけど、私の姓が発音しづらいと言ってクラスでよく変な呼び方をされたり、からかわれたことがあったわね」。
そして大人になり、ネイルアーティストとして成功を収めてもなお、ある種の差別を感じざるを得ない事象が彼女の身に起きているという。
「私がベトナム系だからなのか、それとも女だからなのかはわからないけれど、確かにこれまでいくつかの撮影現場で自分が搾取されていると感じたり、利用されているとか、見下されているとか、ぞんざいに扱われていると感じたことはあるわ」。
それでも、誰にこう言われた、こんなことされた、と具体的に口外したことはこれまで一切なかった、という彼女。「唯一姉だけには話して、心に溜まったものを全て吐き出してきたの。どうやったらこの状況を変えられるのかーー子供の頃は、ただずっと考えることしかできなかった。けれど、大人になり、いちネイルアーティストとして自立した今は、ベトナム系だからという理由で私をぞんざいに扱うクライアントの仕事は引き受けない、という手段で対抗するようにしているわ」。
そして、世界が今かつてない困難に面している今だからこそ、一人ひとりが思いやりと優しさを持つべきだ、と彼女は続ける。
「人種問題には、団結と支援が必要よ。お互いがお互いの言い分を聞きながら教えあうこと、そして具体的な行動に移すことが大切。#BlackLivesMatter運動は決して黒人だけの問題ではなく、全ての人種の問題だから、黒人だけが運動すればいいというわけではないの。デモに参加する以外にも、寄付をするとか、ビジネスを支援するとか、この運動をサポートする方法はいくらでもあるわ。今はM4BLやBlack Lives Matterなどの情報リソースもたくさんある。最も必要なのは、継続的は支援と教育を続けることよ。この運動を決して一過性のものにしてはいけない。先が不透明な今だからこそ、皆が支え合う必要があると思うから」。
ベトナムの国花・蓮は、状況が困難であればあるほど美しく大きな花を咲かせ、その美しさは決して揺らぐことがないという。混沌渦巻くLAで、ネイルアーティストとしてトップに上り詰めたキムさんのしなやかな美しさと強さに触れ、ふと心の中でこの蓮の花と彼女がオーバーラップした。今、世界が必要としているのは、そんな彼女の持つ強さと優しさなのかもしれない。
プロフィール:Kim Truong(キム・トゥロン)
ベトナム系アメリカ人ネイルアーティスト。4歳の時にアメリカに移住。幼少期よりネイルアーティストだった母のもとでネイルを学ぶ。現在「VOGUE」等世界各国のメディアをはじめ、カイリー、ケンダル、キム・カーダシアン・ウェストらジェンナー=カーダシアン一家やニッキー・ミナージュ、アレッサンドラ・アンブロジオらのセレブリティのネイルを手がける。www.kimkimnails.com
ライター/横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」「etRouge」(日経BP)「NikkeiLUXE」等のメディアでセレブリティインタビューを始めビューティ関連の執筆活動中。
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