「血管の内側に炎症が起こる」とどうなる?動脈硬化の新しい研究からわかってきたこと
「動脈硬化」と聞くと、血管にコレステロールがたまって、血管が狭くなる病気。そんなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。もちろん、それも間違いではありません。ただ、最近の研究では、動脈硬化にはコレステロールだけでなく、血管の内側で起こる「炎症」も深く関わっていることがわかってきています。血管の中で何が起きているのか、炎症が動脈硬化とどう関係するのか、そして最近の研究で何がわかってきたのかを、わかりやすく医師がお伝えします。
血管の内側って、実はすごく働き者
「えっ、血管の中でも炎症が起きるの?」と思いますよね。
実は、そうなんです。しかも、熱が出たり、痛みが出たりするわけではないので、自分ではなかなか気づけません。気づかないうちに血管の状態が少しずつ変わり、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞につながることもあります。
血管というと、血液が流れるための管をイメージしますよね。でも、血管はただ血液を通しているだけではありません。
血管の内側には「血管内皮細胞」という細胞がびっしりと並んでいます。この細胞が、血液をスムーズに流したり、必要に応じて血管を広げたり、血液が固まりすぎないように調整したりしているんです。
いわば、血管の中を快適に保つための管理人のような存在ですね。
ところが、血圧が高い状態が続いたり、血糖値が高かったり、たばこを吸っていたりすると、この管理人の働きが少しずつ悪くなることがあります。
血管を広げる力が弱くなったり、炎症に関係する物質が増えたりするんですね。すると、血管の壁に免疫細胞が集まりやすくなり、炎症が起こりやすい状態になります。
こうした変化が積み重なると、動脈硬化が進みやすくなってしまいます。
コレステロールだけが犯人ではない?
動脈硬化の原因として、まず思い浮かぶのはコレステロールかもしれません。
特に、LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれ、数値が高い状態が続くと動脈硬化のリスクが高まります。
ただ、血管の中では、もう少し複雑なことが起きています。
血液中のLDLコレステロールなどが血管の壁に入り込むと、体を守るために働く免疫細胞が、それを取り除こうとします。
ところが、コレステロールを大量に取り込んだ免疫細胞は、うまく処理しきれなくなることがあります。
こうして脂肪を含んだ細胞が増え、血管の壁にプラークと呼ばれるかたまりができていきます。
さらに、周囲では炎症に関係する物質が放出され、血管の壁に影響を与えます。
つまり、コレステロールがたまることと、炎症が起きること。この2つが絡み合いながら、動脈硬化が進んでいくわけです。
そして、ここが大事なところ。
動脈硬化で怖いのは、血管が狭くなることだけではありません。プラークが破れて血栓ができると、血管が突然詰まってしまうことがあります。
心臓の血管で起きれば心筋梗塞、脳の血管で起きれば脳梗塞につながる可能性があります。
それまで普通に生活できていた人に、突然こうした病気が起こることもあるのです。
血管の中では、免疫細胞も関わっている
ここ数年、動脈硬化の研究で注目されているのが、血管と免疫細胞の関係です。
免疫細胞は、本来、細菌やウイルスなどから体を守るために働いています。ところが、動脈硬化が進んでいる血管では、その免疫反応が病気の進行に関わることがあります。
血管の内側にある細胞が免疫細胞を呼び寄せたり、集まってきた免疫細胞が炎症に関係する物質を出したりする。そんなやり取りが、血管の壁の中で起きているんですね。
最近は、血管内皮細胞が免疫反応をどのように調整しているのか、どんな条件で炎症が起きやすくなるのか、といった研究も進んでいます。
また、血液の流れ方によっても、血管内皮細胞の状態が変わることがわかってきました。血液の流れが乱れやすい場所では、炎症や動脈硬化が起こりやすくなることがあります。
こうした研究によって、なぜ特定の場所に動脈硬化ができやすいのか、その理由も少しずつ見えてきています。
ただし、研究で仕組みがわかってきたことと、すぐに治療に使えることは別の話です。まだ研究段階のものもあり、実際に患者さんに役立つ治療になるかどうかは、今後の検証が必要です。
コレステロールを下げても、リスクが残るのはなぜ?
ここで、こんな疑問が出てくるかもしれません。「じゃあ、コレステロールを下げるだけではダメなの?」
そんなことはありません。LDLコレステロールを適切に管理することは、心筋梗塞や脳卒中を防ぐうえで、とても重要です。
食事や運動などの生活習慣を見直し、必要に応じて薬を使う。これは今も動脈硬化対策の基本です。
ただ、コレステロールをしっかり管理していても、心筋梗塞などのリスクが完全になくなるわけではありません。
そこで研究者たちが注目しているのが、炎症そのものを抑える治療です。
実際に、炎症に関わる特定の仕組みを抑えることで、心血管疾患の発症リスクを減らせる可能性が示された研究もあります。
こうした結果から、動脈硬化を考えるときには、コレステロールだけでなく炎症にも目を向ける必要があると考えられるようになってきました。
ただし、炎症を抑える薬を誰もが使えばよい、というわけではありません。薬によっては感染症などの副作用が問題になることもあります。
現時点では、すべての人に炎症を抑える薬が必要なわけではなく、病気の状態や心血管リスクなどを踏まえて判断することが大切です。
「炎症が大事なら、サプリメントで抑えればいいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、そこも注意したいところです。血管の炎症を抑えれば動脈硬化を防げると、十分に証明されているサプリメントがあるわけではありません。
新しい研究に期待しつつも、今わかっている予防法をきちんと続けることが大切です。
血管の炎症は、血液検査でわかるの?
「自分の血管でも炎症が起きているのかな?」と気になる方もいるでしょう。
炎症の有無を調べる血液検査のひとつに、CRPという項目があります。体のどこかで炎症が起きていると、数値が上がることがあります。
また、「高感度CRP」という検査では、より低いレベルの炎症を測定できます。状況によっては、将来の心血管疾患のリスクを考える手がかりになることもあります。
ただし、CRPが高いからといって、血管に炎症が起きているとは限りません。感染症やほかの病気でも数値は上がります。
反対に、CRPが正常だからといって、動脈硬化がないと断言できるわけでもありません。
一般的な健康診断で、全員が高感度CRPを測る必要があるわけではありません。まずは血圧やコレステロール、血糖値など、基本的な項目をきちんと管理することが大切です。
検査を追加したほうがよいか気になる場合は、年齢や持病、家族歴なども含めて、かかりつけ医に相談してみてください。
結局、毎日の生活で何に気をつければいい?
ここまで読むと、血管の中ではずいぶん複雑なことが起きているんだな、と感じるかもしれません。
でも、日常生活でできることは、意外とシンプルです。
まず、血圧が高い人は、そのまま放置しないこと
コレステロールや血糖値の異常を指摘された場合も、きちんと向き合いましょう。
たばこを吸っている人は、禁煙を考えてみてください
食事では塩分をとりすぎないようにして、野菜や魚、大豆製品などを取り入れる。運動も、無理のない範囲で続けていきたいですね。
いきなり毎日1万歩を目指さなくても大丈夫です
まずは近所を散歩する、少し遠回りして歩く、長時間座りっぱなしにならないようにする。そんな小さなことからで十分です。
もちろん、生活習慣を整えれば、血管の炎症が完全になくなるというわけではありません。年齢や体質などの影響もありますし、すでに病気がある場合には治療が必要になることもあります。
それでも、血圧や血糖値などを管理し、血管への負担を減らすことは、将来の心筋梗塞や脳卒中を防ぐための大切な取り組みです。
血管の中は見えないからこそ、普段の管理が大切
動脈硬化は、単にコレステロールがたまって起こる病気ではありません。
血管の内側にある細胞の働きが変わり、免疫細胞が関わり、炎症が重なる。そうしたいくつもの変化が組み合わさって進んでいきます。
最近の研究では、こうした仕組みがさらに詳しくわかってきており、将来は炎症に着目した新しい治療が、より多くの患者さんに役立つ可能性もあります。
ただ、今の段階で特別なことを始めなければいけない、というわけではありません。
- 血圧やコレステロール、血糖値を確認する。
- 健康診断で異常を指摘されたら放置しない。
- たばこを避け、無理なく体を動かす。
こうした基本的なことが、血管を守るための土台になります。
血管の中で何が起きているのかは、普段の生活ではなかなか見えません。だからこそ、症状がないうちから自分の体を気にかけてあげたいですね。
「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそ、血管の健康を見直すよいタイミングかもしれません。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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