誰もが陥りやすい「仕事の落とし穴」と今日から使えるミス回避法
「なぜ、同じようなミスを何度もしてしまうのか?」「なぜ、問題は起きてからしか気づけないのか?」「なぜ、慎重に進めたはずなのに失敗するのか?」その原因は、 能力不足ではなく「見えているつもり」で仕事をしていることにあります。『仕事のミスは、この思考で9割防げる』(フォレスト出版)より内容を一部抜粋して紹介します。
数字で表しきれないリスクを見落とすとな
大切な商談の日の朝に限って、目覚まし時計が止まって大寝坊。
急いで家を出たので、スマートフォンを忘れてしまった。
慌てて駅まで走ったら、段差につまずいて転倒し、持っていた資料を水溜まりに落とし、水浸しに。スマホはなく、上司に連絡も取れません。
一つひとつの発生確率は低いものです。しかもこんなことが三つ重なる可能性はゼロに近いでしょう。
しかし「寝坊」という一つの事象が焦りを生み、判断力を鈍らせ、次のミスの確率を引き上げていく。
相関係数がゼロだったはずの事象が、気がつくと負の連鎖が起こり、起こるはずのなかった事態が現実に目の前で展開されている。最初のミスが心理状態を変え、次のミスを誘因する。
ちょうど、フィギュアスケートで最初のジャンプを失敗した選手が、その後立て直せずに惨敗するのと似たような状況です。
本気の準備がミスを撲滅する
では、どう備えたらよいでしょうか。
もしこれが仮に商談ではなく、「天皇陛下に謁見する予定」だったらどうでしょう。
目覚ましを一つだけセットしますか。おそらく万一に備え、複数個セットするでしょう。
また、現地には相当程度余裕を持って到着できるよう逆算するはずです。もしかしたら、近隣のホテルへの前泊を選ぶかもしれません。
ここで重要なのは、確率ではありません。本気度です。本気で失敗したくないと考えたとき、人は自然とストレステストを始めます。
最も起こってはいけないのはどのようなケースか? そこからの逆算です。
ここで誤解してほしくないことがあります。ストレステストは、「何でもかんでも最悪を考えて準備せよ」ということではありません。
「ここだけは絶対に外せない」という場面を特定し、「絶対に見たくない現実」から目を背けさせないための強力なツールです。
普段は独立しているように見える事象に、実は強い相関が潜んでいる。そのことに気づいて備えられる人が、「想定外」を「想定内」に変えられるのです。
どれだけ自分を信じていても。1%の疑いは手放すな
「チャレンジ」という言葉には、二つの意味があります。
一つは、物事に果敢に「挑戦する」という肯定的な意味。もう一つは、正しいかどうか「問い直す」という批判的な意味です。
最近はテニスや野球など、スポーツの試合でこの「チャレンジ」という場面を目にすることが増えてきています。
私たちは往々にして、前者の「挑戦」だけを強く意識します。自信を持て。挑戦しろ。迷うな。決断しろ。確かにそれは大切です。しかし、実際のビジネス現場では、それだけでは足元をすくわれることがあります。
本当に必要なのは、 自信を持って挑戦しながらも、その自分を客観的に見つめ、「本当に大丈夫か」と問いかけるもう一つのチャレンジです。
「大丈夫ですよ」と即答したものの……
私が社会人になって2年目の頃の出来事です。ようやく仕事の流れが見え始め、大手企業の主担当も任されるようになっていました。数字もそれなりにつくれるようなり、上司から「すごいな」と褒められることも増えていました。正直に言えば、少し天狗になっていたのだと思います。
ある日、取引先である大手鉄道会社の方々を接待するため、招待状を出すことになりました。主賓は総務部長。重要なお客様です。
作成した招待状を上司に見せたとき、こう言われました。
「名前、間違ってないよな?」
私は確認することもなく、即答しました。
「大丈夫ですよ!」
自信満々でした。
ところが、いよいよ招待状を持参するという直前になって、ふと「念のため」と確認しました。するとなんと、 「穣」とすべきところを「譲」と誤記していたのです。
ほんのわずかな違いですが、致命的な誤りです。私は冷や汗をかきつつすぐに修正し、事なきを得ましたが、危うく失態を犯すところでした。
自信は成長の証だが、確信は思考を止める
この出来事の本質は、漢字を間違えたことではありません。上司の問いに対し、確認もせず「大丈夫ですよ」と即答したことです。仕事がわかり始めた。数字もつくれている。評価もされている。だから自分は大丈夫だ──そんな自信が「過信」へと変わり、確認というひと手間を飛ばさせたのです。
自信と過信は、実に紙一重です。自信は、挑戦を後押ししてくれます。しかし、自信が100%の確信に変わった瞬間、人は自分のことが見えなくなります。
リスク管理とは、自分を否定する技術ではありません。自分の思考の死角を疑う技術です。
今回のケースでは、最後の最後で「念のため」という1%の疑いが残っていました。
その1%が、自分と会社の信用を守ったのです。
1%の疑いが、あなたを守る
1%の疑いとは、そんなに大げさなものではありません。
- もう一度確認する
- 反対意見を想定する
- 「もし間違っていたら?」と自問する
たったそれだけです。
決して「自信を持つな」という話ではありません。自信を持つことは大切です。しかし、頭の片隅に「本当にこれで大丈夫か?」という小さな問いを常に置いておく。この問いを置いていることが、自分への自信をさらに高めることにつながります。
リスク管理とは、見たくない現実を冷静に直視するためのメガネです。 「自分は間違えない」と思い始めた瞬間、私たちは見たくない現実から目をそらしているのかもしれません。
大きな夢に挑戦する人こそ、少しだけ自分自身を冷静に見つめる余白を残しましょう。その1%の余白が、あなたと組織を守ります。
この本の著者…伊豆原孝(いずはら・たかし)
元SOMPOホールディングス株式会社グループCRO執行役員(最高リスク責任者)。元・一般社団法人日本損害保険協会常務理事。大阪府立北野高等学校を経て京都大学文学部卒。国際大学大学院国際経営学研究科(MBAコース)修了。日本を代表する大手保険グループおよび業界団体の第一線で39年間にわたって活躍し、特にERM(統合的リスク管理)を専門とする。米国格付会社Standard & Poor’sによるERM評価では、日本の保険会社として当時最高ランクとなる「Strong」の獲得に貢献した。「月曜日が待ち遠しい社員であふれる社会」の実現を目指し、60歳にして社会保険労務士の資格を取得。現在は、企業の組織づくりや管理職育成を支援するマネジメントコーチとして活動するほか、リスク管理・コンプライアンスと組織マネジメントを融合した研修・講演を全国で行っている。人が生き生き働く組織づくりを学ぶオンライン講座「ひといき会」主宰。一般財団法人日本プロスピーカー協会認定シニアプロスピーカー。神奈川県藤沢市在住。休日は妻と合唱や海辺のランを楽しんでいる。
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