急に話が通じなくなった、様子がおかしい…「認知症が急に進んだ」と思う前に知っておきたい“せん妄”とは
高齢の家族が、ある日突然、話がかみ合わなくなった。「昨日までは普通だったのに、急におかしくなった」「認知症が一気に進んでしまったのでは?」と心配になることがあります。しかし、ここで知っておいてほしいのが「せん妄」です。せん妄とは、病気や薬、脱水、感染症、入院などをきっかけに、意識や注意力、認知機能が急激に乱れる状態です。認知症とは似ている部分がありますが、発症の仕方や経過が大きく異なります。特に重要なのは、せん妄は単なる「年齢による物忘れ」ではなく、体の中で何か異常が起きているサインであることが少なくないということです。医師が解説します。
認知症とせん妄の一番大きな違いは「急に起こる」こと
認知症は、一般的には月単位、年単位で少しずつ認知機能が低下していきます。
一方、せん妄は数時間から数日という短い期間で、突然症状が現れることがあります。
例えば、これまで自分で食事をしていた80代の男性が、入院した翌日から「ここは家だから帰らないといけない」「知らない人が部屋に入ってきた」などと話し始めることがあります。
家族からすると、「急に認知症が進んだ」と感じるかもしれません。
しかし、実際には感染症や脱水、薬の影響、手術後の状態などをきっかけに、せん妄を起こしている可能性があります。
つまり、急激な変化があった場合は、まず認知症と決めつけないことが大切です。
「話がおかしい」だけがせん妄ではない
せん妄では、会話の内容がおかしくなるだけではありません。
「今が何月なのか分からない」「ここが病院だと分からない」「話をしていてもすぐに別のことに気を取られる」「ぼんやりして反応が悪い」といった症状が出ることがあります。
また、昼間は比較的普通なのに、夕方から夜になると急に落ち着かなくなることもあります。
逆に、興奮するのではなく、眠っているようにぼんやりしてしまうタイプのせん妄もあります。
そのため、「暴れていないから大丈夫」とは限りません。
せん妄のきっかけには何がある?
せん妄を起こす原因は一つとは限りません。
高齢者では、肺炎や尿路感染症などの感染症、脱水、発熱、便秘、痛み、低酸素、電解質異常など、さまざまな身体的な問題がきっかけになります。
薬剤も重要です。
睡眠薬、抗不安薬、抗コリン作用を持つ薬、鎮痛薬など、一部の薬剤は高齢者のせん妄を誘発したり悪化させたりすることがあります。
さらに、入院そのものがきっかけになることもあります。
病室という慣れない環境、夜間の照明や物音、点滴やカテーテル、睡眠リズムの乱れなどが重なることで、せん妄が起こりやすくなります。
ケース①「昨日まで普通だった父が、急に別人になった」
例えば、82歳の男性が肺炎で入院したとします。
入院前は家族と普通に会話をしていました。
ところが入院3日目の夜、「ここは刑務所だ」「看護師が自分を監視している」などと話し始め、ベッドから立ち上がろうとします。
家族は「認知症になったのでは?」と驚きます。
しかし、こうした場合、肺炎による発熱や低酸素、脱水、睡眠不足、環境変化などが重なって、せん妄を起こしている可能性があります。
原因を治療し、環境を整えることで、症状が改善することもあります。
ケース②「認知症の母が急におかしくなった」
さらに注意したいのが、認知症の人にもせん妄は起こるということです。
例えば、もともと軽度の認知症がある78歳女性が、普段は家族の顔や自宅の場所を理解できていたとします。
ところが、尿路感染症をきっかけに急に会話が成立しなくなり、夜間に家の中を歩き回るようになった。
この場合、「認知症が急速に悪化した」と考えるのではなく、認知症にせん妄が重なっている可能性があります。
もともとの認知症があるからこそ、せん妄を見逃さないことが重要です。
「昨日と今日で違う」は大切なサイン
家族がせん妄に気づくうえで、とても参考になるのが「昨日との違い」です。
「先週より少し物忘れが増えた」という変化よりも、「昨日までは普通に話していたのに、今日は会話が成立しない」という急激な変化のほうが、せん妄を疑う重要な材料になります。
特に、時間帯によって状態が大きく変わる場合も注意が必要です。
- 朝は比較的しっかりしているのに、夕方になると急に話が通じなくなる。
- 夜になると不安が強くなり、歩き回る。
こうした変動もせん妄ではよくみられます。
「認知症だから仕方ない」と放置しない
高齢者の急な変化を、「もう年だから」「認知症だから」と片づけてしまうのは危険です。
急な意識や認知機能の変化の背景に、感染症や脱水、低酸素、薬剤の影響など、治療が必要な病気が隠れている可能性があるからです。
特に、急に意識がぼんやりした、呼びかけへの反応が悪い、ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくい、強い頭痛があるなどの場合には、せん妄だけとは限りません。
脳卒中など緊急性の高い病気も考える必要があります。
「いつもと違う」という家族の感覚は、診療のうえでも非常に大切です。
せん妄を疑ったら、何を伝えればいい?
医療機関を受診するときには、「認知症かもしれません」とだけ伝えるのではなく、いつから、どのように変化したのかを具体的に伝えてください。
「昨日の朝までは普通だった」
「夕方から急に会話がおかしくなった」
「夜になると落ち着かなくなる」
「薬が最近変わった」
「食事や水分があまり取れていない」
こうした情報は、原因を探すうえで重要です。
せん妄は「脳だけ」の問題ではない
せん妄が起きると、「脳の病気になったのでは?」と考えがちです。
もちろん脳そのものの病気が原因になることもありますが、実際には、感染症や脱水、薬、手術、環境の変化など、全身の状態が脳の働きに影響して起こることがあります。
高齢者の脳は、若い人に比べてこうした変化の影響を受けやすくなっています。
だからこそ、突然の認知機能の変化があったときには、脳だけを見るのではなく、体全体の状態を確認する必要があります。
「急におかしくなった」は、受診する理由になる
認知症は少しずつ進行することが多い一方で、せん妄は急に起こります。
だからこそ、家族が「何かおかしい」と感じたときには、その感覚を大切にしてください。
「認知症が一気に進んだ」と決めつける前に、感染症、脱水、薬剤、痛み、低酸素、脳血管障害など、別の原因がないかを確認することが大切です。
高齢者の「急な変化」は、単なる老化ではありません。
昨日までと明らかに違う。急に話が通じなくなった。急にぼんやりしている。
そんなときは、「年のせい」と様子を見るのではなく、せん妄を含めて医療機関に相談することをおすすめします。
そして家族にとって大切なのは、「以前のその人を知っているからこそ分かる変化」です。
その気づきが、隠れている病気を見つけるきっかけになることがあります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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