早くから対策していたのに…指の変形、不眠、ブレインフォグ。人生で初めて“衰えていく自分”という現実に直面して〈体験談〉
なんとなく我慢してやり過ごしてしまったり、病院に行っても老化で片付けられてしまうことも多い更年期症状。今回ご紹介するフリーランス翻訳者の前本恵里可さん(53歳、仮名)も、手指の痛みを老化と診断され、放置してしまった経験があります。現在もさまざまな更年期症状と向き合い、自分なりの対処方法を模索中という彼女に、お話をお聞きしました。
更年期は閉経の前後5年ほど、計10年くらいといわれていますが、これはあくまでも一般的な期間。翻訳者として活躍する恵里可さんは、40代前半から既に10年近く更年期症状とともに過ごしている、いわば更年期のベテラン。時期的にはそろそろ症状が抜けてくる頃かと思いきや、今は閉経の兆しが見えてきたものの、更年期症状としては一番ひどい時期に差し掛かっている気がするといいます。長期に渡り悩まされてきた数々の症状の中でも、最初に現れたのは指の関節の痛みでした。
「40代に入った頃、指の関節が痛み始めました。朝の指のこわばりに加え、日中も指の第一関節がひどく痛んだため、近所の整形外科に行ったのですが『老化だね』で片付けられてしまって。病名も告げられず薬も出されなかったので、そのまま放置してしまったんです」。ところが痛みはどんどん強くなり、変形していく指先を見て恐ろしくなった恵里可さん。パーキンソン病やリウマチを疑い、手指専門の病院で検査を受けたところ、ヘバーデン結節と診断されました。
へパーデン結節とは、手の指の第一関節にこぶができ、腫れや痛み、変形を伴う疾患で、40歳以降の女性に多発するといわれています。その多くは女性ホルモンが更年期に減少することで発症したり、症状が進行していくと考えられており、代表的な更年期症状のひとつでもあります。そして恵里可さんのように、最初に更年期由来と気づかれずに症状が進行してしまうことは珍しくありません。「指の痛みは今でこそ落ち着いたものの、結局8年近く続きました。いちばん最初に行った近所の整形外科で、へパーデン結節の進行を抑制するといわれているエクオールの接種を提案されていたら、指の変形がここまで酷くなることはなかったのでは、と思うこともあります」。
実は恵里可さんは、割と早いうちから更年期に備えていました。「亡くなった母が更年期障害でとても苦しんだ姿を見ていたので、私も若い頃から覚悟していました。40歳頃からヨガに通い始めたのも更年期に備えてのことでしたし、手指の専門病院でヘバーデン結節がわかってからは勧められたエクオールを欠かさず摂取して、それなりに対処しているつもりでした」。
ところがその後も、自身の備えだけでは抑えきれないさまざまな症状に悩まされたのだそう。「心身どちらにも症状が出たのですが、身体的な面でかなり辛かったのが、夜中に何度も目が覚めること。これはなんとかしないと生活に支障が出るレベルだったので、昨秋レディースクリニックの更年期外来へ駆け込み、加味逍遙散という漢方を処方してもらいました。飲み始めて半年ほどで、夜中に目を覚ます回数が減ったので、効果を感じています」。それ以外にも、突然の目眩や動悸、だらだらと続く疲れや日中の眠気など、日常のちょっとした不調が増えたのも同時期でした。
そして何よりも精神的な面でキツかったのは、落ち込みが激しいこと。「ただ落ち込むだけでなく、その感情も不安や憂うつ、自己否定などさまざま。さらには謎に湧き上がる攻撃的な気持ちまで、ありとあらゆる負の感情が次々と押し寄せてきました。ただ、これらは都合よく更年期のせいにしていますが、実は本来の自分の性質かもと思ってしまうときもあります」。精神的な症状というのは、性格やストレスと無関係であるとは言い切れないため、恵里可さん同様、更年期ではなく自分のせいかもと抱え込む人も多いようです。
ついに昨年には、彼女の更年期症状は仕事にも影響が出始めました。「昔は絶対しなかったようなうっかりミスが増えたり、理解するのに時間がかかるようになりました。ブレインフォグというのでしょうか? この能力的な衰えも地味にメンタルをえぐられます。加えて更年期のせいなのか、歳をとったからなのか、仕事面で不慣れなことに接したり、スピードや量を求められる作業を担当する際、軽いパニック症状になることも。息が苦しくなり、脳の表面に鳥肌が立っているような感じです。昨夏はそれで大きく自信喪失し、顔面麻痺の症状が出ました」。
数々の更年期症状で心身の疲弊を強く感じた恵里可さんは、どうにかこの状況を打破しようといくつかのセルフケアを取り入れたほか、とにかく「無理をしない!」ということを心がけたそう。「先に挙げた漢方に加え、瞑想をしたりジャーナリングをしたりと精神面のケアに気を配るようにしました。また、顔面麻痺の症状は、その当時取り組んでいた仕事から思い切って離れたことで、回復できました。今はとりあえずパニックになりそうだと感じたら深呼吸したり、メモをとりまくってやるべきことを整理して可視化するようにしています」。
彼女が辛い症状に悩むとき、ネットや周囲の人たちからの情報も大きな助けになったのだとか。「今はネットに更年期についての情報がたくさんあるのでとても助かります。また、母の時代に比べ、私たちの世代は更年期についてオープンに語ることが増えているので、友人の話に共感したり、教えてもらうことも多いです。同世代の周りの友人たちは、程度の差はあれど何かしらの症状に悩んでいるので、お互いに助け合い、慰め合っている感じです。そしてそういう存在の人が身近にいることに、とても救われています」。
そんな彼女にとって最近の楽しみであり、更年期の精神的な症状の緩和にも良い影響があると感じているのが、中年女性同士のポッドキャスト番組。「別に健康がテーマの番組である必要はなく、未解決殺人事件とか推し活とか、好きなジャンルについておばさんたちが熱く会話しているのを聴くことで、こっちのおばさんも元気をもらえます」。同じような悩みを持つ同世代からの情報やパワーを受け取ることが、知らず知らず自分のエネルギー源になっているのかもしれません。
現在進行形で更年期症状に悩む恵里可さんですが、「明けない夜はない」の気持ちで、あまり深刻に考えず乗り切るしかないかなと思っているそう。「若い頃は、努力すれば何ごともプラスに作用するのが当たり前と思っていました。でも今は、努力してなんとか現状維持。さもなくば、体力も知力も下降していくのだと実感しています。人生で初めて“衰えていく自分”という現実に直面していますが、こうやってみんな老いを受け入れていくのでしょう。更年期はいろいろ吹っ切れたおばあさんになる準備期間だと思っています」。
自分なりに更年期を受け入れ、症状と付き合っていく上で、恵里可さんが密かに期待しているのは、AIやロボットなど科学の力。「更年期AIとかロボットのようなものがあればと思います。代わりにご飯を作ってくれたり、掃除してくれたり、午後だけ仕事を代わってくれたり、そういうお助けマン的なものが登場してくれたら幸せな人が増えると思うので、頭のいい人にぜひ検討してもらいたいですね(笑)」。
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