中高年シングル、家賃が払えず泣いた日々…。自分はダメだ、の呪縛を解き「死なないでよかった」と思えるまで【経験談】

中高年シングル、家賃が払えず泣いた日々…。自分はダメだ、の呪縛を解き「死なないでよかった」と思えるまで【経験談】
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『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)著者の和田靜香さんへのインタビュー後編では、ご自身の歩みについて伺いました。90年代から音楽ライターとして活躍するも、リーマンショックを機に仕事が激減。家賃が払えず図書館で泣いて過ごした日々もあったといいます。それでも「書くこと」と周囲に手を差し伸べてくれる人々に支えられ、今に至る和田さん。「助けて」と言うこと、その手を掴むことの大切さを語っていただきました。※中高年シングル女性とは必ずしも独身者の一人暮らしの人に限らず、未婚の母、離別・死別した人、親と同居している人など「パートナーと一緒に住んでいない人」を定義しています。

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「女性の仕事=格下」という風潮

——和田さんも中高年シングル女性の当事者でいらっしゃいます。これまでの人生について教えてください。

もともと音楽ライターの仕事が多かったんです。90年代はCDが売れる時代で、音楽業界全体が潤っていました。今では信じられないですけど、アーティストのインタビュー1本のためにニューヨークに行くこともあったんですよ。90年代から2000年代初めぐらいまでは仕事がいっぱいあって、ライター業だけで生活ができていました。

ただ、すごく楽しくやっていたかというとそうでもなくて。業界の中で音楽にもなんとなくランク付けがされていて、特定のジャンルを書くのは女性ライターが多く、女性の書く記事は男性のものより一段格下に見られるというか、評価の仕方自体が違うように感じていました。もちろん「和田ちゃん、あの記事おもしろかったよ」と言ってくれる編集者もいるんですけど、ライターとして常に認められない感覚があって、充足感は得られないままでした。

当時はフェミニズムも知らないし、結婚もしていない自分はダメな人間だと思い込んでいたから、自分にも自信が持てなかった。息苦しさを感じながら生活していたんですけど、その苦しさの正体も言語化できないままでした。

——その後、状況が変わったのはいつ頃でしょうか。

一番大きな転機は2008年のリーマンショックだと思います。それまでも雑誌は少しずつ右肩下がりにはなっていたんですけど、まだ雑誌を読む文化はあったんです。でもリーマンショックを機に仕事が大きく減って、そこからバイトをしないと生活できなくなりました。40歳過ぎでしたね。

フリーランスの40歳って仕事が減るタイミングと言われているんですよね。リーマンショックと、当時の音楽の流れについていけなくなったことが重なって、仕事が大きく減ったんです。ライター業の月収が4万円ぐらいになって、全く暮らせないから、バイトを始めるしかありませんでした。

——人生で一番つらかった時期でしょうか?

このときは、バイトをすれば生きていけると思っていたので前向きだったんです。本当のどん底は2013年頃でした。家賃が払えないから安いところに引っ越して、バイトも落ちることが続いて、本当に気分が落ち込んでしまって。その時期はみんなにご飯を恵んでもらったりしていました。

当時は「坂道を転げ落ちていく」ってまさに今の私だなと思って、立ち尽くしたりしていました。そういう感覚って分かりますか? 絶望ですよ。一日生きているのが奇跡のような状態でした。2年間ぐらいは収入が100万円以下で、少ない貯金を食いつぶして生活していたんです。

——そのときはどう過ごしていたんですか。

図書館に自転車で行って、本棚の方を向いて、壁を向いて泣いて日々を過ごしていました。気持ち的にも落ち込んでしまって、文章もちゃんと書ける状態ではなかったんです。それでも絵だけは描いていて、それを2023年につくばにあるフェミニズムと福祉の本を扱うサッフォーという書店で『オレは海ヘビ:くねくねと迷いながら』というZINEにまとめていただいたので浮かばれる思いでした。

地域おこし協力隊に応募して落選したことも。じっとしてるのは苦手なのでなんとかしようと思ってあがいてはいたんです。でもあがけばあがくほど、うまくいかない時期でした。

アクションを起こしたことがうまくいくときもあれば、タイミングが悪くてすべて失敗してしまうときもある。人生にはそういう時期があるのだと振り返って思います。だから、ヨレヨレでも生き続けていくことが大事だなって。

「書くこと」が好き

——心の平穏はどうやって取り戻せたのでしょうか。

結局、また書くことで取り戻していったんです。私は相撲がすごく好きだったから、相撲部屋の女将さんたちの座談会をやったらおもしろいんじゃないかという企画を急に思いついて、週刊誌に売り込みに行きました。

企画はすぐ通ったんですけど、実際に出演してくれる女将さんが全然見つからなくて苦労しました。大相撲界に知り合いなんて一人もいませんでしたから。でも、ある小さな相撲部屋の女将さんとすごく仲良くなれて、その方のおかげで座談会が実現しました。

記事は全国からたくさんお手紙をいただくほど反響が大きくて、編集者から「こんなに好評だったことはない」と言われるほどで、相撲界でも話題になる企画でした。それから相撲関連の仕事がもらえるようになりました。

——でも、その後コロナがやってきたんですよね。

2020年にコロナが蔓延し始めましたね。バイトメインで暮らしていたのは11年間で、2020年の春にバイトも全部なくなって、地獄のような状態になりました。

ただ、そのとき「もう自分には書くことしかない」と思ったんです。当時つながっていた週刊誌のウェブサイトでずっと相撲のことを書いていたんですけど、「バイトがなくなったから、相撲だけじゃなくて好きなことも書いていいですか」ってお願いしたんです。

ちょうどネットカフェに住んでいた人たちが緊急事態宣言でみんな追い出されて問題になっていて。そこで生じたさまざまな問題を書いたら、その記事が大バズりしたんです。そこから社会的なことを書き始めるようになりました。

それ以降はまたライターの仕事だけで生活できるようにはなったんですけど、年収を計算すると「よく生活できたな」と思う年もあります。でもずっとバイトしてきたので、「もし生活費が足りなくなっても、またバイトをすればいいや」と思っている自分もいるんです。

「助けて」と言うこと

——経歴を伺うとすごく大変だったんだろうなと感じるのに、和田さんからは不思議と余裕というか、おおらかさを感じます。その背景には何があるのでしょうか。

自分一人ではなんとかならなかったときもいっぱいあるんですけど、助けてくれる人がいるんですよね。「お金がない」と「死にたい」が私の二大キーワードだったから、みんなが心配していろいろ買ってくれて。

今住んでいるところも知り合いがすごく安く貸してくれているし、机やテレビ、本棚、冷蔵庫、キッチンの収納なんかも、全部誰かが買ってくれたものなんです。年収150万円ぐらいのときが多かったから何も買えなくて、ご飯すらちゃんと食べられないときはお米をもらったりもしていました。

——頼り上手なのですね。

確かに、これは一つの能力なのかもしれないですね。買ってもらっても悪びれないし、めちゃくちゃ素直に喜びます。そういう才能だけはあるのかもしれません(笑)。

——ただ、自己責任論の強い社会の中で、「助けて」と言うこと自体がハードルが高いように感じます。

地元の地域包括支援センターのケアマネージャーさんが「誰かが手を伸ばしてくれたとき、その手を掴めることがすごく大事だ」とおっしゃっていたことが印象に残っています。普段から「助けて」と言えなくても、一人で孤独に過ごしていてもいい。ただ、誰かが手を伸ばしてくれたとき、その手を掴むことさえできればなんとかなる、と。

私は「助けてください」と叫ぶタイプですが、そんなに図々しくできる人はなかなかいませんよね。だから、普段は「助けて」と言えなくて自己責任だと思い込んでいても、誰かが手を伸ばしてくれたら、その手だけは握ってほしい。それができれば助かりますから。

——和田さんご自身は、現在「なんとかなる」という感覚はどのくらいお持ちですか。

なんとかなると思う日もあれば、なんとかならないと思う日もあります。安定した仕事をしているわけではないし、年を取ってくると体も思うようにならないから、騙し騙し生きているという感じですね。

どん底を何度か経験しているうちに、どん底から這い上がることに少し慣れている感覚はあるかもしれないです。お金は相変わらずなくて、ずっと生活は苦しい。でもとりあえず、こうやって本を作ることができていて、結構好きなことができている。だから今は、死なないでよかったなと思いますね。

 

『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)
『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)

【プロフィール】
和田靜香(わだ・しずか)

1965年生まれ。ライター。
著書―『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日文庫)、『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』、『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(以上、左右社)、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共編)、『世界のおすもうさん』(共著、以上、岩波書店)など

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