「苦しいのは自分のせい」自己責任論者だった私が、フェミニズムに出会って自分を取り戻すまで【経験談】
『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)の著者・和田靜香さんに、約30人への取材を通して見えてきたものを伺いました。標準世帯を前提とした制度からこぼれ落ち、仕事や介護、お金の問題に直面する女性たち。その背景には「自己責任論」や、女性は男性に養われるものという社会の枠組みがあると和田さんは語ります。中高年シングル女性の課題は、実は女性全体に関わるテーマでもあるのです。※中高年シングル女性とは必ずしも独身者の一人暮らしの人に限らず、未婚の母、離別・死別した人、親と同居している人など「パートナーと一緒に住んでいない人」を定義しています。
“普通”の世帯に属さない女性なら誰でも経験するかもしれない
——本書では約30人の中高年シングル女性たちに話を聞いたとのことですが、どんなことを感じましたか。
「中高年シングル女性」とひとくくりにしても、共通点はあるようでないんです。フルタイムで働いている人もいれば、介護の後に体を壊した方、高齢になって癌になり働けなくなった方もいました。
そのうえで制度からこぼれおちて、仕事や介護、お金の問題などで困難に直面しています。そういう点では、国の想定する標準世帯(会社員の夫と専業主婦の妻、子ども2人)に当てはまらない女性なら、誰でも経験しうることだと思っています。
——生まれ育った家庭環境の影響を受けている方も少なくないように感じました。
そうですね。家族から虐待や性暴力を受けた人もいれば、機能不全家族で育って今でも親との関係に悩んでいる人もいます。
世代的には親の介護が始まる年代でもあるので、関係が良くても悪くても介護を背負っているケースが多い。取材後も連絡を取り合っている方が何人かいるのですが、現在は親の介護が始まったという声をよく聞きます。
——親との関係が難しかったと感じている方も、介護を担っているのですか。
シングルであることが、介護を押し付けられることに直結するケースはとても多いですね。きょうだいがいても「こっちには家族がいて忙しいから、あなたがやって」と言われたり、親からも無言で「あなた一人でしょ」という圧があったり。上の世代になると「女なんだから当たり前」という考えの人もいる。同居していれば、自然と担うことになります。
きょうだいは家庭を持ち、正社員で経済的にも安定しているのに、何もしないしお金も出さない、という話も聞きました。ただ弁護士さんに伺ったところ、介護費用を出さないきょうだいに対して法的にお金を出させる方法はあるそうです。私は専門家ではないので詳しい説明はできませんが、困っている方は弁護士に相談してみるといいと思います。
——取材を受けられた方は、ある程度ご自分の中で経験を整理して乗り越えていっているのでしょうか。
今でも生活に困難を抱えて乗り越えてはいないものの、「これまで話したことがなかったから聞いてもらいたい」という思いで協力してくださった方が多かった気がします。
希望を感じたのは、フェミニズムを知ったことで「私の困りごとは自己責任ではなく、社会構造の問題なんだ」と気づいて、気持ちの面では前向きになれたと話してくださった方が何人かいたこと。
現実の生活には困難があるけれど、「私のせいじゃないんだ」と知ることで、自分は生きていてもいいという感覚につながる。そこからジェンダーについて語る場に参加して仲間をつくり、一緒に声をあげていく。そうやって孤立しないことは大きいんですよね。
「自己責任論」からの解放
——和田さんご自身も、フェミニズムに出会うまでは自己責任論がかなり強かったのですか。
ガチガチの自己責任論者でした。2021年にある政治家と本を出しているんですけど、その方と出会って「こんなに経済的に苦しいのは私のせいではなく、社会の仕組みのせいなんだ」と気づいた。それでもまだ自分の中には自己責任論が残っていて、「こんな生き方を選んできたのはやっぱり私が悪い」と思い込んでいたんです。
フェミニズムに出会ってはいたものの、自分の中に落とし込むまでには時間がかかりました。少しずつ過去の自分を振り返って反省したり、苦しみながら吸収していく中で、自己責任論からだんだん解放されて楽になっていきました。
——「中高年シングル女性」を取りあげた記事やSNS投稿への風当たりは強いとおっしゃっていましたよね。
とにかく「自己責任だろ!」と言いたい人が多かったです。体調が悪かったり、介護があったりして1日8時間労働が難しい人もいる。その話をすると「甘えたことを言うな」「結婚してないなら当たり前だろう」というコメントが大量にぶつけられました。「クズ」「用なし」といった、目を疑うような言葉もありました。
「自己責任論」って生活のあらゆる場面で触れて生きてきていると思いますし、内面化している人も多い。口にしなくても内心「自己責任だろう」と思っている人はたくさんいるように感じます。
でも、わざわざ罵倒する言葉を人にぶつけてしまうのは、その人自身も妬みや僻みで心の中がいっぱいになっているのかなと思って、心配にもなります。
——本書に登場する方には就職氷河期世代も多く、資格取得で道を切り拓こうとしている方も目立ちました。
努力を重ねている方は本当に多いんです。それでも構造的な問題だから努力でどうにもならないことが少なくない。自己責任論を自分に向けている方が多いので、資格取得への意欲も大きく、取材後に新しく資格を取ったと報告してくださった方もいました。
ただ、本当は非正規という制度自体が悪いですし、低賃金で働かせていることが問題なわけです。彼女たちもそれは認識している。でも、現実として誰も助けてくれないし、非正規雇用は相変わらずなくならないから、自分でなんとかするしかないと思って努力しているんです。
女性が一人で生きていくことが想定されていない
——「女性が働くこと」については、世代によって状況でも社会的な価値観でも違いが大きいでしょうか?
20代30代など下の世代に話を聞くと、出産や子育てで一旦キャリアが中断されても、正社員から正社員に転職できている人も多いんです。年代でこんなにも違うんだと驚きました。
私が話を聞いてきたのは氷河期世代ともっと上の世代なので、「女性は結婚したらやめるもの」という空気の中にいた人たち。一旦正規の仕事を離れてしまうと、再度正規雇用にたどり着くのは難しかったです。
そもそも氷河期世代は非正規しかなかったですし、正規雇用があっても働く環境が過酷な、搾取するような企業で、体を壊さないためには非正規に戻るしかない、というケースもありました。
——世代間ギャップがありますね。
今の20代は売り手市場の中で就職活動をしてきた人が多いので、見えている世界が違う人もいるでしょう。中高年シングル女性の苦しみは、意外と伝わりづらいのかなとも思います。
とはいえ、20代女性も年を取っていくにつれて年金の問題が出てきます。ずっと厚生年金であればある程度もらえますが、年金だけで十分に暮らせるほどではない。
それに一人で生きていく選択をすることにも、以前よりは減ってはいるもののまだ「なんで結婚しないの?」と聞かれることはありますし、困窮すると「結婚しないのが悪い」といった視線を向けられる。そうやって社会から外れ者のように扱われるので、必ずしも順風満帆とはいえないと思います。
——「この本に書いたことは中高年シングル女性のみならず、女性全体に関わるもの」とおっしゃっていますが、どういうことなのでしょうか。
本書でも紹介しているのですが、「わくわくシニアシングルズ」の大矢さよ子さんが「属性やシングルになったプロセスは違っても、課題は同じだからね。この国の女性を位置づけているのはみんな、男性に依存すればいいという、そういうところからきている問題でしょう?」とおっしゃっていて。
「会社員の夫と専業主婦の妻」が“普通”とされてきたように、女性は男性に養われればいいという考えで社会がつくられてきた。だからそこから外れる女性たちの生き方が想定されていない。今回お話を伺った方々が直面している困難の土台にあるのってそういう社会の仕組みなんですよね。
今結婚していても、離婚するかもしれないですし、死別するかもしれない。平均寿命をふまえると、女性の方が長生きするから、最終的に女性がシングルになる可能性は高いんですよね。それに本書で触れている「女性の仕事が軽く見られてしまう問題」は、結婚している女性でも経験したことがある人は少なくないと思います。そういった点でも、中高年シングル女性だからこそより顕著に問題がわかりやすくなりますが、女性全体に関わるものでもあるんです。
※後編に続きます
【プロフィール】
和田靜香(わだ・しずか)
1965年生まれ。ライター。
著書―『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日文庫)、『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』、『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(以上、左右社)、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共編)、『世界のおすもうさん』(共著、以上、岩波書店)など
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