「死にたい」を打ち明けたら迷惑をかける?12年間夫にも隠した漫画家が語る希死念慮との距離感|経験談
「死にたい」という気持ちを誰かに打ち明けることは、簡単ではありません。過剰に心配されたり、時には引かれてしまったりすることもあるでしょう。『死にたがりやさんの明日生きるため日記』(はちみつコミックエッセイ)作者の加藤かとさんは、結婚して12年間、夫にも希死念慮を隠し続けてきたといいます。後編では、身近な人への打ち明け方や、周囲に望む接し方、そして「希死念慮があるなら家庭を持つべきではない」という声にどう向き合うかについて伺いました。
※本記事では希死念慮に関して触れています。ご自身の体調とご相談してお読みいただければ幸いです。
希死念慮を打ち明けること
——「死にたい」と話すと、過剰に心配されたり、ときには引かれてしまったりすることがあると思います。作品のとおり、夫さんには早い段階で打ち明けていたのでしょうか?
私自身、死にたいという気持ちをずっと隠してきました。去年の春頃、すでに漫画を描き始めていた時期に、話の流れで夫に打ち明けることになったんです。結婚して12年間、ずっと希死念慮を抱えてきましたが、初めて話しました。
ただ、作中のニジコの夫であるタイヨウは、理想的な夫として私が描いているので、あそこまで包容力のある人はなかなかいないと思います。実際夫も突然聞かされて「そんなこと言わないでよ」と困っているような状態でした。
とはいえ、タイヨウが全くの架空の人物というわけではなく、希死念慮を打ち明ける以前に夫から言われて嬉しかったことや、逆に言われてつらかったこと、夫と過ごしたエピソードも詰め込んでいます。
——ほかに話した方はいますか?
漫画を作成するために必要だったこともあり、編集者の方には話していますし、コミックエッセイの講座から生まれた作品だったので、一緒に講座を受けていた人にも話しています。
SNSでも公表したのですが、以前から応援してくださっている方を心配させてしまうだろうという不安がありましたし、今もこうやって本を出して心配させてしまっただろうなという気持ちがあります。
困らせたり心配させたりするのが苦手なので、夫に対して今後は話さないと思いますし、もちろん子どもには言いませんし、友人にも打ち明けないと思います。
——今後、どういう人になら打ち明けてもいいと思いますか?
もし同じ気持ちを持っている方がいたら、その人には「実は私も持ってるんだよね」と打ち明けてもいいかなと思いました。打ち明けてくれたから私も打ち明ける、という感じです。
相手が希死念慮のない人だとすると、私が話すことで「どうしたらいいんだろう」と困らせたり心配させたりしてしまうのでは、と思うと私も言えなくなってしまいます。
私の場合は、話して楽になるというより、つらくなってしまうので、一人で溜めている方が楽なんです。
基本的には自分が「死にたい」という感情を抱えていることは否定していないのですが、同時にどこか「ダメだな」という感覚を捨てきれてもいないんです。人に話すことで、そのダメだなという気持ちが浮かび上がってしまうというか……大人しく自分の中に抱えているだけの方がつらくなりにくいのですよね。
——身近な人から「実は死にたいって思うことがあるんだよね」と打ち明けられたら、どういう気持ちになると思いますか?
すごく心配な気持ちになると思います。自分が相談している立場だったら「放っておいてよ」と思うのですが、逆の立場だったら心配してしまうだろうと思うんですよね。
たとえば夫がもし「俺、死にたいんだよね」と言ってきたとしたら、私に何ができるかなと考えたり、どうしてほしいか確認したりすると思います。夫が何を求めているか、病院に行った方がいいなら、一緒に調べたり一緒に行ったりするし、死なないように動いてしまうかもしれません。
——希死念慮と共に生きている方が周囲にいる場合、身近な人にはどういう姿勢でいてもらえるとありがたいと思いますか?
あくまで私の考えなので、全員がそう思うわけではないということを強調したうえでお答えします。私の場合は、「死にたいと思うのはよくないよ」と否定してきたり、私が望まないのに無理やり病院に連れていくことはしないでほしいと思います。
心配な気持ちはよくわかります。ただ、希死念慮を持っていること自体を「元のあなたに戻って」と言われてしまうと、私だったら20年前の自分なので、20年間生きてきた私自身を否定されたように感じてしまうんです。
なので、「心配してるよ、あなたのことが大切だから心配だよ」と言ってくれるのはありがたいですしうれしいのですが、あとは何もなかったかのように接してもらえると助かります。
希死念慮があるなら、家族を持ってはいけない?
——ネット上で「希死念慮があるなら、結婚したり子どもを持ったりしてはいけない」という主張を見かけることがありますが、加藤さんはどうお考えでしょうか?
私自身は、希死念慮を持っているからといって、自分が幸せだと思うことを遠ざける必要はないと思います。
私の夫はタイヨウではないので、そこまで理解があるわけでもないし、子どもがいて幸せですが、当然、育児上の悩みやつらいことも出てきます。私自身、希死念慮を持っていることで、家族に対して罪悪感があるのですが、明日を生きる勇気をくれているのも家族であることが多いんです。
本作の試し読みをXに上げたとき反響をたくさんいただき、その中に「希死念慮があるのに、なんで結婚してるの?なんで子どもを産んだの?」という、否定的なコメントが多々ありました。拝見する限りでは、ご自身が希死念慮を持っていて、自分は結婚も出産もしていないのに「なんでそんなことできるの」と思っている方が多い印象でした。
希死念慮がありながらも家族がいることについて、「私もそうだよ」と言ってくださる方もたくさんいらっしゃいました。表立って公表していなくても、希死念慮を抱えながら家庭生活を送っている方は存在するので、否定的なコメントを目にすることで傷ついてしまった方がいらっしゃるのではないかと思い、申し訳ない気持ちになりました。
希死念慮を持っている人で、「家族を持つべきでない、自分は持とうとは思わない」と考えている人もいれば、自分と繋がりを持ってくれる人たちがいることで自分の救いになったり、生きる糧の一つになるという考えもあります。「自分とは違うけれども、そういう考えの人もいるんだね」とお互いが尊重できたらいいなと思います。
——「希死念慮のある人=責任を持って子育てできない」という思い込みがあるから、そういうことを言う人もいるのかもしれませんが、実際には打ち明けていないだけで、希死念慮を持ちながら生きている方はいらっしゃるのですよね。見えているものだけで判断するのはよくないと思いました。
私からするとすごく明るくて社交的で、パートナーもいて子育てもしている人から「実は私も」と打ち明けられたこともありました。
自分で言うのもなんですが、私自身も普段は暗く見られることはないんです。希死念慮を抱えていることは見た目ではわかりません。実際に子育てをしながらも、実は希死念慮と共に生きている、という人は少なくないと思うんです。周囲から見たら普通に元気に生活しているように見えても、死にたいと思ってしまうこともあるのが現実なのだと思います。
【プロフィール】
加藤かと
猫を3匹飼ってる猫好きの漫画家。
福井県出身/現在も北陸在住
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