ベターハーフ(かけがえのないパートナー)を探す旅をやめてみる|あなたの人生は「未完成」なんかじゃない
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
「まだ結婚しないの?」
「いい人、いないの?」
「一人は寂しくない?」
親戚の集まりで、職場の飲み会で、友人との何気ない会話で、こうした言葉が飛んでくるたび、心の奥に小さなトゲが刺さる。そんな経験、ありませんか?
30代の友人が、こんな話をしてくれました。年末年始の実家帰省が憂鬱だ、と。別に実家が嫌いなわけじゃない。仕事は順調で、友人関係も充実している。一人暮らしの自由を謳歌している。でも、親戚が集まると決まって結婚の話題になる。「もういい歳なんだから」「親を安心させてあげなさい」。
彼女は、その言葉の裏に潜む「あなたの人生は未完成」というメッセージに、疲れ果ててしまっていたのです。
心理学者のピーター・マグロウ博士は、著書『「ソロ」という選択』(江口泰子・著/青土社・刊 原題Solo: Building a Remarkable Life of Your Own)の中で、こう指摘しています。人生とは誰かとペアになることで完成するものではない、と。
「恋愛伴侶規範」という見えない檻
人生とは誰かとペアになることで完成するものではありません。それにも関わらず、「誰かと番にならなければ半人前」だとみなされることはよくあります。
人間は一人で生まれ、一人で死んでいくにも関わらず、なぜ、「結婚しなければ半人前」「恋愛相手は結婚相手がいた方が幸せ」「自分のためだけに生きるなんて子供っぽい」などと言われることがあるのでしょうか?
それは、私たちが「アマトノーマティヴィティ」という規範が浸透した社会に生きているからです。日本語で「恋愛伴侶規範」と訳されるこの言葉は、恋愛関係(特に結婚)が人生において最も重要で、誰もが望むべきものだという規範を指します。
この規範がどれほど強力で広範か、いくつか例を挙げてみましょう。
独身の人が一人で家を買うと「結婚が遠のくよ」と言われ、結婚してから買うべきだと諭される。会社の福利厚生は「家族手当」「配偶者控除」など、カップルに有利な設計がされている。バレンタインデーやクリスマスは「恋人と過ごすもの」という暗黙の了解があり、恋人がいない人は「クリぼっち」などの言葉で自虐する。ディズニー映画のハッピーエンドは、ほぼ必ずパートナーとのキスシーン(永遠に幸せに暮らしましたとさ)で締めくくられてきた。
これらに埋め込まれた恋愛伴侶規範は、まるで空気のように当たり前すぎて、誰も疑問を持ってきませんでした。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
結婚制度は、意外と「新参者」
実は、恋愛伴侶規範はそんなに歴史が長い規範ではありません。
現在私たちが「当たり前」と思っている結婚制度(恋愛結婚を前提とし、夫婦が経済的・感情的なユニットとして人生を共にする形)は、人類史上、つい最近の発明に過ぎません。
たった200年ほど前まで、結婚は主に経済的取り決めでした。家と家との契約であり、財産の継承手段であり、政治的同盟の道具でした。「愛」は、結婚の必要条件ではなかったのです。
さらに遡れば、人類は小さなコミュニティで助け合いながら生きていました。子育ても、老後の面倒も、コミュニティ全体で分担していたのです。「一人の相手とだけ、死ぬまで添い遂げる」というモデルは、歴史的に見れば、むしろ例外的です。
なのに、私たちは「これが自然で、これが正しい」と信じ込んでいる。この思い込みの強さが、ソロで生きる人たちを「何か欠けている」かのように扱う社会を作り出しているのです。
ソロの方が、幸せに生きられる人も多い
ピーター・マグロウは、完全な人間になるためにベターハーフを待つ必要はなく、独身だけど、ではなく、独身だからこそ、完璧な人生が送れる人もいると言い切っています。自分の時間を自由に使える、住む場所を自分で決められる、キャリアの選択に誰かとの調整が要らないなど、ソロでいるメリットは計り知れないと彼は言います。
しかし、だからと言って結婚反対論者な訳ではありません。結婚という形で幸せを見出している人たちを否定するつもりは、まったくないのです。
問題は、結婚という形式だけが、あまりにも重視され過ぎていることだとピーター・マグロウは語ります。まるで結婚だけが「正解」で、それ以外は「仮の姿」や「途中経過」であるかのように扱われてしまう。この硬直した価値観こそが、多くの人を苦しめているのだ、と。
パートナーが現れるのを待つのをやめ、「幸せなソロ」を選ぶのも一つの選択肢
親しい友人関係、充実した仕事、趣味のコミュニティ、ペットとの暮らし、自分自身との対話……結婚以外にも、人生を満たしてくれるものは無数にあります。
もしかしたら、あなたは今、恋人や結婚相手、生涯に渡って続くパートナーと出会いたいと思っているかもしれません。それも、もちろん素敵な選択です。
でも、もしそうでないなら、もし今のあなたが、一人の時間を愛し、自分のペースで生きることに喜びを感じているなら、それを恥じる必要はまったくないのです。焦る必要も、言い訳する必要もありません。
「一人でも幸せ」「一人だからこそ幸せ」であることは、決して妥協でも、負け惜しみでもない。それは、他者の承認に依存せず、自分の人生に責任を持つという、とても勇気ある生き方だと言えるでしょう。
ベターハーフ(かけがえのないパートナー)を探す旅に疲れたら、一度立ち止まってみませんか。探すのをやめた瞬間、あなたはもう誰かを待つ必要がないことに気づくでしょう。あなたの人生は、もうとっくに始まっているのですから。
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