「親を嫌う自分が悪いの?」罪悪感と決別するための心理学|臨床心理士がアドバイス

「親を嫌う自分が悪いの?」罪悪感と決別するための心理学|臨床心理士がアドバイス
photoAC
佐藤セイ
佐藤セイ
2025-11-12

「親から頭ごなしに否定された」「親の止まらない愚痴に疲れた」…そんなときにふと「私、親が嫌いかも」という考えが浮かぶ人も少なくないはず。しかし、その瞬間「親を嫌うなんて酷い」「親のせいにしてはいけない」などの罪悪感が私たちを襲います。どうして親を嫌うと罪悪感に苛まれるのでしょうか。今回は親を嫌うことで生まれる罪悪感とその対処法についてご紹介します。

広告

どうして親を嫌うと罪悪感が生まれるの?

親を支える責任感

親を嫌うことに罪悪感を抱える人は、子どもの頃から「親を支える存在」になっている傾向があります。

例えば、

・家事を手伝う

・きょうだいの面倒を見る

・祖父母の世話をする

・親の介護をする

・バイトをして家計を助ける

・親の愚痴を聞く

などです。

このように親を支えてきた子どもは、「親は支えるべき存在」という価値観が強く心に刻まれています。この価値観は、大人になっても残ります。

一方、成長するにつれて「親から自立したい」という欲求も生まれます。そのため、親に反発したり、親を嫌ったりと、親と距離をとるような気持ちが湧きやすくなります。

しかし、親に反発したり、親を嫌ったりする思考が浮かぶと、幼少から刻み込まれた価値観が「親を嫌うなんてとんでもない」「親を支えられるように一緒にいなければいけない」と働きかけ、罪悪感を呼び起こします。

「親」に対する世間の価値観

日本社会では、「親孝行」という言葉が特に重みを持ちます。

「産んでもらった恩」「育ててもらった恩」は人生の中で繰り返し教えられ、親を大切にすることを「正しいこと」として学びます。

そのため、「親が嫌い」と感じた瞬間、自分が「親不孝な人間」になったような気がします。「親孝行できていない」「恩返しもしていない」と感じ、罪悪感を抱くとともに、周囲の目も気になってきます。

親 介護
photo by Adobe Stock

親を嫌う罪悪感との距離の取り方

「親」を1人の大人として認識を改める

「親を支えるべき」→「親を嫌うなんてとんでもない」という思考の流れが罪悪感を生む…とお話ししました。つまり、罪悪感と距離をとるには「親を支えるべき」という価値観をゆっくり手放す必要があるのです。

まずは、「親」を客観的に観察し、適切な認識を持ってみましょう。これまでは、親のことを「支えるべき弱い存在」と捉え、親を守ってきたかもしれません。でも、実は、親も立派な大人です。思っているよりは弱くないこともしばしばあります。あなたが支えたり責任を肩代わりしたりしなくても、自分で自分の人生や選択に責任を持てる(持たなければいけない)大人です。それを認識しましょう。

「親が嫌い」という自分の感情を認める

親のことを正しく認識できたら、あなたが抑え込んできた「感情」や「考え」を少しずつ取り戻してみましょう

これまでは「親が悲しむ」「親が喜ぶ」など、『親が』どう感じるかが優先され、自分の感情・思考は二の次になっていたと思います。それを「私が楽しい」「私が悲しい」など、『私が』どう感じるかに目を向け、動く心を大切にしていきましょう。自分の心が自由に動くことを許せば、罪悪感も薄れていくはずです。

もちろん、「『私は』親が嫌い」という感情も否定せず、「自然な感情だ」とありのまま受け入れてみましょう。

世間の声より自分の声を聞く

「親は大切にすべき」「親孝行すべき」といった「世間の声」に染められた価値観も手放していきましょう。

何の不満もなく「親孝行したい」と思えるのは幸せなことです。しかし、残念ながら、「親を嫌い」と感じてしまう私たちには、素直に「親孝行したい」とは思えないような心のひっかかりがあるようです。そのひっかかりを無視せず、「何がひっかかっているのかな」など自分に問いかけ、対応していくことが大切です。

「親が嫌い」という自分の声によ~く耳を傾けると「どういうところが嫌なのか」が、より詳細に見えてきます。無理に抑え込んでいた頃はしんどすぎて「何もかも嫌!」としか思えなくても、自分の声を丁寧に受け止めるうちに「年に1回くらいは会ってもいいかも」と声は変化するかもしれません。その声に従いながら、適度な距離や時間間隔で親に接していくと、「嫌い」という気持ちが少し落ち着く可能性があります

おわりに

「親が嫌い」と感じると、悪いことを考えているような気になるかもしれません。しかし、それはライフステージが「親と共に『子ども』として生きるステージ」から、「親から自立して『大人』として生きるステージ」に進んだ合図です。

「親が嫌いだ」と思ったとき、 無理に「親を好きになろう」とする必要はありません。少しずつ、自分の感情を認めましょう。そうすれば、親も自分も健やかに過ごせる距離感が見つかり、親への感情も「嫌い」から変化していくはずです。

広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

親 介護